シャコ〜シャコはいつの間にかランクアップしていた

シャコは節足動物門、甲殻綱、シャコ目、シャコ科、シャコ属、シャコだと思っていた。だが、最近では違うようである。その違いを説明する前に生物の分類方法について説明する。生物の分類には界、門、綱、目、科、属、種といったランク分けがなされている。シャコ目にはシャコの中で最も大きなトラフシャコやすでに絶滅したシャコも含まれ、これらをシャコの仲間と呼ぶことが多い。この分類ランクにはそれぞれ「上」あるいは「亜」をつけて、中間のクラスを形成することがある。「門」の一つ下のクラスに「亜門」を作ったり、「目」の上に「上目」を作ったりと、より細かなクラス分けができるようになっている。

シャコは節足動物門、甲殻綱、軟甲亜綱、シャコ目と昔習った記憶があるが、最近では節足動物門、甲殻亜門、軟甲綱、シャコ目と記載されている。なんだか中間部分がランクアップしている。自分の卒業した学校が有名校と合併して、いつの間にかその有名校の卒業生ということになっていた気分である。「俺が入学した当時は別の学校だったんだけどね」と言い訳しなければならないばつの悪さがある。

シャコは北海道から九州、台湾、中国沿岸に生息しており、ある程度環境が悪くても生息できる。東京湾の干潟にも生息し、寿司ネタにも使われ、江戸前寿司の定番として知られる。寿司屋ではシャコのことをガレージと呼ぶと聞いたことがあるが、いつ頃から使われるようになったのか調べたが不明だった。資料にはタコとシャコを混同しないように板前さんの間で使われるうちに一般化したとあったが、英語が使われていることを考えると第2次世界大戦後に一般化したと思われる。それ以前はシャコを頼んだのにタコが出てきて一悶着あったのかもしれない。

寿司業界にはガレージ以外にも独特の隠語がある。酢飯のことをシャリと言ったり、醤油のことをむらさきと言ったり、お茶のことをあがりと言ったり、お会計のことをおあいそと言ったりする。これらは元々職人さんの間で使われていた隠語であったが、いつしか客も使うようになった。私も含め家族全員寿司好きで月に1回くらいのペースで寿司屋(といっても回転寿司屋)に通っているが、私はこれらの用語を使わないように心がけている。

それは第1にそれほど寿司通ではないので気恥ずかしいからである。サーモンやマグロ、ハンバーグなどの安い皿を並べて「おあいそ」と言っても格好がつかない気がしている。「おあいそ」と言うためにはカウンターがある寿司屋で大将としばらく会話をしなくてはならない。

「だいぶ涼しくなってきましたね。そろそろ秋の魚が入っているんじゃないですか。」

「先週くらいから市場の魚も変わってきたかな。」

「おすすめはありますか。」

「今日は小樽の良い秋シャコが入っているよ。内子が入ってうまいよ。」

「じゃあ、それお願いします。」

少なくともこれくらいの会話を交わし、メニュー表に「時価」と書いてあっても動揺を表に出さない余裕を見せなければならない。個人的にはこれくらいの大人じゃないと「おあいそ」と言ってはいけないような気がしている。

第2に語源があまり好ましくないと思っているからである。これはシャリに特化した理由ではあるが、シャリの語源は元々色や形が火葬したあとに残る粒状の骨「舎利」と似ているからとされている。仏様の遺骨のことを仏舎利と言うように、これから食べようとする物を骨にたとえるのは心理的に抵抗がある。最近では応援している人物のことを「推し」と呼ぶが、私の中での「おし」は発話に障害がある人のことを指した言葉が先に頭に浮かぶ。これらは全く個人的な感想でしかないのだが、できるだけ使わないように心がけている言葉である。

最近お寿司屋さんでシャコを見かけなくなったという投稿があった。漁獲量が減ったのかと思い、シャコの漁獲量について検索すると小樽のシャコ漁についての報告(北海道立総合研究機構のホームページ内のPDFファイルにリンク)が見つかった。小樽では2019年に大きく漁獲量が減ったことから、その原因について調べた報告書である。原因特定は難しいものの、漁獲圧力が高かった可能性を指摘している。ただし、ここ30年ほどは漁獲量の大きな減少はみられない。つまり、寿司屋でシャコを見かけなくなったのは漁獲量の減少だけではないということである。おそらくシャコは茹でて殻をむいてと手間がかかり、それでいてあまり注文がないので置かなくなったのではないかと推測されている。

分類学上はいつの間にかランクアップしていたシャコであるが、一般市民の消費についてはいつの間にか減ってしまっていた。ただ、希少度はランクアップしているので、これからも細々とではあるが、寿司ネタとして生き残っていくことだろうと思う。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第86回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第86回「シャコ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第86回「シャコ〜シャコはいつの間にかランクアップしていた」いかがでしたでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ハッピーバースデーぐっちーさん♪
シャコのお寿司でお祝いしたいですね!

実は私は、妄想旅ラジオのシャコの回(シャコの不思議生態がわかります!)を聴くまで、シャコについて考えたこともなかった気がします。寿司ネタとしても全然嫌いじゃないけれど、さりとてあまり思い出さずにスルーしてしまいがち。今日のエッセイ&写真のおかげで食べたくなってきました、シャコ。で、結局ぐっちーさんはシャコ寿司を「ガレージ」じゃなく「シャコ」と注文してよく食べるのか、それともあまり食べないのか。ところで、時々行くコンベアーベルトスシバー(英語で言ってみました)の注文がタッチパネル式になってしばらく経ちます。飲食店の注文がタッチパネルになると、変わったメニュー、普段食べないメニューへも目が行く確率が上がり、注文に至るハードルが下がる気がします。寿司ネタ人気ランキングにも影響を与えるんじゃないでしょうか?

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さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、X(旧Twitter)でお話したいと思います。シャコについて、謎のスラングについて、好きなお寿司について、などなどなんでもお話しましょう。参加方法はX(旧Twitter)に書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

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