なんでも食べちゃうぞ

あるところに、食べることがとても好きな怪獣がいました。
怪獣は頭がよく、友達にも優しいのですが、とにかく食いしん坊なのです。

怪獣が野原を歩いていると、綺麗な花々が咲いていました。
「おいしそうな花だな~」
怪獣は野原に咲いている花を全部、食べてしまいました。

野原には立派な木が生えていて、怪獣の目にはモコモコとしたブロッコリーのように見えます。
「おいしそうな木だな~ 」
怪獣は、その木も食べてしまいました。

花と木を食べた怪獣は喉が乾きました。
「あ~ 、喉が渇いたな……」
野原で大きな池を見つけた怪獣は、池の水をゴクゴクと全部飲んでしまいました。
野原から花や木や池がなくなったので、そこに住む動物達や昆虫達は困りました。

ミツバチが怪獣に言いました。
「ねえ、花を食べてしまったら、僕たちはハチミツがとれないじゃないか! 」
木に巣を作っていたヒヨドリも言いました。
「木を食べちゃったら、わたし達の住むところが無くなっちゃうじゃない! 」
池に住んでいたウシガエルも言いました。
「池の水がなくなると、ワシらはとても困るのだがね! 」

友達思いの怪獣は、申し訳なさそうに返事をしました。
「ごめんよ、ごめんよ。とてもお腹が空いていたんだ。……もうこんな事はしないから、僕の事を嫌いにならないで! 」
動物達や昆虫達はしかたがなく、怪獣を許してあげました。

でも、いつだって怪獣はお腹を空かせているものなのです。
怪獣は海に行きました。
心優しい怪獣は、綺麗な景色が大好きです。
「うわ~ 。青くて綺麗な海だな! 」

海には色とりどりの魚が群れをなして泳いでいます。海の底にはエビや貝もいました。
怪獣はそれらを見て、ゴクリと喉を鳴らしました。
怪獣はザブリと海に飛び込んで、魚やエビや貝を捕まえては食べていきました。
とてもお腹が空いていたので、怪獣はいくらでも食べることができました。

ザトウクジラが怪獣に言いました。
「怪獣くん! そんなに食べちゃうと、ボクらが食べるエビがいなくなるよ! 」
タテゴトアザラシも言いました。
「私の好きな貝を、そんなに食べないで! 」
シロカモメも言いました。
「君が来ると、海の魚がいなくなっちゃうよ! 」

心優しい怪獣は、申し訳なさそうに返事をしました。
「ごめんよ、ごめんよ。とてもお腹が空いていたんだ。……もうこんな事はしないから、許して! 」

でも、もうすでに手遅れ。
海には魚やエビや貝が、ほとんど居なくなっていました。
怪獣は海の動物達や鳥達に謝りながら、海を後にしました。
たくさん食べたので、怪獣の体はとても大きく大きくなりました。

どれぐらい大きいかというと、海に住むクジラよりも遥かに大きな怪獣になっていたのです。

大きくなったので、怪獣のお腹はいつでもグーグーと鳴っています。
「ああ……お腹が空いたな。どこかに、たらふく食べるものはないかな? 」

大きくなった怪獣は山にやってきました。
ーー怪獣の目には、山は美味しそうなサラダのように見えます。
よだれを垂らしながら、怪獣はガブリと山にかじりつき、丸ごと山を飲み込みました。
そして次々に、まわりの山を食べていきました。
山がなくなったので、地面は平らになって、赤茶けた大地に変わってしまいました。

怪獣が空を見上げると、綿菓子のように美味しそうな雲が浮かんでいます。
「美味しそうなデザートだ! 」
怪獣は、手を伸ばし雲を掴んで、次々に雲を平らげていきました。

空に雲がなくなったので、大地には雨が降らなくなってしまいました。
ふと気がつくと、大地には何も食べるものが残っていません。
山も木々も怪獣が食べてしまったので、動物達や昆虫達や鳥達は住むところも、食べる物もありません。
友達思いの怪獣は、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

「僕のせいで、海にも山にも食べ物がなくなり、雨も降らなくなってしまったんだ……」

怪獣はみんなに合わせる顔がありません。
怪獣はお腹を空かせながら、大きな体を引きづり、何も残っていない大地を歩いていきました。
夜になり、怪獣は赤茶けた大地に横たわり、涙を流し始めました。
「みんな、ごめんよ。ごめんなさい……」

怪獣の目から、飲み込んだ池や雲の水が溢れ出し、赤茶けた大地に流れていきました。
怪獣は涙を流しながら、やがて動かなくなりました。側には大きな湖ができました。
朝になり、動かなくなった怪獣の体から、花や木の芽が生えてきました。
怪獣のお腹の中には、花や木の種がつまっていたのです。

怪獣の体から生えてきた芽は、どんどんと大きくなり、怪獣の体を包んでいきます。
怪獣は、花や木々が生い茂る、山になりました。
ーー動物達や鳥達や昆虫達は、山を見て喜びました。
みんなは、その山が元々は怪獣だとは知らずに、山に移り住んできました。

花の間を飛びまわっていたミツバチが言いました。
「こんなにたくさんの花が咲いているのに、怪獣はどこへ行ってしまったんだろうね? 」
木の上で巣作りをしているヒヨドリが言いました。
「怪獣は食いしん坊だったけど、わたし達には優しかったわ。君は可愛い、とか、花や山や木々が綺麗だと、いつもわたし達のことを褒めていたのよ…… 」
山のふもとの湖に住むウシガエルが言いました。
「そうじゃ! この山にもっと生き物が増えると、きっと怪獣も戻ってくるじゃろう。なにせ、アイツは食いしん坊じゃからね」

動物達や昆虫達や鳥達は、山をもっと綺麗で美味しそうに見せることにしました。
食いしん坊の怪獣は、皆から迷惑がられていましたが、やはり居なくなると寂しいものです。
そして何年も経ち、様々な動植物が住む美しい山になりました。
みんなは待ち続けました。食いしん坊の怪獣が戻ってくるのを。
豊かになった山を見て、怪獣はきっと言うでしょう。

「美味しそうだな! そして、なんと美しい生き物達、なんと綺麗な山なのだろうか! 」

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