別訳【夢中問答集】第四十六問 他人の批判をしてはダメ? 1/3話

足利直義:昔の偉い人は「本当にものごとのわかった人は他人の批判などしないものだ」と言ったそうです。

確かにそれはそうなんだろうとは思うのですが、世間で暮らしていると他人の振る舞いを良くも悪くも批判的に見てしまいます。これってやっぱりダメなのですかね?

夢窓国師:「本当にものごとのわかった人は他人の批判などしない」というのは、「実際には良し悪しがあるのだけど我慢して言わないようにする」という意味ではない。

自分と他人の区別などないということを悟っているから、そこに良し悪しのつけようがないというだけのことじゃ。

禅宗の第三代伝承者である僧璨(そうさん)和尚は「この世の真実の姿を見たとき、そこには自他の区別などない。それは大海原のように底なしで、良し悪しの区別など受け付けないのだ!」、とおっしゃった。

その理屈がわからないから「自分と他人」などという区別が生じてしまうのじゃ。
自他の区別があるならば、どうしたってそこに良し悪しを見ていろいろと批判したくなってしまう。

そして他人に対して批判的な気持ちを持ってしまったならば、実際に口には出さなかったとしてもそいつは修行者失格じゃ。

よく考えてもみろ。
他人を批判しようとしているオマエはいったい誰なのだ?

「いや、それは自分で・・・」とか言いたいところじゃろうが、円覚経には「様々な元素が寄り集まった塊りを「自分」だと思い込み、感覚器官の発する電気信号を「自分の心」だと思い込む」と書かれておる。

つまり世間の人々が「自分」だと思っているものは全然「自分」でもなんでもないということじゃ。

「自分」が既に錯覚なのだから、「他人」も実在しない。

そんな状況でいったいどうやって「他人の批判」などしようというのじゃ?

世間で人格者と呼ばれる者たちは表立って他人の批判をしないものの、心の中では良し悪しをきっちり区別してアイツは賢いとかバカだとか決めつけておる。

そんなことではとても究極の真実の境地になど至れるわけがないよなぁ。


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