アボカド〜人類の平和と持続可能な社会の鍵を握るのはアボカドと妻と娘だった

最近我が家の食卓にアボカドが上ることが多くなった。もうすぐ成人する娘がその美味しさに目覚めたらしく、角切りのチーズ、アボカド、トマトをオリーブオイルで和えたハイカラなサラダが添えられるようになった。あるいは添え物としてのサラダではなく、娘にとってはメインディッシュなのかもしれない。ただ、妻は当初困惑し、アボカドのことを「アボガド」と呼んでいたくらい馴染みの薄い食材であった。

アボカドはクスノキ目クスノキ科ワニナシ属の樹木であり、スーパーで売られているアボカドはその果実である。中央アメリカ原産で、少なくとも紀元前500年頃から栽培されていた。食用部分の脂肪は全体の約20%以上に達し、「森のバター」とも称される。しかしながら、バターの脂肪分は約80%なのでそれには遠く及ばない。むしろチーズの脂肪分が25%なので、「森のチーズ」の方が適切かもしれない。だったらチーズとトマトのサラダで十分なのではないだろうか。と、娘には怖くて言えない。

2019年における世界のアボカド生産量は約700万トンと推定され、そのうち32%がメキシコで生産されている。2000年には世界で270万トンの生産があったことから、20年で2.5倍以上の生産増である。更に現在も等比級数的に生産量を伸ばしている真っ只中である。そして我が家もその消費に貢献している。

食べた後に残るアボカドの種を尖った方を上にして、下半分を水につけておくと発芽するらしい。我が家ではまだ試していないが、観葉植物として栽培することも可能だそうである。ただし、中央アメリカ原産なので高温には強いが低温には弱く、屋内とはいえ冬の北海道で枯れないで育つか難しいところである。我が家ではバジルを越冬させたことがあるので、もしかしたらできるかもしれない。娘に提案してみようと思う。

アボカドの栽培には大量の水が必要である。熱帯雨林原産なので当然なのかもしれないが、近年生産量の増加に伴い熱帯雨林を伐採してアボカドの果樹園が増加している。熱帯雨林の伐採が問題になっており、更には大量の水が必要であるので生活用水まで不足する地域がある。新型コロナウイルスが蔓延している中、手洗いに十分な水を確保できない地域も出ており、社会問題になっている。また、アボカドの価格高騰に目を付けたギャングが農家を脅してみかじめ料を請求する事態が発生しているらしい。

平均的には1トンのアボカドを生産するために1800トンの水が必要とされていて、バナナの790トン、スイカの235トンに比べても大量の水が使用されている。生産されたアボカドを輸入すると仮想的に1800トンの水を輸入したことと同じであるとする考えがある。生産地の水資源が豊富であればこのような問題は起きないのだが、加熱するブームにより生産地での行き過ぎた開発を誘発してしまうことは持続可能な社会に悪影響を及ぼしてしまう。娘の耳にも入れておこうと思う。

1993年、日本ではナタデココがブームとなった。ココナッツ果汁にナタ菌を加え、上澄み部分を固形化させたものがナタデココである。ナタデココを生産していたフィリピンでは、日本でのブームに乗り熱帯雨林を伐採してココナッツ畑を造成していた。ところが、1994年にはそのブームが去ってしまい、現地ではココナッツ畑が放置され、使われなくなった工場やナタデココ生産時に排出される廃棄物で環境が破壊され、失業者が増加してしまった。ナタデココブームは日本のみでの出来事であったが、アボカドブームは北米を中心とした世界的なブームとなっており、伐採された熱帯雨林だけが残ってしまうという悲劇が繰り返されないような方策が必要だ。

東海林さだおさんのエッセイ「目玉焼きの丸かじり」で「アボカドの身持ち」という文がある。日常会話でアボカドが話題になった時、必ずと言っていいほど「アボガド」と発音する人がいる。「アボガド」と誰かが言った瞬間、別の人がしたり顔で「アボガドじゃなくてアボカド」と訂正するのである。訂正された方もばつが悪く、その会話は不穏な空気に包まれてしまう。アボカドが人類の平和を乱しているという趣旨である。我が家でも妻が「アボガド」と発音した瞬間に訂正されるというお決まりのパターンが再現されたが、妻の努力により我が家では今のところ平和が保たれている。

このようにアボカドのことを取り上げるとアボカドの不買運動に繋がりかねないが、買わなければ問題が解決するわけでもない。ウナギでは稚魚のシラスウナギが激減して密漁が問題となったが、ウナギを食べなければ問題が解決するわけではなかった。消費者は正規のルートで流通するウナギに関心を示し、選択的に食べることが推奨された。アボカドについても同様で、持続可能なアボカド栽培を目指す取り組みが始まっている。アボカドの生産実態を知った上で、消費者が持続可能性の高い産物を選択できる時代がすぐそこまでやって来ている。

スーパーで高いアボカドと安いアボカドが並んでいたら、安いアボカドを手に取ってしまうかもしれないが、なぜ高いのか、どのような栽培方法で生産されたのか見極めた上で買い物カゴに入れるようにしたい。そして、人類の平和は妻の努力によって成り立っていることも娘と話し合ってみたい。

参考リンク:「持続可能なアボカド」を選ぶために知っておきたいこと。アボカドのプロに聞いた |( ハフポスト PROJECT

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の各放送回と関連した内容でお送りしていますが、今回はリクエストにお応えするエッセイの独自テーマ回です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第51回「アボカド〜人類の平和と持続可能な社会の鍵を握るのはアボカドと妻と娘だった」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、アボカド大好き・編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

今回のテーマは、ホテル暴風雨風オーナーのリクエストで、「アボカド」でした。アボカドが世界平和に落とす影、持続可能なアボカド栽培、などなど意外な方向に話が広がりました。アボカドが水を大量消費する問題についてはまったく知らず驚きましたが、それより何よりぐっちーさんの娘さん、もうすぐ成人、に驚愕しております。「ぐっちーさん、お誕生日に娘さんに怒られる事件」を記憶している「妄想旅ラジオ」初期リスナーは全員思っているはず、「えっ、9歳じゃなかったっけ!?」と……。

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