2022年5月、世界に激震が走った。NHKの「ダーウィンが来た!」という番組でカマキリが鳥を捕まえる決定的瞬間を動画で撮影したからである。昆虫が鳥類を捕食するというにわかには信じがたい光景の一部始終を記録した貴重な映像が放映され、世界中が驚いたのである。撮影されたのは石川県輪島市の沖合にある舳倉(へぐら)島である。舳倉島は周囲が約5㎞、標高が約12mの小さくて低い島で、およそ50人が暮らしている。主な産業は漁業だが、多くの渡り鳥が休憩することで知られ、これらを観察するバードウォッチャーには有名な島らしい。
今回撮影されたカマキリはオオカマキリで、8㎝から9㎝の大きさにまで成長する。対して捕食された鳥はスズメ目キクイタダキ科キクイタダキ属に分類されるキクイタダキである。キクイタダキは全長約10㎝、翼を広げた幅は約15㎝、重さは約5gと鳥類の中では小型であるが、オオカマキリに比べれば一回りくらいは大きい。オオカマキリは自分よりも大きく素早く動くキクイタダキをどのようにして捕まえるのだろうか。
オオカマキリは主にアゲハチョウやセミ、キリギリス、トノサマバッタ、トンボなどの大型昆虫とアマガエルなどの小型両生類を捕食している。基本的にはほとんど動かず、近づいてきた獲物に大きな鎌を武器に素早い動きで飛びかかり捕らえる。キクイタダキに対しても同じ戦法を使って捕らえるのだが、通常は鳥類は木の上に生息し、カマキリは草むらに生息するはずなので両者が同じ場所にいることは基本的には無いはずである。ところが、この舳倉島では標高が約12mと低く、高い木が生えていないことから渡りで休憩する鳥類は草むらに降り立たなければならないのである。
今回の撮影はあるアマチュアバードウォッチャーの証言を元に行われた。彼は2005年にオオカマキリがキクイタダキを捕食する様子を写真に収めてホームページに掲載している。今回は初めて動画で撮影されたのと同時に、テレビでの放映ということで大きな衝撃になったのだろう。実はカマキリが鳥類を捕食するという事例は世界中で報告されている。特に報告事例が多くなったのが2000年代以降である。個人が携帯電話でカメラを持ち歩くようになり、ブログやSNSなどで容易に発信できるようになったことが要因であると分析されている。
SNSの普及で我々の生活は大きく変わった。今回のようにカマキリが鳥類を捕食するという事例のように論文として発表するには物足りないものの、一般的には大きなインパクトを与える話題については個人発信の方が適しているかもしれない。玉石混交のインターネット社会ではその真偽を慎重に見極める必要があるものの、アマチュアの研究が社会貢献できる環境が整ったことは意義深い。
私も以前行った自由研究をTwitter(現在はX)で発表したことがある。「灯油タンクの形態的分類」というテーマでTwitterまとめサイトであるTogetterに投稿したところ、2万人を超える方々に見ていただいた。内容は至極簡単で、他人の家の灯油タンクを撮影して、それらを分類しただけである。北海道ではよく見かける灯油タンクにも実は様々な形状があり、箱型、樽型、スプートニク型などバリエーションが豊かである。詳しくはリンクを見ていただくとして、私の一押しはスプートニク型だ。
私の自由研究が社会に貢献できているかは甚だ疑問ではあるが、学術論文が人類共通の利益のためにあると仮定するならば、SNSによるアマチュア研究は一般人の福祉に貢献していると考えられる。知って得する、見て和む、などの知的娯楽は、以前はテレビで一方的に与えられてきたが、今では発信することもできる。カマキリが鳥類を捕まえても世の中良くなるわけでは無いが、ちょっとだけ人生が豊かになった気がするので、それだけで十分価値のある情報である。
(by ぐっちー)
※このエッセイ「妄想生き物紀行」第82回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第82回「カマキリ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。
ぐっちー作「妄想生き物紀行」第82回「カマキリ〜ちょっとだけ人生が豊かになった気がするアマチュア研究」いかがでしたでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。
こんにちは!
いや〜、衝撃的でした。カマキリ、「そのへんにいる昆虫」界で最強レベルなのは知っていましたがまさか鳥を捕まえるとは。世界ではすでに知られた事実であることはもちろん、「ダーウィンが来た!」の放映も知らなかったので驚くことしきり。テレビなし生活が長く、特に不便は感じていないのですが、こういう時(カマキリが鳥を獲った時)ばかりはテレビがないおかげで世の中に遅れていると感じます。
それにしても鳥って!
Twiter改めX でぐっちーさんと話そう企画
さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。カマキリについて、アマチュア研究や自由研究について、などなどなんでもお話しましょう。灯油タンク自由研究の話題も大歓迎です。ぐっちーさんが続々発表している新しい自由研究、「ホテルの部屋番号プレート」の話題ももちろん歓迎です。みなさんの自由研究についてもぜひ教えてください。私もやはり灯油タンクはスプートニク型がかっこよくて好きです。
参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。
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— 斎藤雨梟 (@ukyo_an) July 7, 2020
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