オニ〜鬼ヤバな生物が鬼アツ

オニヒトデ

一般的に鬼とは強力な力を持ち、冷酷非情な架空の生物のことを指す。角を1本、あるいは2本有し、体色は赤色または青色を呈している。昔話では追放された者、山賊・海賊などの社会からの逸脱者を鬼と表現して討伐の対象としてきた。これらのことから転じて鬼軍曹、鬼将軍などの冷酷な人物をこう呼ぶこともある。

最近では程度が大きいことに接頭辞として鬼を付けることがある。例えばすごく美味しいという意味で「鬼ウマ」や非常に期待できるという意味で「鬼アツ」と使う。更にはどのような意味にも取ることができる「鬼ヤバ」というのもある。これは大変危険な状況である時でも、気持ちが非常に高ぶる時でも、どちらの状況でも使用できる「鬼ヤバ」な単語である。

「鬼」を接頭辞として使用するのは何も若者だけではない。生物の名称にも昔から「オニ」が使われてきた。例えばオニヤンマ、オニユリ、オニグモ、オニヒトデなどなど、通常よりも大型の種類に対して「オニ」を付けることで、その生物の特徴を表しているのである。

オニが付く生物を調べているとオニクワガタというクワガタがいることが分かった。我々にとってはオオクワガタの方が馴染みがあるだろう。オニクワガタとオオクワガタではどちらが大型なのだろうか。オニクワガタは体長約15〜25mm、一方オオクワガタは21〜77mmとオオクワガタの方が大型であった。

生物の命名における接頭辞には大きさを表す表現として、「オオ」、「オニ」、「ダイオウ」、「オオサマ」、「トノサマ」などがある。一般的には「ダイオウ」>「オオサマ」>「トノサマ」>「オニ」>「オオ」の順番に大型から小型になっていくらしい。ところが、先程のクワガタについては一般から外れ、オニクワガタよりもオオクワガタの方が大きい結果となっている。

他の生物の例を探そうと「オオ」と「オニ」の両方が付く生物を検索したものの、力及ばず探しきることができなかった。これを読んでいる読者諸君も是非「オオ」と「オニ」の両方が付く生物を探して私に教えて欲しい。

さて、生物の大きさを接頭辞で表現して命名することは一見簡単なように思えるが、もしかしたら微妙なバランス感覚で命名されているのかもしれない。そもそも大きさは相対的なものであるから、その種の平均的な大きさを算出した上で、どれくらい逸脱しているかによって「オオ」でいいのか「オニ」なのか、あるいは「ダイオウ」と付けるべきなのか思案することになる。更には今後「ダイオウ」よりも大型の新種が発見された場合のことを考え、ひとつ手前の「オオサマ」にしておこうかと手を打つことにするかもしれない。

オオサマペンギンとコウテイペンギンではコウテイペンギンの方が大きい。現在オオサマペンギンと呼ばれているペンギンを発見して命名した人は当初迷ったと思う。通常よりも大きなペンギンなので、オオペンギンでもよかったかもしれない。あるいはオニペンギンでもよかった。それをあえてオオサマペンギンと名付けたところに命名者の驚きが込められていると推察される。ところが、その後もっと大きなペンギンを発見したので、「オオサマ」よりも偉大な「コウテイ」を冠するコウテイペンギンが誕生したのだろう。これらは英名がキングペンギンとエンペラーペンギンなので、それを和訳しただけかもしれないが、大きさに関する表現は世界共通なのだ。

深海に住む甲殻綱等脚目のオオグソクムシをご存じだろうか。オオグソクムシは水深150m〜600mの深海に生息し、体長は10〜20cmで日本に生息する等脚類では最大である。一方、ダイオウグソクムシという種類がメキシコ湾や西大西洋の深海200〜1000m付近の砂地の海底に生息する。体長は20〜40cmとオオグソクムシよりも格段に大型である。更にコウテイグソクムシも存在する。コウテイグソクムシは南シナ海の深海に生息し、平均体長は30cm程度である。最大サイズはコウテイグソクムシよりもダイオウグソクムシの方が大型になるようである。

「ダイオウ」と「コウテイ」ではどちらの方が大型になるのか今の段階では甲乙付けがたい。もしかしたら日本語と英語での表記が違うだけかもしれない。一応ダイオウグソクムシの英語版Wikipediaを確認すると、”It is a member of the giant isopods.”と書いてあった。そしてオオグソクムシの英語版Wikipediaは存在しなかった。英語圏ではオオグソクムシもダイオウグソクムシも区別することなく、大型等脚類の仲間とひとくくりにされてしまっている。

命名における接頭辞の「トノサマ」も「ダイオウ」も「コウテイ」も所詮人間である。個人的には「オニ」の方が強いのではないかと思うのだが、語感や文字数も含めオニイカと言われるよりもダイオウイカの方が大きくて強い気がしてくるので、やっぱり日本語は鬼ヤバである。

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ第50回 オニ」と関連した内容でお送りしています。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第50回「オニ〜鬼ヤバな生物が鬼アツ」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

大きいことを表す時の「オニ」「ダイオウ」「コウテイ」の序列についてのぐっちーさんの考察、興味深いですね。「鬼ヤバイ」という表現はかなり市民権を得ている感がありますが、ヤバさの程度が甚だしいことを表す時は「オオヤバイ」とはあまり言わず皇帝や殿もお呼びではないのに、鬼はこのジャンルでも大活躍なところも不思議ですね。他の表現にどんなものがあるかと考えてみましたが、まず「激ヤバ」「超ヤバ」など古典的な漢語の様式を継承するタイプがあります。あとは、「クソヤバ」とか「ゲロヤバ」とか、あれらは汚さを程度の甚だしさに置き換えるというロジックなんでしょうか? そしてそれらと「鬼」はどっちがよりヤバイんでしょう?? 考えたこともなかったですが、「鬼ヤバ」がかなり上位に来るような?

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。鬼について、皇帝や大王について、ヤバさランキングについて、などなど何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています!

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>