マーヤ達に捕まったあたしは、とどろき山を出て、何日も歩いた。
その間、マーヤはあたしには口も聞かずに、紙に妖精やドラゴンの絵を描いていた。
何日目かの夜、あたし達は海に着いた。そこには大きな大きな船が停まっていた。
あたしは海を見るのも、大きな船を見るのも、初めてだった。
学校に置いてある絵本でしか、海なんか見た事がなかった。
「レーチェル、その船に乗るわよ。お父さんが私たちの事を待ってるわ」
とマーヤが冷たい口調で、あたしに言った。
あたしは、泣きそうになりながら、マーヤと怖い男たちに連れられ、その船に乗った。
あたし達が船に乗ると、すぐに船は動きだした。
まるで、誰かから逃げているみたいだった。
あたし達が乗った船は、月明かりが射す海の上を静かに進んでいった。
「この船はお父さんの船よ。この他にもお父さんは、たくさん船を持っていて、たくさんの国々で商売をしているの。ついてきて」
そのように言って、マーヤは船の中の、長い廊下を歩きだした。
あたしは、恐る恐るマーヤの後をついていった。
もし、エレンも海に来ているんだったら、早くあたしの事を助けてほしかった。
廊下の突き当たりまで歩くと、そこに木の扉があった。
マーヤがその扉を開くと、中には二人の男がいた。
一人は、とどろき山で会った魔術師、ゾーラだった。
ゾーラは椅子に座り、古そうな本を読んでいた。
もう一人の男は、あたしを見ると言った。
「君がレーチェルだね?私はヴァイーラ、マーヤの父だ。ようこそ、わがフリゲート艦へ。・・・・長旅、疲れたであろう。椅子にでも座り、休みなさい」
ヴァイーラと名乗った男は、口調はとても丁寧だったけど、なんの感情もこもっていなかった。
あたしが泣きべそをかきながら、椅子に座るとヴァイーラは言った。
「さて、色々と聞きたい事はある。まずは『光の剣』がどこにあるか、教えてもらおう」
ヴァイーラが言っている「光の剣」とは、エレンが持っているナイフの事だと分かっていた。
こんな男に、そんな事、教えるものか!
あたしは、ヴァイーラを睨みつけ、口を固く閉ざした。
ゾーラは読んでいる本をテーブルの上に置きながら、言った。
「『光の剣』のありかを知っていながら、隠しているようだな。まあ、いい。
おまえを人質にした事はエレン達に伝えたから、もう間もなく、お前を助けに現れるだろう」
「ゾーラ殿、そんな手ぬるい事でいいのかね?私の部下達の情報では、フレムが潜伏しているギルドは武器と人を集め、我らを攻撃しようとしているのですぞ」
ヴァイーラとゾーラは、あたしには、なんの事なのか分からない事を話し始めた。
「伯爵、心配なさるな。オレはこの船を中心に大きな結界を張っている。そうそう簡単には我らの居場所も動きも相手に知られる事はないでしょう。伯爵はその間、ありったけの船と兵を集めなさるが、よい。我らは一気にここで、決着をつける」
ゾーラがそのように言うのを聞き、ヴァイーラは初めてニヤリと笑った。
「なるほど。ようやく、魔術師同士の対決が見れるわけですな・・・・。それは、面白い」
そのように言うと、今度はマーヤの方を向き、言った。
「マーヤ、客人を船室へと案内してあげなさい。私とゾーラは、まだ話す事がある」
あたしはマーヤに連れられ、ヴァイーラとゾーラがいる部屋を出た。
「ねえ、マーヤ、あなたのお父さんは悪い人でしょう?どうして、こんな事をするの?」
答えてくれるか分からなかったけど、あたしはマーヤにそう聞いてみた。
「知らないわ。もしかしたら、お父さんは悪い事をしているのかもしれないわね。・・・でも、もしゾーラが『魔術の国』を復活させてくれたら、再び、ドラゴンや妖精を見る事ができるのよ!素敵な事だわ!」
と言いながらマーヤは目を輝かせた。
マーヤはあたしを連れて、階段を降り、薄暗い部屋の前で止まった。
「ここよ。レーチェル、入りなさい」
あたしが、その薄暗い部屋の中に入ると、マーヤは扉を閉め、ガチャリと鍵をかけ、どこかへ行ってしまった。
あたしは、その薄暗い船室の中で一人きりになった。
あたしは、とどろき山にいるお母さんの事が心配になってきた。
早くエレンに来てもらって、あたしの事を助けてほしかった。
あたしは、思いっきり涙を流して泣いた。
――――続く
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