イチダースノクテン 7


〜前回までの登場人物〜

点田はじめ(てんだ・はじめ)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴(あっぱれ)大学の学生╱ベーグルが好物╱鳩が苦手╱販売担当

鼻田八戸宗(はなだ・はとむね)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱通称「ハトムネ」╱身長2メートル╱鳩胸で鳩顔╱販売担当

円田揚治(つぶらだ・ようじ)……「まるあげドーナツ」店長╱ドーナツを愛する男╱金太郎のような丸顔

美田薫(みた・かおる)……「まるあげドーナツ」の新人アルバイター╱76歳の老紳士╱身長1メートル80センチ╱新作研究助手

女田ワカ(めた・わか)……「まるあげドーナツ」の主婦パートタイマー╱自称24歳╱本当は74歳╱アルバイト歴21年╱販売と品出し担当

苦田綺麗(にがた・きれい)……「まるなげベーグル」店長╱「まるなげドーナツ」と敵対関係╱美人すぎる╱性格悪い

弱田世鷲(よわた・よわし)……「まるなげベーグル」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱「まるあげドーナツ」から転職╱小心者╱スパイ

牛田(うしだ)さん……カタツムリ╱ドーナツが好物

(はと)……ハト目ハト科カワラバト属カワラバト(ドバト)

動物(どうぶつ)たち……二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ドーナツが好物╱純金の100円玉を所持


青空に白い満月が浮かび、そして、鳩が飛ぶ――円田店長の新作ドーナツのレシピを持ち去った頭に何か赤いものをつけた鳩は「天晴市立ささやき森林公園」へと消えたが、身長2メートルで筋肉自慢の鳩胸大学生ハトムネはもちろん見逃さずに追いかけていき、その後を元陸上部の点田も負けじと追っていて、二人は広大な敷地を持つささやき森林公園の奥へと向かい進んでいたのだが、途中の芝生が敷き詰められたピクニックエリアに入ると、そこには色とりどりの大きく丸い風船が数多く接地していて、その横に座っているのは……ポシェットをたすき掛けした例の動物たちであった! 片手にドーナツを持ちのんびりくつろいでいたが、まるあげドーナツの制服を着たまま激走していくハトムネと点田を見ると、

「ド!」

「ド!」

と言いながら手や尻尾を振ったり、食べかけのドーナツをかかげたりしているのは、ドーナツの美味しさゆえの自然な行動なのかもしれず、そんな動物たちに対してハトムネは、

「お客さーん! またご来店くださーい!」

と走りながら愛想よく手を振り返しているが、点田はそうする余裕はなく、「お買い物ロボなのに、こんな場所にいるなんて変だな?」と思い息を切らしながら芝生エリア全体を見渡した時、動物の中に知っている顔、人間がいる!?……そう、その人間は弱田である! 弱田は、まるなげベーグルの制服姿で、100年以上昔の昭和初期の駅弁売りのようなケースを首から下げ、何かを売っているようなのだが、それはベーグルであるのは明確であり、なぜなら苦田店長が純金の100円玉欲しさに弱田にベーグルの行商を指示したと推察されるからであるが、その思惑に反して売れていないようで、困ったような顔をさらに困ったような顔にしている弱田は、点田に気づくと、

「点田くーん! 鳩ならさ、あっちに飛んでいったさー!」

とハトムネが走っていく方向を指差したので、点田は、軽く顔を縦に振って応え、ますます距離を離されていく前方の筋肉鳩胸男ハトムネに追いつくように、遮二無二スピードを上げていく……と、しばらくして、先導していたハトムネに追いついたのだが、それはハトムネが速度を落としたからにほかならず、ゆっくりとした足取りのハトムネは、鼻と鼻横の白いイボをひくつかせて、周囲の匂いを嗅ぎながら、

「こっちだ」

と言うと森の奥へと続いている細い獣道をまっすぐに指さし、

「なぜか、俺、鳩がいる場所が匂いでわかるんだ」

と自慢げに鳩胸を張り、臆することなく草木が生い茂る獣道を進んでいくので、点田も後に従っていくと、徐々に木々が亜熱帯地方のごときトロピカルな形状になっていき、バナナやヤシの実まで結実していて、猿のような甲高い鳴き声も遠くから聞こえてくるし、樹上には極彩色の翼のクチバシが大きな鳥が留まっている上に、目の前を横切るのは玉虫色に輝く巨大な甲虫類や鮮やかで色とりどりな蝶といった有様で、それは市民公園とは思えないような密林であり、

「なんじゃこりゃ」

とハトムネを見失わないように跡を追っている点田は独りごちたが、

「お」

と急にハトムネの背中にぶつかり声をあげた……というのは、ハトムネがあるものを見て立ちすくんでいたからで、その理由とは、二人の目の前に木々がない明るい草地の一画が急に広がり、そして、行手を阻むような長方形の灰色の壁が現れたからだ!

「なんだ!? 灰色の壁……!?」

「点田、違うよ……よく見てみ」

「へ!? 灰色の壁が動いている……って、あれ全部鳩じゃん!」

壁の灰色は、びっちりと並んだ無数の鳩であった!

「うぅ……鳩がいっぱいで気持ち悪いよ……純金の100円玉なんかもういらないよ!」

と、盛んに首を動かしたり、羽を広げたりしている鳩らの灰色の生きる壁を目の前にして点田が全身鳥肌を立てていると、ハトムネは、

「鳩ポッポかわいいじゃんか」

と能天気にも灰色の鳩の壁へと近づいていくが、どうやら、鳩らは巨大な鳩のように見えるハトムネに怯えている様子で、必死に耐えてその場から離れないでいるようなのだが、それは何かを守っているようにも思える……と、その時!

「ボッボッボー!」

とハトムネが老練でハードボイルドな鳩のボスのような例のくしゃみをしたのだ! ハトムネの鳩的脅威に鳩らが耐えられるはずもなく、「ポポー!」と鳩らは一目散に飛び立っていってしまうと、

「げほっ」

「ぐほっ」

と点田とハトムネは、鳩らが舞いあげるほこりにむせてしまったのだが、目をあげた時、鳩の壁の背後に隠されていたものが出現していた! それは、建物である! 木材というより小枝を組み合わせてできた建物で、屋根部分は赤い……!

「なんじゃこりゃ!」

点田とハトムネがその建物に近づいて見ると、屋根の高さは、ハトムネの視線の高さより少し低いくらいで、屋根の赤いものは、赤い色をした廃材なのが分かったが、中には使えそうな赤い品物も混ざっている……そう、見覚えがある赤いもの、老眼鏡・老眼鏡ケース・靴下・学生手帳、そして、シャープペンシルもある! それらを見つけた点田とハトムネは、

「盗難品がこんなところにある!」

「とりあえず、円田店長に連絡しておくよ」

と話し合い、

「円田店長? 窃盗鳩集団のアジトを突き止めました! 場所は、ささやき森林公園の……」

と点田が腕時計型携帯電話で円田店長に報告している間、ハトムネは「こんちはー」と言いながら、勝手に建物の小さな入り口を大きな体を半分に折り曲げるようにかがみながら、入っていってしまったので、

「ハトムネ! 待てよ! 置いてくなよ!」

と点田は電話を早々に切り、ハトムネの後に続いたのだが、中に入った点田が思わず、

「あっ!」

と声を上げてしまったのは、そこは、まさにドーナツ店そのもので、正面にはショーケース兼カウンターがあり、その奥には厨房が見えたからであった。

(つづく)


浅羽容子作「イチダースノクテン 7」、いかがでしたでしょうか?

ポシェットをたすきがけにする二足歩行の動物たちは点田の言う通りお買い物ロボなのであろうか? だとすると牛田さんもロボ? そういや牛田さんは純金の100円玉持っていたっけどうだっけ(正解はイチダースノクテン 4を見よ!)? いやロボかどうかと純金の100円玉は関係ないでしょ、だいたいロボが純金て変でしょ? もう色々気になって仕方がないけどとりあえず円田店長、1万円の靴下見つかってよかったですね……なんてことだけが今回の見どころでないことはこれを読んでいる皆様もうご存知の通り、灰色の壁が除かれ現れた謎のドーナツ店の正体は!? スタンプ集めて、待て、次回!

ご感想・作者への激励のメッセージをこちらからお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに。

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