エレキギターの冒険(後編)

エレキギターに生まれ変わったアコースティックギターを見て、ウクレレは飛び上がるほど驚きました。ーーでも、ウクレレは形が変わった彼の事を受け入れました。
演奏を聴くと、やはりその音楽心は変わってはいなかったのです。
エレキギターはさっそく街角に立ち、演奏を始めました。曲は、村に伝わるあの曲ですが、もう全く印象が違う曲に聞こえました。

町行く人々は、足を止めエレキギターの演奏に聞き入っています。
それは今まで聴いた事もない、魂を貫くような音色でした。
「なんという斬新な音だろうか! まるで天国から響くような音にも聞こえるし、地獄の底から湧き上がるような音にも聞こえる! 」

エレキギターは特に若者の心を捉えました。
エレキギターが街角に立つと、多くの若者が集まるようになったのです。
その人気ぶりを見たレコード会社の社長は、エレキギターに言いました。

「ウチからレコードを出さないかね? 君はきっと若者の間でカリスマになれるに違い無い! 」

エレキギターはレコード会社の音楽スタジオで、レコーディングをしてレコードを出す事になりました。エレキギターは、村に伝わるあの曲を魂を込めて演奏をしました。
エレキギターが演奏した曲が発表されると、たちまちのうちに、曲は国中で人気になりました。
レコードは飛ぶように売れました。

今までオンボロのアパートで暮らしていたエレキギターは、同棲していたウクレレと一緒に高級マンションに移り住みました。
レコード会社の社長がエレキギターに言いました。
「ファンが次のアルバムをまっている。次のアルバムを出さないかね? 」

エレキギターは誰よりも素晴らしい演奏ができるのですが、しかし曲が書けません。

「わたしが曲を書くわ」とウクレレが言いました。
ウクレレは、いい音楽を聴いて育っていたので、作曲をする才能があったのです。
さっそく、次のアルバムはウクレレが曲を書き、それをエレキギターが演奏をしました。
二作目のアルバムは、発売されると大いに話題になりました。
ウクレレは感受性が豊かなので、若者の心を捉える曲が書けるのです。

レコード会社の社長は二人に言いました。
「若者たちは、大人に怒っているのだ。大人たちは争いばかりをして、環境も破壊され、景気も悪くなって、生活は苦しくなり、未来が見えないのだよ。君たちはそこに訴えかけるのだ」

有名になったエレキギターは国中をツアーをして回りました。
どこに行っても、エレキギターは若者の間で人気者でした。
しかし、その人気絶頂の中、悲劇がエレキギターとウクレレを襲いました。
人気者になったエレキギターは有頂天になり、酒を飲み、車を運転して交通事故を起こしたのです。

車に乗っていたエレキギターとウクレレは大怪我をしてしまいました。
エレキギターの中身の機械はボロボロに壊れ、ウクレレのネックは完全に折れてしまいました。
二人は、エレキギターが改造手術を受けたクリニックに運び込まれました。

医者は二人の様子を見て、エレキギターに言いました。

「……ウクレレの命はもう長くはない。そして、君は二度と音を出す事はできぬであろう。
しかし、方法はひとつある。ウクレレが君に命を捧げるのだ。もし、ウクレレのボディーを君の体に移植すれば、君はもう以前のような音は出せないが、命だけは助かるだろう」

息も絶え絶えになりながらウクレレは医者に言いました。
「……先生、もう私は死んでしまいます。無駄死にはしたくはありません、ぜひそうしてください」

エレキギターは、ウクレレの申し出に泣きながら反対しましたが、でもウクレレの決心は変わりませんでした。
二人は麻酔をかけられ、移植手術が始まりました。

エレキギターが目をさますと、元のアコースティックギターに戻っていました。
しかし、体はウクレレのボディーで継ぎ合わされていました。
アコースティックギターは泣く泣く、ウクレレのネックを墓地に埋め、そして曲を奏でました。
とても悲しげな音でしたが、もうエレキギターだっだ時のような艶やかな音ではありません。

次第に、アコースティックギターは人々から忘れられていきました。
もう曲を書いてくれるウクレレもこの世にいません。
アコースティックギターは町を後にし、山奥の自分の村へと帰る事にしました。

村に帰ると、村の子供達は皆、大人になっていました。
彼ら/彼女たちは姿が変わったアコースティックギターを暖かく迎えいれました。
「あなたは、僕たちのヒーローでした。ぜひ私たちの子供にあなたの曲を聴かせてあげてください。皆、喜びます! 」

アコースティックギターは村の広場に行き、子供達の前でウクレレが書いた曲を演奏しました。
それは元々は若者たちの怒りをテーマにした曲でしたが、とても悲しげで優しい曲に聞こえました。
子供達は口々に言いました。
「いい曲だね! 」「綺麗な曲ね!」

子供達がそのように言うの聞き、アコースティックギターは嬉しくなりました。
アコースティックギターは、ウクレレのボディーが継ぎ合わされた部分を撫でながら言いました。

「僕たちは、ようやく一緒になれたんだね。ずっとこの村に住もう、これからも」

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