・・・・ワシの狙いは最初から、あの馬にあった。
ワシの目に狂いがなければ、エレンのあの馬は、ワシが長年探していた伝説の「一角獣」に違いなかった。
最初に市場であの馬を見かけた時、あの馬は電気の実を食べていた。
ワシが読んだ古文書によれば、一角獣は稲妻を角で受け、その力で世界を癒すという。
長年ワシは、電気を売りながら旅を続け、一角獣を探していた。
やはり伝説は伝説にすぎないのだと、諦めかけていた時に、電気の実を食べる馬を市場で見つけたのだ。
一目見て、この馬はただの馬ではない、とカンが働いた。
古文書に描かれている一角獣のような角も生えておらず、見かけはただの白い馬なのだが、
一角獣は人語を理解し、話す事もできるという。
確かに、ジョーという名のこの馬は、ワシらが話す事をよく理解しているように見える。
最初ワシは、この馬を盗もうと考えていた。
しかし、その時、エレンの方からワシに話しかけてきた。
このエレンという小僧はワシに「電気の取れる所を教えてほしい」と言ってきた。
これもただの偶然とは思えなかったので、馬との交換を条件にワシはエレンを海まで連れていく事にした。
エレンの携えていたセラミックナイフも気になった。
一角獣の事が記された古文書には「クラウ・ソラス」と呼ばれる輝く剣の事が書かれていたからだ。
古文書によれば、「クラウ・ソラス」は闇夜をも切り裂く事ができ、その光で神々をも滅ぼす事ができるという。
ワシは長い事、いにしえの知恵と知識の探求を続け、そして神々の痕跡を求め、旅を続けていた。
もうだめだ、これ以上は謎を知る事はできぬだろう、とサジを投げかけていたのだが、そんな時にワシは市場で手がかりとなりそうな小僧に出会ったのだ。
・・・・しかし、仮にこの馬が伝説の一角獣で、ナイフが「クラウ・ソラス」だったとしたら、なぜこの小僧がそれらを所有しているのだろうか?
まあ、おそらく本人も知りはしないだろう。
その理由はきっと、この旅で明らかになるに違いない。
町を出てから一晩目の夜が明け、ワシとエレンは馬車に乗り、再び南へと馬車を走らせた。
次の朝には、行く先に海が見えてくるだろう。
エレンは相変わらず、ワシの事を警戒していて、黙り込んだまま手綱を握っていた。
ワシはエレンに聞いてみた。
「エレン、お前の父も電気売りだったんじゃな?」
エレンは、その歳にしては随分と大人びた目つきでワシの事を睨み、答えた。
「そうだよ。僕のお父さんは、とても腕のいい電気売りだった。・・・・でもある日、稲妻に打たれて死んでしまった」
やはりな。
ここ数年、次々と腕利きの電気売りが死んでいる事はワシも知っていた。
たまたま雷に打たれて死んだ、とは考えにくい。
エレンの父もまた、他の電気売りのように殺されてしまったのだろう・・・・。
きっとこの旅は、危険に満ちたものになるだろうな。
ワシはなくしてしまった右腕があった所に、疼くような痛みを思い出していた。
――――続く
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