ぐっちー家族旅2〜埋蔵金と夫婦喧嘩のイギリス湖水地方

昨夜の年越しイベントの興奮もさめやらぬまま、我々は朝10時にロンドンのユーストン駅へと到着した。これから義理の姉夫婦が暮らす湖水地方にあるペンリスという駅に移動するため高速鉄道を待っている。ロンドンには鉄道会社や向かう場所によっていくつかのターミナル駅がある。最も有名な駅はハリーポッターでも描かれたキングスクロス駅で、アーチ状の屋根にいくつかの線路が並び、列車が待機している映像を見たことがあるだろう。しかし、ユーストン駅は無機質な壁と低い天井で日本のそれと似ていた。

1月1日の朝から移動する人は少ない。列車に乗り込んで席に座ったが、車内には我々の他に1組の乗客しかいなかった。多くのイギリス人は年越しパーティーの後の二日酔いなのだそうだ。座席は新幹線のように快適で、4人掛けボックスシートにテーブルも着いていた。

ロンドンを出るとすぐに田園風景が広がっていた。線路沿いには運河が流れていて、ナローボートと呼ばれる運河を航行する船がたくさん浮かんでいる。今から200年前、内陸水路は産業革命時に製品などの運搬手段として利用されていたが、今では観光用として復活している。ナローボートはキャンピングカーのように寝泊まりする場所があり、キッチンも備えている。イギリス独特の風景である。

ロンドンから約3時間。距離にして約450㎞の地点にあるペンリスという駅で我々は列車を降りた。義理の姉夫婦に駅まで迎えに来てもらっており、その足で二人の自宅を訪ねる。

ここで、仮に義理の姉をエリ子、義理の兄をマイクとする。マイク夫婦宅の窓からは小高い丘が見え、高さ1mくらいの石垣が張り巡らされていて、その中には羊の姿が見える。曇って、小雨も降っていて、湿気が多くて、そして苔に覆われている。これがまさにイギリスの田園風景である。

マイクの趣味はメタルディテクティングといって、地中に埋まった金属を探し当てることである。目の前に広がる小高い丘には1600年以上前のローマ時代に作られたコインが眠っており、それらを発掘するのが彼の趣味である。2010年にはある男性がイングランド南西部で5万枚以上(4億円以上の価値)のコインを発見した。徳川埋蔵金発掘よりも信頼性の高いお宝情報である。

マイクが収集したコインを見せてもらったのだが、残念ながらローマ時代のコインは見つかっていないものの、第2次世界大戦時代のバッジやバックル、ビクトリア朝のコインなどイギリスの歴史と密接に関係する埋蔵品が多数出土していた。時には知り合いの農家からカギを落としてしまったので探してほしいという依頼も受けたことがあるらしい。確かに雪の中にカギを落としたら春まで見つからない自信があるので、一家に一台金属探知機は必要かもしれない。

湖水地方滞在3日目、その日は一日中雨ということで家でゆっくりすることに。そこで家族4人とマイク夫婦の6人でモノポリーをすることになった。モノポリーは双六の要領でボードをぐるぐる回りながら、物件を買って、賃貸料をもらって誰が一番儲かったかを競うゲームである。ルール通り進めるとおそらく数時間はかかるゲームである。そこで、マイクから「全員がGOのマスを通ったら物件のオークションをしよう」と提案があった。時間短縮のために我々は賛成した。

ところが、一人が刑務所に行くというカードをひいてしまい、GOを通ることができなくなった。そこでマイクにGOを通ったことにしようと提案したが、「通っていない、認められない」と却下された。我々日本人グループはこの先長そうなので、このゲームの面白いところを子供に体験させてあげたいと思っている。ところが、ルールを重視するマイクはこれをかたくなに拒否する。そうこうしているうちに、ようやく全員がGOを通ったので無事オークションが開始された。

モノポリーは物件を持っているだけでは大した利益が出ない。同じ色の物件を独占して建物を建てると賃料が上がって儲かる。ただ、みんなが持っている物件はバラバラなので、トレードしないといけない。子供達にはトレードが難しいので、私が「これとこれを替えてあげる」と言って子供に有利なトレードを持ちかけるのだが、マイクが「そのトレードは不公正だ、価値が偏りすぎている」と指摘してきた。

今度はエリ子さんとマイクの間で交渉が始まるが全く進まない。次第に二人の間で不穏な空気が流れ始め、しまいにはエリ子さんが日本語で文句を言いつつ、泣き出してしまう。リアルな夫婦喧嘩を目撃してしまったのだが、この考え方の違いはマイク個人の性格なのかイギリス人の気質なのかはサンプル数が1しかないので不明である。日本人同士の夫婦でも考え方の相違はあるのに、国際結婚となるとさらに大変なことが多いだろう。最終的には子供がモノポリーに勝利して「またモノポリーやりたい」と言っていたので良かったのだが。

イギリス滞在最終日は朝に湖水地方を出発し、その足でヒースロー空港から香港に向けて飛んだ。ストライキの噂があったが無事に出国を果たして香港で一泊する。ロンドン、湖水地方、香港とそれぞれ違った雰囲気を子供たちに味わってもらうことができて親としては満足している。多額の旅行代金が消えて行ってしまったが、異文化体験、空気感、疲労感など家族共通の記憶は決して消えることはない。旅行直後、子供達にまた行きたいか聞いたところ、「疲れた」と言っていたので少し堪えた。

あれから5年が経ち、その間にコロナウイルスによる海外旅行の制限が行われたが、それもようやく解除されつつある。もう一度マイク夫婦に会いたいと思っていた昨年、マイクが病に倒れそのまま他界してしまった。ルールを重んじ、子供だろうと一人前の人間として接してくれた英国紳士の冥福を祈る。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第66回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第65回「ぐっちー家族旅・後編、湖水地方へ行く」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第66回「ぐっちー家族旅2〜埋蔵金と夫婦喧嘩のイギリス湖水地方」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

2017年末から2018年始にかけてのぐっちーさん一家のイギリス旅行のお話、後半の今回はイギリスの国際結婚家庭を訪問という忘れがたい体験でした。ラジオで聴き、エッセイを読んだ私もまた忘れがたく、マイクさんともう会えないことがとても悲しいです。でもコロナ前に会いに行けて本当に良かったですね。

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