Twitterでお話しました
みなさまこんにちは。
「妄想生き物紀行」編集担当、ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。
今回も、ポッドキャスター・ぐっちーさんのエッセイ「チョウ〜あなたは完全変態ですか?それとも不完全変態ですか?」を読んで、ぐっちーさんにあれこれお聞きしたもようを、お伝えいたします。
先週のぐっちーさんのエッセイをお読みいただくとより楽しめる内容です。
節穴ども、蝶の舞を見よ!
エッセイに書かれていたチョウの飛び方、不思議です。調べてみると一秒間に10回くらいはこの羽ばたき&胴体の方向転換をしているとか。本当に? そのつもりでチョウをよ〜く見れば納得できる? ちょうどそのへんにチョウがたくさん飛んでいる季節なので観察してみましたが……
ぐっちーさん @mousou_guccy は、チョウの前方⇆上方のシフトが目視でわかりますか? 私にはそう言われて見ても、胴体は安定させたまま羽ばたいている気がしてしまいます。(私の動体視力がショボすぎるというのも大いにあり得る線ですが)これが噂の「速すぎて止まって見える」というやつ?
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 17, 2022
これが見ても全然わからないのですよ。どう思いますか、ぐっちーさん。
私の目は節穴だと言われてきておりましたので参考になりませんが、全くわかっておりませんでした
下記のアドレスでスロー映像が見られますよhttps://t.co/qtKwDH9Xit— ぐっちー (@mousou_guccy) August 17, 2022
おや奇遇。節穴仲間。
ここまでゆっくりにしてもらえると私にもわかります! かなり大きく、せわしなく動いているのですね。私のような我こそはという節穴目の人はこれ見てびっくりしてほしいものです😲
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 17, 2022
全世界の節穴目のみなさん、この動画を見るといいですよ。
チョウにとっては造作もないことなんでしょうが、すごいですよね
人間にとって二足歩行は造作もないことかもしれませんが、他の生物から見れば凄いことです— ぐっちー (@mousou_guccy) August 17, 2022
二足歩行、けっこう難しいですよね。時々、歩き方や走り方がゲシュタルト崩壊します。すごいことをやっているのだから当然だったのですね。
ザ・グレートドリーム 胡蝶の夢
シャルル大熊さんから、「チョウ」「ガ」の名称についてコメントをいただきました。
音や字面のイメージも「チョウ」は繊細な感じで、「ガ」は不愛想な感じがします。
そして「ぐっちーさん理論」によれば1文字語である「ガ」の方が、良くも悪くも人間にとってインパクトある存在だったことになりますね。— シャルル大熊 (@charles_okuma) August 20, 2022
妄想生き物紀行ではもうお馴染み、ぐっちーさんの「文字数が少ないほど身近な生き物である説」に従えば、ガのほうがチョウよりも日本人にとって身近であったということですね。
そうなのですが、執筆中に調べたところ以下のような記述がありました
「日本語では、ハエ、ハチ、バッタ、トンボ、セミなど多くの虫の名称が大和言葉(固有語)であるのに対し、この蝶と蛾に関しては漢語である。」(Wikipedia)
もしかしたら中国ではインパクトのあるインセクトなのかもしれません
— ぐっちー (@mousou_guccy) August 20, 2022
インパクトあるインセクト。さりげなくオヤジギャグをはさんでくるぐっちーさんですが、それはさておき。
なんと!大和言葉は駆逐され忘れられてしまったのでしょうか。それともまさか大昔の日本にはチョウやガがあまりいなかった?
— シャルル大熊 (@charles_okuma) August 20, 2022
チョウもガもそもそも日本語ではなかったとは驚きですね。
詳細は不明ですが、もしかしたら荘子の胡蝶の夢が伝わり、かっこいいとされるようになったことで外国語を使うようになったかも
とっくりセーターをタートルネックと呼ぶようになったように— ぐっちー (@mousou_guccy) August 20, 2022
胡蝶の夢。世界一有名な偉大な夢オチ話です。同時に、登場するチョウも世界一有名なチョウなのでは。紀元前300年とかそのあたりの話ですから、古くから漢語の「チョウ」が移入されて定着してしまったとしたら、チョウを表す和語がもともとあったとしても、今では全然なじみのない、ピンとこない語感と感じるかもしれません。
確かにありそう。今にとっくりがタートルネックボトルに変わるかもしれません。「胡蝶の夢」はインパクトありますからね〜(誇張と胡蝶をかけてうまいこと言おうとしたが思いつかず自粛。あとは頼みました……😆)
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 21, 2022
誇張の夢、じゃない胡蝶の夢について整理してみますと、
夢の中で荘周(荘子)が蝶になり、自分が荘周であることなどすっかり忘れ楽しく飛び回っていたが、目が覚めた。この時、果たして自分が蝶になった夢を見ていたのか、今の自分が蝶の見ている夢なのかはわからない。しかしどちらであっても大きな違いはなく、形が変化しただけでどちらも自分という主体である点に変わりはない。
というような話ですが、わたくし思いますに、
この現実が「チョウが人間になった夢」だとしたら、チョウであったことなどすっかり忘れて人間のつもりで楽しく飛び回っているのだとしても、幼虫から蛹、蛹から成虫に変態した記憶があるのではないでしょうか。鮮明な記憶でなくとも、体の感覚のようなものが。
一方、チョウになったつもりで楽しく飛び回っている人間の感じ方は、人間の身体性に基づいてチョウの形を体験しているに過ぎません(チョウとしての記憶があるはずだというのも極めて人間的考察ではありますが)。
しょせん他者のことは理解不能であるにしても、理解不能にも想像不能にも段階があります。自分が蝶か人間かは本質的な違いではないという理屈には、1でなければ全部0みたいな乱暴さがあり、理解不能な他者へのリスペクトに欠けた話ではなかろうか。昆虫なめんなよ。
いや、しかし人間に関する理解にいちじるしい欠損がある場合、逆に結論することも可能です。「何だか昔は全然違う姿をしていた気がする」「幼少期は葉っぱが好きだった」「最近赤外線が見えない。単眼不便。複眼どこ行った」「どうも人間のすることがわからない」「二足歩行難しい」「人間としてのこれまでの記憶が嘘くさい」「ていうか花の蜜吸いたい」などとモヤモヤしているあなた。人間を理解できないのはあなたが人間ではないからで、今は蝶が人間になった夢の中にいるのかもしれないですよ。
どちらにせよ私は、荘子が「本質ではなく形の変化にすぎない」と言った「形」が案外大いに本質に関わるのではと言いたいわけですが、そうか、荘子はこういう、「マトリックス」みたいな、或いは「種同一性障害」みたいなSF的なことを言ってたのか。違うのかもしれないけど、すごいな。荘子か私の勘違いか少なくとも一方が。
シャルル大熊さん、どうもありがとうございます!
変身のち、変態したいが一体何に?
ホテル暴風雨風オーナーからのコメントです。
幼虫と成虫がまるで違う姿かたちの昆虫は、本当に不思議ですね。不完全変態の昆虫がまず現れて、その一部が完全変態に進化したのでしょうか? ぼくは勝手に2種類の昆虫の遺伝子が何かの理由で混ざってしまったのが完全変態昆虫と思っています(笑)
— 風木一人@ホテル暴風雨オーナー (@Kazeki_Kazuhito) August 18, 2022
変態。心ときめきますね。虫になるならばぜひ、変態を体験してみたい。
最初は無変態の昆虫が現れ、不完全変態、完全変態と別れていったようです
変態していく過程ののホルモンは不完全変態も完全変態も共通するところが多いらしく、少しの違いで蛹を形成するようですhttps://t.co/2GnJtCVlJh— ぐっちー (@mousou_guccy) August 18, 2022
量的転換が質的転換になる瞬間を見た気がしますね。
やはり「形」を軽んじるのはいかがなものかと思いますぞ荘子先生。
面白い研究ですね。少しの違いが大きな違いを生むんですね。完全変態の昆虫がいなかったら変身ヒーローも生まれなかったかもしれません。
— 風木一人@ホテル暴風雨オーナー (@Kazeki_Kazuhito) August 19, 2022
変身ヒーローは変身中に謎の光に包まれていがちですが、あれは「蛹」というべきなのかも?
変身するという概念がなかったかもしれないですね
— ぐっちー (@mousou_guccy) August 19, 2022
確かに、荘子ならぬ身では「形」にとらわれすぎて、形が変わったら「変身」ではなく「別人」と思ってしまったかもしれません。荘子引きずりすぎでしょうか。
風オーナー、どうもありがとうございます!
カフカ『変身』においてグレゴール・ザムザはどんな虫に変身したのか?
変身といえば、フランツ・カフカ作の『変身』ですが、あれも虫でした。完全変態の虫? それ以前に、『変身』で主人公ザムザは何の虫に変身したの?
「変身」のザムザが獣ではなく虫になることにも勝手に意味が感じてしまいました。
たとえば、変身した虫の姿はそんなに詳しく書かれず、最後には虫のまま死んでしまいますが、あれが完全変態昆虫の幼虫だったとしたら、実は「未変身」の物語だったのだとか— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 20, 2022
これから変態するつもりがしないうちに死んでしまったとしたら、ザムザは無念だったでしょうね。というのも想像に過ぎず、変態するのが嫌でそれを拒絶して死んだという可能性もあるのか。どうなんでしょう。
結局は変身できていないですよね
ここから蛹になって、チョウになって飛び立つはずだったのにここまで書いていて私が持っているカフカの変身に出てくる虫はイモムシでした
西洋ではゴキブリをイメージしていたと聞きましたが、引きこもるならやはりイモムシの方がイメージに合っている気がします— ぐっちー (@mousou_guccy) August 20, 2022
ゴキブリ!? と、実はここでかなり衝撃を受けました。考えてもみませんでした。何の虫かはハッキリしないものの、ムカデとか毛虫とか芋虫とか、細長いやつだと思っていました。みなさんどうでしょうか?
私はムカデかイモムシのイメージでした。ゴキブリと聞いてアクティブすぎる、アグレッシブすぎるのでは、と思ったのでぐっちーさんと近い感じ方です。ゴキブリ成虫だったらもうそれ以上変態しないので無事(?)変身は済んでいるとも言えますね。でもせっかく虫になるなら変態を経験したいです。
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 20, 2022
ゴキブリだったら不完全変態なのでそこも今ひとつだなあ。ぜひ蛹を経て成虫になりたいんですが。チョウやガが無理ならせめてカメムシとかで手を打ってくれないものか。
もしかしたら何かの挿絵を見たのかもしれません
私も変態したいですね— ぐっちー (@mousou_guccy) August 20, 2022
挿絵を描いた人も変態したい派だったのかもしれないですね。
本来ゴキブリ想定だったのにイモムシやムカデをイメージしていたとすると、ほんの少し優しい物語になってそう。ヨーロッパでゴキブリイメージな方が挿絵の影響という線もありますね。イモムシだとちょっと可愛いしそのうち変態できる希望があるような。カフカが何を思っていたのか知りたいです。
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 21, 2022
うーん。これ、いろんな人に聞いてみたくなります。これを読んでいるみなさま、フランツ・カフカ著『変身』の虫はどんな虫だと思ってましたか? タイミングはお気になさらず、いつでも返信お待ちしてます。変身だけに。あ、言っちゃったオヤジギャグ。
と、そこへすばらいしタイミングでトリフィドさんからのコメントが!
私が読んだときは甲虫のイメージでした。
カフカ自身が、出版時に具体的な虫の絵を表紙にするのを許可しなかったそうで、読者それぞれの「虫」がカフカの望みだったようですね。
カンバーバッチさんによる朗読を見つけました。https://t.co/4alZkRgKDZ
— トリフィド【いさましいちびの博物愛好家】 (@tri_triffid) August 21, 2022
甲虫ですか。完全変態ですね。すばらしい。
虫を特定しなかったのは作者カフカの意向でもあったのか。
なるほど、カフカの想定した具体的な虫は秘密だったのですね。というか想定していなかったり、実在の虫イメージではなくモンスターっぽいものだったり、そもそも抽象概念のまま書いてたのかもしれないですね。朗読のタイトル絵は甲虫っぽい! 不気味だけれどリアルに不気味すぎず雰囲気ありますね✨
— SAITO Ukyo (@ukyo_an) August 21, 2022
リンクしていただいた、ベネディクト・カンバーバッチさんによる『変身』(英語版)の朗読では、朝起きると”monster insect”になっていたという表現でした。
そういえば日本語では、「巨大な毒虫」と書かれていた気がします。
ここで疑問が。
原著のドイツ語では、何と書かれていたのか?
原文(有名な冒頭の一文)は何とか発見。
Als Gregor Samsa eines Morgens aus unruhigen Träumen erwachte, fand er sich in seinem Bett zu einem ungeheuren Ungeziefer verwandelt.
-Franz Kafka, Die Verwandlung
とはいうものの、私はドイツ語はただの一言もわかりません。どの単語が「虫」なのかもわからないし、タイトルからして、英語だと”The Metamorphosis”なところを ”Die Verwandlung” って、イメージが違い過ぎます。”Die” は英語では「死ぬ」だし、中国語では「蝶」の読み方が”die” だなあ、とまた妄想的解釈をしそうになるところをこらえてさらに情報を探すと……
こんな記事を発見!
新訳でびっくり。カフカ『変身』の主人公は、本当に「毒虫」に変身したのか(米光一成/エキレビ!)
どの単語が「虫」かという答えは、”Ungeziefer”のようです。
そして上記記事によると、多和田葉子訳『変身』では、虫を「ウンゲツィーファー」と原語をそのままカタカナにして訳しているとのこと。思い切った新訳です。ドイツ語まったくできない人間から見れば、ワケのわからないモンスター感が出ています。
「ウンゲツィーファー(Ungeziefer)」を辞書で引くと「害獣」という訳語が出てくる。
虫だけではなく、ネズミや、ばい菌なども含む「害のある小動物」で、まあ、主に「虫」というイメージの単語のようだ。米光一成さんによるレビューより引用
これは純粋に「へぇ〜!」でした。ゴキブリを連想しやすい表現かもしれません。
では私がなぜ「ムカデ」と思ったか想像するに、
*「毒虫」という言葉から、毒のある毛虫を連想した
という理由のほかに、
*「ザムザ」という同音反復と濁点の多い名前から「ゲジゲジ」を連想した
があると思われます。そして巨大ゲジゲジや巨大毛虫がイメージしにくかったので、近いところで巨大ムカデとなったのもようです。
概念というのはどれほど言葉に引きずられるものでしょうか。意味としての言葉だけでなく、語感というか、言葉の手触りのようなものにも。「形」は重要ですぞ荘子先生。しつこいと怒られそうですが。
以上、『変身』の世界で小冒険した気分になれました。
トリフィドさん、どうもありがとうございます!
何と、『変身』は2019年に映画にもなっているらしい。虫は描かれる? どんな姿? 好奇心をそそられます。
ところで私のイメージした「ムカデみたいな毒虫」が、今回のページトップの絵の左下に描いた虫です。
ちなみに右下はカフカ、左上はカナブン、右上はチョウ。なんかカフカが虫の種類みたいな言い草。
確か『変身』には「複眼」に言及する表現があったのです。確かめようと思いつつ、面倒だったのであくまでも私の受けた印象が肝要なので、それはせず。ただ、「複眼」が、リアルな昆虫の複眼というより、人間タイプの目がたくさんついている妖怪めいた複眼と感じられたのを覚えています。カフカ先生、それはこれから変態する虫ですか?
では今回はこれにて。
次回のエッセイのテーマは「マレーバク」です。妄想旅ラジオ第57回「マレーバク」では、ぐっちーさんがテレビ出演したり、白黒モノトーンの生き物についてお話してくれますよ。予習がてら、ポッドキャストもぜひ聴いてみてください!
ご意見・ご感想・ぐっちーさんへのメッセージは、こちらのコンタクトフォームからお待ちしております。