子ども、戦友になる。

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前回のノートからこの期間、爆発的な感染者の増加によってついに自分も新型コロナウィルスに感染してしまったことで、また子どもとずっと家で過ごす日々がしばらく続くことになった。
熱はすぐに下がったものの、倦怠感や食欲不振などの症状が長引いてなかなか厳しい状況ではあったが、なんとか療養期間を終えて回復することができた。重症化のリスクはかなり下がっていると言われているし、育児をしながら日常生活を送る上ではもはやどう気をつけてよいのかわからないような状態になってはいるが、みなさんの健康と安全を願うしかない。
そんなわけで今回はその前夜の話を書こうと思う。

このところ息子は海賊が海の怪獣と戦うというストーリーのアニメにハマってしまい、海賊ごっこを頻繁に要求してくるようになった。ある時は自分が海賊になり、ある時は怪獣になって交互に戦うわけだが、これまでの恐竜ごっこなどとの違いが生まれてきた。それは一対一で対峙する戦いだけでなく、力を合わせて敵と戦う、という新しい選択肢の発見である。

「父さん船長、船に乗って!怪獣をやっつけるんだ!」

「打てー!」

「やられたーって言って」

「負けないぞーって言って」

力を合わせて一緒に怪獣と戦う。これは今までにはなかった展開である。
そんな折、息子がなにやら大声で自分を呼んでいる。

「父さん!大変だよ!父さんの部屋に虫がいるよ、早くきて!」

最近図鑑を手に入れたことによって、ダンゴムシやアリの他にもカミキリムシやカメムシ、セミや蝶などにも関心と知識が増えたことで、息子は虫に対する反応がかなり鋭くなっている。そこにきて仕事部屋に何かがいると言われたら、最初に疑うべきは自分の最も苦手なあの黒くて素早く動くヤツである。
息子に導かれて仕事部屋に向かい、「どこにいる?」と聞くと、しっかりと指差した天井の先に、予想通りヤツがいた。換気や洗濯のたびに窓を明けていたこともあって、どうやら侵入を許してしまったらしい。
あわてて常備しているスプレーを手に取るが、こう言う時に限って中身が切れている。

「見張ってて!頼む!絶対に見逃さないで!」と伝えて全速力で新しいスプレーを取りに行き、震える手でノズルをはめこみ部屋に戻ると、息子はしっかりとヤツの動きを監視していた。

「あそこにまだいる!」

狙いを定めて渾身のスプレーを発射すると、直撃を受けてヤツはそのまま床に落下した。
しかし、そこからが問題である。
こういう場合何よりも恐ろしいことは、奴がまだ生きたまま行方ををくらまし、いつどこでまた現れるかわからないということである。息子は懐中電灯を携え、自分は携帯のライトをつけて近辺をくまなく捜索した結果、ギターのケースの間に落ちているヤツの姿を確認した。

「父さん、まだだよ!まだもじゃもじゃしてる!」

どう考えても必要以上の量のスプレーを放射した結果、この戦いは決着を見たわけだが、その後の自分たちの絆はかなり深まることになった(と勝手に思っている)。

なんなんだ、この結束感は。

直前まで海賊ごっこをしていた息子は、実戦で「一緒に戦った」ということに非常に満足感を持ったらしく、誇らしげにそのことを思い出しては話すようになった。

「このくらい大きいやつだったね」
「一緒に戦ってやっつけたんだよ」

誇り高い戦士のような表情を浮かべながら「このくらい大きかった」と言う指のサイズが、話をするたびに少しずつ「盛られている」ような気もするが、力を合わせて問題を解決することの素晴らしさを実感できた良い機会だったのではないかと思っている。
それが父の最大の弱点のひとつでもあるあの黒いヤツであったことだけは今ひとつ納得がいかないが、あの時、自分たちは養育者と子どもという関係から、確かに一緒に戦った仲間になったのである。

正直、虫があまり得意ではない自分にとっては昆虫図鑑を何度も読まされるのはあまり心穏やかな時間とはいえないので、できたらもう少しほのぼのとした絵本などを読んで欲しいとも思いつつ、日々の成長を実感しているところである。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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