「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第4回 アルパカ〜家畜化の過程で排除できなかった『唾を吐く』習性は今後改良できるのか?」
アルパカは哺乳綱、偶蹄目、ラクダ科、ビクーニャ属、アルパカで、インカ帝国の時代から毛を刈る事を目的に家畜として飼われてきた。
アルパカは外見上リャマ、グアナコ、ビクーニャとよく似ており、一度見ただけでは区別が付きにくい。これらはペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンなど南米のアンデス地方に分布する。このうちリャマとアルパカが家畜として飼育されており、リャマはグアナコを、アルパカはビクーニャをそれぞれ家畜化したものと考えられるが諸説あり、現在も研究がなされている。
アルパカは唾を吐いて敵を威嚇する。その唾には一度食べて飲み込んだ牧草などを口に戻すという反芻された胃内容物を含み、非常に臭いらしい。どうしてこのような特性を持った動物を家畜化しようと思ったのだろうか。
家畜化とは人間にとって都合のいい特性を持った動物を人為的に選抜して育種することである。進化は自然淘汰の結果であるのに対し、家畜化は選抜育種である。アルパカは毛を刈ることを目的に家畜化されたため、唾を吐くくらいは大目に見ていたのだろうか。リャマも同じ特性を持っており同じように臭いらしいので、共通の祖先を持っているように推測されるが、DNA分析の結果ビクーニャに近いことが判っている。諸説ありそうだ。
さて、ヤンキーの兄ちゃんは唾を吐く。これは30年以上前から伝わる都市伝説と言っていいだろう。ヤンキーの兄ちゃんはコンビニの前でたむろし、入店する客をにらみつけて万引の抑止に貢献していたのである。
田中一郎(仮名)さんは半年前、勤めていた会社が倒産し無職となった。給与の支払いが滞り始め、この会社は危ないかもしれないと思い始めた矢先のことだった。退職金も無く、わずかばかりの貯金を切り崩して生活してきたが、日に日に苦しくなってきた田中さんは、思いつめた末に万引きをしようとコンビニに向かったのである。家を一歩出ると外は暗く、とぼとぼ歩くその先、遠くに見えていたコンビニの照明が近づくにつれて、それとは対照的な黒い3つの影が現れてきた。
こうこうと光るコンビニの前にはヤンキーの兄ちゃんが3人、甘い缶コーヒーを飲みながらたむろしていた。彼らは会話するでもなく、ただただ座り込んで唾を吐きながらコンビニに入店する客を不審そうに見つめるのであった。
田中さんはこの3人と目を合わさないように気をつけていたにもかかわらず、そのうちの1人と目が合ってしまった。何か言われるかと、そそくさと入り口に向かったが声をかけられることはなかった。中に入ると食品を中心に品定めを始めたが、もし、万引きが見つかり走って逃げようとしても先程の3人を振り切って逃げられる自信は無いと思い始めた。さらに、逃げ切ったとしてもあの3人に顔を見られているのですぐに捕まってしまうかもしれない。そう考えると万引きをする気が失せてしまったのである。
このようにしてコンビニの前でたむろするヤンキーの兄ちゃんは、唾を吐くくらいは大目に見られていた。ところが、万引き防止の効果よりも来客を抑止する効果の方が大きいことが次第に判ってきて、若者だけが聞こえるというモスキート音を流されて退散するしかなくなったのである。
アルパカやリャマは唾を吐くという特性を差し引いたとしても、その体毛はアンデス山脈の高山に暮らす人々にとっては貴重な資源であり、有用な家畜だと言える。一般的に家畜の有用性については、肉や乳の食用、毛や角などの利用、運搬や耕作などの使役が挙げられる。しかし、すべての動物が家畜に適している訳ではなく、以下のような条件が求められる。
・人間が食べられないものを食べる
・人間より早く成長し、飼育下でも繁殖が可能である
・気性が穏やかである
・序列性のある集団を形成する
現代で多く飼育されているウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリなど、これらは家畜化条件に適合していることがわかる。とはいえ、すべて最初からこの条件にマッチしていたわけではない。これらの祖先である原種の中から大人しそうで、成長が早い個体を選別し、かけ合わせて人為的に進化、つまり家畜化してきたのである。
アルパカはこの過程で良好な毛が取れる個体が生み出されたものの、不要な特性、つまり唾を吐くことも遺伝してしまった。古代アンデスの人々は唾を吐かないアルパカを選抜しようと試みていたかもしれない。しかし、ことごとく失敗し現在に至るまで唾を吐かないアルパカは生み出されなかったのである。
コンビニはヤンキーを家畜化することができなかった。ヤンキーは上記家畜化条件の「序列性のある集団を形成する」くらいしか当てはまらない。もしコンビニがヤンキーの家畜化に成功していたとすれば、それはすでにヤンキーではなく、唾を吐く警備員である。
<編集後記>
ぐっちー作「妄想生き物紀行」第4回「アルパカ〜家畜化の過程で排除できなかった『唾を吐く』習性は今後改良できるのか?」いかがでしたでしょうか。
今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。
いや〜、どこから突っ込んでいいかわからない妄想純度の高さが素晴らしいですね! ヒトの変種「唾を吐く警備員」を育種できたとして(倫理的な観点その他1億個くらい問題があるのはさておき)、やっぱり店先で唾を吐いていたらお客さん来ないのでは。
と、溢れんばかりの愉快なモヤモヤは今はこれくらいにしておきまして、
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— SAITO Ukyo@文フリ東京【え‐40】11/20 (@ukyo_an) July 7, 2020
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