「だいだいだいっきらい!」

⭐︎月曜〜木曜 毎日12時UP クロソワン【ミュージシャン黒沢秀樹&マエソワヒロユキ(共に一児の父)からなるユニット】の"育て"から広がる笑えてちょっとタメになる井戸端会議。『育談』。たまに飛び出す!?『音楽談』。 ◎黒沢秀樹 HP: note: Twitter: ◎マエソワヒロユキ HP&blog: Twitte...

「やだ、やめてーっ!お父さんの意地悪!もう父さんはだいだいだいっきらいっ!!」

朝の着替えのタイミングでズボンを履かせようとすると、いきなりショッキングな言葉を投げつけられた。
ついさっきまではひとりでもう食べられるはずの朝ごはんを前に、

「お膝に抱っこっこがいい」「父さんが食べさせて」
「ちがう、(ハムエッグの)しろみー!」

などと言い、自称ポケモンの『甘えん坊タイプ』(ちなみにポケモンにそんなタイプはない)に進化して甘え倒していたはずだが、その日は目玉焼きの白身とスイカをふた口ほどしか食べずに「もうおしまいにする。。。」と言って席を離れた。

感染症にかかってしまい体調が悪かったこともあり、寝起きからかなり気分が不安定だったが、「きらい」に「だい」さらに「だいだい」のトッピングをプラスしたここまでストレートな物言いをされるとさすがにめげる。ラーメン屋で言えば「特盛り濃いめのマシマシ」である。そんなものが消化できるようなタフなハートを自分は持ち合わせていない。

言葉のみならず、最近買ったお気に入りのポケモンの靴下まで脱いで投げつけられた後、さらに室内用の物干しハンガーに手を出す。「危ないよ、倒れるよ!」と声を掛けるも、「倒す!こんなの倒してやるーっ!」と押し倒し、それをガンガンおもちゃで叩く。もう完全にブチ切れ状態である。
「叩かないで、ガンガンしないで!壊れちゃうよ」とおもちゃを取り上げると、今度はソファーに置いてあったふたつのクッションを投げつけられた。

「もう父さんには一生ずっとパンチする、二度とテレビさんも見ちゃダメっ!」

と言い放ち、アンパンチ(かなり重め)を連続で繰り出された。自分としてはいつもの「甘えん坊タイプ」に沿って着替えを手伝っていただけなのに、いったいどういうことなのか。4歳児といえど、考えてみればこれはもはや立派なDVである。
あまりに理不尽なのでDV相談に電話をしようかという思いさえ頭によぎったが、何しろ相手はまだ4歳の子どもである。相談するなら子ども家庭支援センターか、などと考えもしたが、どちらにせよ今すぐこの状態を的確に把握し、具体的な指示をしてくれる可能性は限りなく低い。はたから見ればただ風邪で機嫌の悪い4歳児が家の中で暴れているだけで、事態への対処は自分で選択するしかないのである。ちょっと前の自分なら、間違いなく誰も知らない遠い国に旅に出てしまいたくなっていたことだろう。
そこで、とっさに養育者としての自分の感情を素直に、言葉ではなく行動で表現してみることにした。息子はその時点で大粒の涙を目にためてはいたが、泣くよりも暴れるという行動に走っていたので、反対にまずは自分が泣いてみる、という選択をしてみたのだ。

「うえーん!うわーん!もういやだあ!!父さん悲しい、痛いのはやだーっ!そんなことする子とはもう遊びたくないー!うわーんっ!!」

そうして自分がひたすら泣いていると、ふと我に返った息子は涙を湛えつつ目の前に歩いてきた。

「だって!・・・だって・・・・」

「ごめんね。。。」

なんと、息子が謝ってきたのである。「ん?」と思いつつ、こんな暴力を振るわれた身からすると簡単に泣き止むわけにはいかないので、さらに「叩かれたよー!痛かったよー!」と泣き続けることにしてみた。現実はひとこと謝ればすむほど甘くはないのだ。ちょうど自分も結膜炎にかかって目は赤いし、処方された目薬をさしたばかりだったので、そこそこリアリティーのある感じに仕上がったと思っていると、息子が急に態度を変え、膝の上に乗って寝転がってきた。
息子の顔を覗くと、今にも溢れ出しそうな涙を瞳いっぱいに浮かべている。

「ねえ、お父さん、ごめんね。。。だって。。。お父さーん。。。」

そう言いながら泣いている父の頭を撫ではじめた息子にあらためて聞いてみた。

「どうしたの?何がイヤだったの?どうしてこんなことしたの?」

「だって。。。自分で履きたかった。。。」

「ズボンかよっ!」とつい声が出そうになったが、今日に限ってどうやらズボンだけは自分で履きたかった、ということらしい。「甘えん坊タイプじゃなかったんかいっ!」という言葉が喉元、いや唇くらいまで来ていたが、そこは養育者の試されるところである。グッと堪えてこう伝えた。

「そうだったんだ、今日は自分で履きたかったんだね。ちゃんと言ってくれたらわかったんだけど、無理に履かせようとしてごめん、今度はちゃんと言ってね。いい?わかった?」

「わかった。。。」

そう言って涙を拭くと、その後はすぐに機嫌を戻し、残りのごはんを食べてトイレに行き、「父さんもう拭いて」とまたすぐに甘えん坊タイプに戻った。
子どもの気分は瞬間で変わる。きっと今、息子は甘えと自立の階段を昇り降りしている最中なのだろう。毎回こんなにブチ切れられるのは勘弁してもらいたいが、少しずつ、的確に自分の気持ちを表現する力を身につけていって欲しいと願っている。そして自分もなるべく相手を傷つけたり誤解されたりすることなく、しっかりと自分の意見を伝えられるような大人になりたい。子どもと一緒に成長するというのは、きっとこういうことなのではないかと思う。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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