イネ〜高校生男子は豊かな食生活を送れるか

イネは大きく分けて2種いると聞いて、何と何を思い浮かべるだろうか。多くの人がジャポニカ種とインディカ種を思い浮かべると思う。しかしジャポニカ種とインディカ種は品種である。間違いではないが、種という意味ではアジアイネとアフリカイネに分類した方がより正確かもしれない。アフリカイネはアフリカ大陸のニジェール川流域で栽培されており、栽培の範囲が比較的狭いのに対し、アジアイネは世界中の多くの場所で栽培されている。アジアイネの中にはジャポニカ種とインディカ種があるのだが、更に、ジャバニカ種というのもあるらしい。ジャバニカ種はジャポニカ種とインディカ種の中間くらいの性質を持つが、ジャポニカ種の一種ともいわれジャワ島を中心とした熱帯地方に棲息する。

イネは、中国南部の雲南からラオス、タイ、ビルマ周辺に広がる山岳地帯で生まれたとされている。そこから北の方に広がっていったのが、寒さにつよいジャポニカ種で、中国などの温帯での栽培にむくイネである。一方、南に下ってインドや東南アジアに広がったのがインディカ種であり、湿度と気温が高いところ、雨季と乾季がある熱帯気候での栽培にむいている。

日本では縄文時代後期に、朝鮮半島か中国の揚子江あたりからジャポニカ種が北九州地方に伝わった。およそ2000年前の弥生時代中期には、東北地方でもイネがつくられていたようで、今でも東北地方はコメの大生産地として有名である。北海道は一番遅く、明治時代になってやっとつくられるようになった。コメと言えば東北というイメージだが、今では北海道は全国2位の収穫量となっている。ちなみに令和4年統計によると1位は新潟県で63万トン、2位の北海道で55万トン、3位の秋田県で45万トンと5位まで東北地方で独占している中で北海道が孤軍奮闘している。

農林水産省の統計によると、コメの1人当たりの年間消費量は、昭和37年度をピークに減少傾向となっている。具体的には、昭和37年度は118kgのコメを消費していたが、令和2年度の消費量は半分以下の50.8kgにまで減少している。家庭における1世帯当たりの年間支出金額の推移を見ると、平成26年以降はパンの支出金額がコメの支出金額を上回っているらしい。確かにコメを買う金額とパンを買う金額を比べるとパンの金額の方が多い気がする。ただし、コメは原料として買っているが、パンは製品として買っているので数倍の価格差があっても不思議ではない。比較するならコメと小麦の消費量を比較するべきで、そうすると小麦は31.7kgとコメよりも大幅に少ない。

パンが主食になりつつあると論じられることが多いが、小麦の消費量の変化を見るとそうでもないらしい。昭和40年の小麦の消費量は年間29.0kgで、コメが半減しているのに対して小麦は1割ほどしか増加していない。つまり、炭水化物の消費量が減っているのに対し、それ以外の消費量が増加している。厚生労働省の「日本人の栄養と健康の変遷」によると、日本人のエネルギー摂取量は50年前に比べて若干減少しているものの、ほとんど変わらないのに対し、炭水化物のエネルギー摂取比率がどんどん低下している。その代わり脂質の摂取比率が増加しており、昭和40年ごろは10%程度だったものが今では30%ほどになっている。確かに個人的な食生活を振り返っても、揚げ物、中華料理、アヒージョなどの脂質を多く使った食事をしている気がする。おかずを減らしてご飯を多く食べるほうが健康に良いのだろうか。

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」では「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」とう箇所があり、一日に玄米を4合は食べすぎじゃないかと思ったが、おかずとして味噌と野菜が少しということであれば、よくこんな少ないおかずで4合も食べられるなと思う。当時からふりかけはあったのだろうか。ふりかけが無かったら無理かもしれない。農林水産省も気付いているのだろうが、コメ消費拡大にはおかずを減らすしかないのである。豊かな食生活はコメの消費減少を伴うことも含めて成り立つのかもしれない。

豊かな食生活とは何だろう。お腹いっぱい食べられることだろうか。毎日違う国の料理を食べられることだろうか。それとも、伝統的で手間をかけた料理を食べることだろうか。その定義は人それぞれだろうが、コメの消費拡大とは相反する気がする。つまり、コメの消費量が減少している現象は豊かな食生活が実現されていることを意味するはずである。我が家の息子によってコメの消費量が増大しているということは、食生活が貧相になっている証左かもしれない。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第80回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第80回「イネ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第80回「イネ〜高校生男子は豊かな食生活を送れるか」いかがでしたでしょうか。

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豊かな食生活ってなんだろう、と考えてしまいますね。文化の豊かさ・成熟度は多様さやその受容と疑いなく語られる一方、こと食に関しては豊かさ・多様さに「飽食」というマイナスイメージもついて回ります。コメ率の超高い低脂肪メニューが超多様かつ美味しくなれば、豊かで健康で自給率も上がるんでしょうか?

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