イチダースノクテン 12 (最終回)

ようこそ、浅羽容子作・全力で迷子になる新感覚疾走文学『イチダースノクテン』へ! こちらは第12話です 最初から読みたい方はこちらの第1回へどうぞ


〜前回までの登場人物〜

点田はじめ(てんだ・はじめ)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴(あっぱれ)大学の学生╱ベーグルが好物╱鳩が苦手╱販売担当

鼻田八戸宗(はなだ・はとむね)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱通称「ハトムネ」╱身長2メートル╱鳩胸で鳩顔╱販売担当

円田揚治(つぶらだ・ようじ)……「まるあげドーナツ」店長╱ドーナツを愛する男╱金太郎のような丸顔

美田薫(みた・かおる)……「まるあげドーナツ」の新人アルバイター╱76歳の老紳士╱身長1メートル80センチ╱新作研究助手╱ひとみの養父

美田滋(みた・しげる)……美田薫の妻╱ひとみの養母

美田ひとみ(みた・ひとみ)……頭に赤いリボンをつけた鳩╱鳥締役社長╱ドーナツ店の開店準備中╱美田夫妻の養女╱宇宙動物

女田ワカ(めた・わか)……「まるあげドーナツ」の主婦パートタイマー╱自称24歳╱本当は74歳╱アルバイト歴21年╱販売と品出し担当

苦田綺麗(にがた・きれい)……「まるなげベーグル」店長╱「まるなげドーナツ」と敵対関係╱美人すぎる╱性格悪い

弱田世鷲(よわた・よわし)……「まるなげベーグル」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱「まるあげドーナツ」から転職╱小心者╱スパイ

牛田(うしだ)さん……カタツムリ╱ドーナツが好物

(はと)……ハト目ハト科カワラバト属カワラバト(ドバト)

動物(どうぶつ)たち……二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ドーナツが好物╱純金の100円玉を所持╱宇宙動物

柴田(しばた)……柴犬╱二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ひとみ経営のドーナツ店の店員╱宇宙動物

貫田(ぬきた)……タヌキ╱二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ひとみ経営のドーナツ店の仮店長╱本業は宇宙ツーリズム添乗員╱宇宙動物


「ポッポッポッ、ハトガポッポッ……」

自分を優しく撫でる懐かしい感触で瞳を開けたひとみの前にいたのは美田夫妻で、

「ポッポッポッポッポッー、ハトガポッポッ……」

と鳩歌を口ずさんでいるのだが、その静かな歌い方は、両親を亡くして泣く雛のひとみを美田夫妻が癒すように歌ってくれた10年前を彷彿させ、自然とひとみは二人に合わせ歌い始めると、その三人の歌声は息があった美しいメロディーとなりささやき森林公園中に響き渡った! すると――森中の鳩らが、ほかの鳥らが、そのほかのあらゆる動物が一体となり、美田親娘の歌に合わせて鳴き始めたのだ! ささやき森林公園を包む壮大なる鳩歌は、まるあげドーナツまで、スーパーなまずまで、宇宙までも届くほどである!

そして、しばらくして美しい鳩歌は終わり、ささやき森林公園が元に戻ると、美田は涙ぐんだ声で、

「ひとみ……ごめんよ……もう、鳩歌以外の歌を歌って欲しいなんて言わないよ」

と言うと、妻の滋も、

「ひとみちゃんの気持ち、分かってあげられなかったわ、ごめんね」

と目を潤ませると、ひとみは「ポッポ」と首を横に振り、

「ウウウン、私ガ悪イノ……父サン、母サン、家出ナンカシテ、ゴメンナサイ」

と言うと、三人はひしと抱き合い、

「ソレニ、レシピヲ勝手ニ持ッテイッチャッテ、ゴメンナサイ」

「もういいんだよ」

「いいのよ、ひとみちゃん」

「私、『鳩歌』シカ歌エナイノ……」

「そうかい、いい歌だからな」

「ひとみちゃんの『鳩歌』何度でも聞きたいわ」

「私、宇宙ノ鳩ダッタミタイ……」

「そうかい、最高じゃないか」

「素敵よ、ひとみちゃん」

「父サン、母サン、好キ」

「そうかい、お父さんもひとみが大好きだ」

「お母さんも大好きよ、ひとみちゃん」

「ドナツモ、好キ」

「そうかい、それは知っているよ」

「美味しいからね、ひとみちゃん」

「アト、ハトムネサンモ、好キ」

「そうかい、それは知らなかったよ」

「恋したのね、ひとみちゃん」

と話すと、ひとみは後方に立っていたハトムネに向かって飛び、ハトっとその逞しい肩に留まって「ポポ!」と喉をならしながら可愛らしく鳴くと、すかさず美田夫妻もハトムネに駆け寄り、

「ハトムネくん、ひとみを頼んだよ!」

「ハトムネさん、うちのひとみちゃんを幸せにしてくださいね!」

と真剣な表情で言うと、

「やめてくださいよー、僕、まだ学生ですからぁ」

とハトムネは返答したのであるが、どうやらまんざらでもない顔なのであった――

その後、美田はドーナツ修行を短期間でマスターし、スピード出世でまるなげドーナツの支店をオープンさせたが、その支店とは、ひとみが作ったささやき森林公園の奥地のあの店であり「まるあげドーナツ~ささやき森林公園店~」として、鳩や宇宙動物向けとして開店したのであるが、予想に反して人間のピクニック客も多く来店していて繁盛している――もちろん、まるあげドーナツ本店も変わらず人気であるのだが、ただ、もう鳩らはやって来ないので、鳩嫌いの点田は、

「あぁー、鳩が来なくて本当に嬉しい!」

と喜んでいるのだが、この本店がどこかひっそりとした雰囲気になっているのは、鳩らが来ないだけではなく、美田が退職し、ハトムネも美田の支店を手伝いに行くことが多くなったせいであり、店長も点田と同じように寂しい気持ちらしく、店先に出てきて「アルバイト募集中」の張り紙を見つめながらドーナツ臭いため息をついた――すると、向かいのまるなげベーグルからベーグルが飛んできた!

「うぐっ!」

「円田店長、大丈夫ですか!?」

その飛んできたベーグルは見事に円田店長の口にパカりとはまり、円田店長は思わずその口を動かしベーグルを食べてしまった!

「……ん!?」

さわやかで美味である! まるなげベーグルを見ると、苦田店長が口をパクパクと動かしているので、すぐに円田店長が双眼鏡を目にあてると、

「どーだ ドーナツ より うまいだろ」

と苦田店長の口元を読むと、その後、苦田店長は美しい顔を思い切り歪ませて舌を出して挑発するような態度を取ったので、

「ドーナツの方がうまい!」

と顔を赤くした円田店長が、ドーナツをベーグル店の苦田店長に向けて投げようとするが……! 円田店長は、おそらく自分はベーグル店までドーナツを投げることはできないだろう……と瞬時に判断したのか、投げる寸前でやめ、そのドーナツを紙に包むと、

「点田くん」

と点田に、ベーグル店にそのドーナツを持って行けという仕草をしたので、点田は恐る恐るまるなげベーグルまで行き苦田店長に渡すと、苦田店長は素直にそれを受け取ったので、点田は急いでまるあげドーナツに駆け戻り、カウンターの円田店長の横でまるなげベーグルを観察すると、苦田店長はパクりとドーナツを食べてから、

「マジー!」

と口を動かしていて、その後も、「あー、まずいっ」「本当にまずいっ」と言っている様子であるが、それでもバクバクとドーナツを全部食べてしまい、最後に「マジーぞっ!」とまるあげドーナツの方に顔を向け口パクで言うと、双眼鏡でその様子を見ていた円田店長も、「ベーグルの方がマジーよ!」と、残ったベーグルを美味しそうに丸呑みをして、苦田店長の方に向けて舌を出して挑発すると、それに反応した苦田店長がこちらまで届く大きな声で、

「マジーんだよっ、このくそ兄貴!」

と言った!

「兄貴!?」

「苦田綺麗……旧姓、円田綺麗……俺の妹だよ」

そう言った円田店長の金太郎のような顔……スリムにし、眉毛を整え、化粧をさせれば……! あの美人の苦田店長にそっくりであることを点田は気づいたのだ!

「綺麗は小さいころから、兄の俺の真似ばかりしていたんだが、ドーナツを食べてどんどん太って丸くなっていく俺を毛嫌いし、ドーナツの道を諦め、ベーグルの道に進んだんだ」

唖然とする点田に、円田店長は、口元についたベーグルの残りカスを指で集め舐めながら、

「あいつ、本当はドーナツが大好きなくせして」

と言った――そう、まるあげドーナツ対まるなげベーグルの戦い、それはスケールの大きい兄妹喧嘩だったのだ!

その時、調理室から焼き立ての新作ドーナツを持って現れたのは厚化粧の自称24才(推定74才)の女田で、

「点田くーん、今日のシフト、もう終わりの時間ねー」

と言いながら「はい、これ、新作ドーナツ、試食にひとつどうぞ」と新作ドーナツをひとつ手渡してくれたので、それを手に持った点田は、いがみ合う似たもの兄妹を残してアルバイトを終えたのであるが、ここで疑問が沸いた――

「そういえば、なんでうちのドーナツ店はアルバイトに一人も若い女の子がいないんだ?」

重大な問題に気づいてしまった点田は、新しいアルバイトが可愛く(本当に)若い女の子でありますようにと、ただひたすらに願い、帰り支度をして新作ドーナツをはむはむと食べながら、スーパーなまずに向かったのだが、その途中で紫陽花の花のそばに牛田さんがいるのを見つけ、

「牛田さん、お久しぶり!」

と挨拶すると、牛田さんは、

「コ ノ マ エ ノ ツ ヅ キ、 オ シ エ ル……」

とゆっくり触覚を動かし始め、

「ミ タ ハ ハ ト ト……、ナ カ ヨ シ」

と前に牛田さんを助けた時に中断した会話の続きを教えてくれたのだが、「美田と鳩のひとみが仲良し親子」ということはすでに誰もが知っていること……だが、プライドの高いカタツムリで、おそらく宇宙カタツムリであろう牛田さんに敬意を表し、

「それは知らなかった! ありがとう、牛田さん!」

と答える点田は、アルバイトを通して少し大人になったのかもしれない――しかし、そんなことよりも何よりも、一番大切なことは、今日も明日も明後日も、まるあげドーナツの宇宙的なうまさは永遠である、ということなのである。

(「イチダースノクテン」おわり)


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印刷・原画ともに、作者からの感謝の言葉を添え、葉書として投函します!

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応募締切 → 2020年7月7日まで                 
当選 → 発送(7月中旬を予定)に代えさせていただきます

※原画は下の見本とはデザインが異なります

主催:スーパーなまず

後援:まるあげドーナツ・まるなげベーグル・まるはげ寿司・まるみえ団子・まるのみ餃子・まるなめアイス


。。。。。。あとがき。。。。。。

「イチダースノクテン」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます! この物語には、ある仕掛けがあったのですが、皆様お気づきになられたでしょうか?

その仕掛けとは……

・タイトル「イチダースノクテン」→「1ダースの句点」の意味

・1話に1個の句点のみを使用/12話で12個の句点=「1ダースの句点」

・各話のイラスト → 同じサイズの句点(円)を元に描画

なのです!

では、地球は大変なことになっていますが、ドーナツはむはむしつつ元気に頑張りましょう――そして、またいつか惑星部屋 4649号室でお会いしましょう!

2020年6月23日(火)

浅羽 容子



<編集後記>

浅羽容子作「イチダースノクテン 12」、いかがでしたでしょうか?

ついに感動の最終回!!! ねmcぴっrげbhslgp`?%ああすみません、涙で目が曇って何も見えません! 連載最後に自己紹介いたします、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟と申します、作者をリスペクトし、句点少なめのハイテンションでお送りしてきました、ひとみちゃんと美田さんご夫妻の会話、最高ですね……壮大な兄妹喧嘩、結局まるあげドーナツを宇宙に売り込んでいたとは、愛がありますね……あと割引券の上から4個目の鳩の顔ドーナツが気にな……いえ涙で何も見えません、まるあげドーナツよ永遠に!

「惑星部屋 4648号室」の連載はしばらくお休みに入ります。新連載もどうぞご期待ください。ご感想・作者への激励&お疲れさまメッセージはこちらからいつでもお待ちしております。

本作『イチダースノクテン』は、「句点」「イラスト」などの楽しい仕掛けのみならず、物語の展開の迷子感とスピード感、惑わせる文体、謎めいているのに懐かしい魅力のキャラクター、すべてに新しさのある名作! 面白い小説・読み物を求めている方に自信を持っておすすめします。しかも7月7日まではフレッシュなまず祭りの太っ腹なWチャンスプレゼント企画もしていますので、ぜひSNS等での拡散、あるいはメールで、電話で、手紙・電報・飛脚・早馬で、お友達にもおすすめください!!
どうぞよろしくお願い申し上げます。

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>


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