僕とフレムが漁師たちの集落に来てから、何日か経った。
そして、ようやく海で漁をする許可を長老からもらう事ができた。
その間、僕は海の事や電気クラゲの事をフレムから教わっていた。
電気クラゲは、とても深い海に住んでいる、とフレムは言った。
「よいかエレン。おまえも電気売りなら分かるじゃろうが、電気クラゲには鉄でできた銛などは通用せぬ。漁師たちは、電気の実を使って、その光で電気クラゲをおびき出し、網などで捕まえるのじゃよ」
そうだったのか。僕が市場で売っていた電気の実は、そのような使われ方もされていたんだ・・・。
フレムは話を続けた。
「・・・しかしワシはちょっとした魔術を使って、電気クラゲを捕まえておる」
フレムは壺から、乾燥した海藻を取り出して僕に見せた。
「この海藻は、ここらの最も深い海底で獲れた海藻じゃ。ワシはこの海藻に魔術をかけておる。
これを食べると、その日1日は海の中でも陸にいる時のように、息ができるのじゃ。
ワシらは海に潜り、大物の電気クラゲを狙う。電気クラゲは大きければ大きいほど、いい電気が取れるでな」
そう言ってフレムはニヤリと笑った。
次の日の朝。
僕らは長老から借りた小さな船に乗り、海に出た。
船は風に乗り、陸からどんどんと離れていった。
海に潜るのが少し怖かったけど、初めて嗅ぐ潮風の匂いや、綺麗な海の青さに僕はワクワクしていた。
背後で港町が見えなくなって、太陽が少し高くなってきた頃、フレムは帆を降ろして船を止めた。
フレムが海藻を取り出し、口に入れたので、僕も同じように海藻を口に入れた。
とても苦かったけど、無理やり、それを飲み込んだ。
フレムが言った。
「エレン、泳げるのかね?」
「大丈夫だよ。よく川で泳いでいたから」
僕は少しドキドキしながら答えた。
「よかろう。よいか、ワシは木の銛を使って電気クラゲを仕留める。おまえは、その光る剣を使いなされ」
そのように言うと、フレムは銛を左手に持ちながらザブンと海に飛び込んだ。
僕も続いて、海に飛び込んだ。
ゴボゴボゴボと僕らは海の中へと入っていった。試しに、海の水を飲み込んでみたけど、不思議な事に海の水が口の中で空気に変わっていった!
僕は、海の中でも息ができた。
やはり、フレムの魔術はすごいや!
「エレン。もっと深く潜るぞ。電気クラゲは、とても深い所に住んでおるでな」
とフレムが僕に言った。
どうやら、僕らは陸にいる時と同じように、話もできるようだった。
僕らは深く深く海を潜っていった。
海の水は最初は冷たく感じたけど、慣れてくると、とても気持ちが良かった。
僕は魚になったような気持ちで泳いでいった。
海を深く潜っていくと、太陽の光が届かなくなってきて、次第に暗くなってきた。
すると、その先にポツリと何かが光っているのが見えた。
「エレン、おったぞ。あれが電気クラゲじゃ。あいつらは目が悪いんじゃよ。気がつかれぬように静かに近づくからな」
僕の先を泳いでいたフレムが言った。僕らは音を立てないようしながら、電気クラゲに近づいていった。
電気クラゲは一匹だけではなかった。
近づいていくと、そこには何十匹もの電気クラゲが群れをなし、光り輝きながらユラリユラリと泳いでいた。
それらは、まるで町の聖堂で見たシャンデリアのようだった。
僕はしばらく、電気クラゲの群れに見とれていた。
「エレン、挟み撃ちにして、あの一番大きなクラゲを仕留めるぞ!」
フレムは小声で僕に言い、木の銛をその大きな電気クラゲに向けた。
僕もポケットからセラミックナイフを取り出し身構えた。
取り出したナイフは、暗闇の中で光り輝きだした。
僕とフレムが、その大きな電気クラゲを両側から挟み撃ちにして、そして銛とナイフで狙いを定めたその時、
「まって、その子達を殺さないで!」
と声がした。
僕とフレムは驚いて、その声がした方を振り向くと、そこに光り輝く女の人がいた。
とても綺麗な女の人だった。
でもその人は、下から半分は魚だった。
「人魚だ!」
僕は驚き、叫んだ。
その人魚が言った。
「そうです。わたしは人魚です。わたしは、人魚の女王です。そして、その子達は元々は人魚族なのです。
『力』をなくした彼ら人魚族は、今は姿を変え、電気クラゲになってしまったのです・・・」
――――続く
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