紙書籍大好き・アナログ派のための電子書籍事始め(3)

みなさまこんにちは。

こちらは、ホテル暴風雨・雨オーナーこと斎藤雨梟が、電子書籍「プロの絵本づくり」(1)(2)刊行を記念して、電子書籍について書くシリーズの3回目です。

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前々回と前回はこちら↓

(1)電子書籍とは何か。どこで入手してどうやって読めるのか

(2)電子書籍の一般読者にとってのメリット・デメリット

今回は、「本」「読書」という文化にとって、本の作り手にとって、本にしてまで残し伝えたいと思う情報それ自体にとって、電子書籍にどんなメリットがあるか、何をもたらすのか?  を考えてみたいと思います。

地球環境にとっての電子書籍

電子書籍には環境負荷の軽減というメリットがあります。紙を使わない、流通のため物や人を移動させるエネルギーが少ない、印刷・製本が不要などが理由です。安価で大量にできる「紙」は情報伝達の主役でしたが、それは本来限りある木材や石油などの地球の資源を無尽蔵に近く見積もっていたからで、同じ感覚で今後使い続けることは難しそうです。電子機器と電波を使った電子書籍の制作・流通にもエネルギーは必要ですが少なくて済み、技術次第で今後さらに省力化できるでしょう。

本を作るコストと電子書籍

コンテンツを本の形にして販売する側からの意見として、「制作するコストが安い」をメリットとしてあげる声と、「いやいや電子書籍にだって紙以上にコストがかかる上売れないのだ」という意見と、調べてみると両方あるのが混乱させられるところです。

詳しくここには書きませんが、どちらも詳しく読んでみると、コストの算定がまちまちなことは、「電子書籍がまだフォーマットやプラットフォーム、ユーザが使う端末やアプリなどの点で固まりきっていない」ことに起因するように見受けられます。

「プラットフォームに偏りなく大規模に展開しよう」とするとコストが高く、「自費出版本を手売りする感覚で販売しよう」とするとコストが低くなる(感じられる)のではないかという印象があります。

前者、大きな出版社が書籍の電子版を出す場合などですが、例えばAmazonだけで出版するわけにはいかない(読者が偏るという意味でも、特定企業に流通の全てを任せるという意味でもよろしくないと判断しそうなところです)ので数十以上あるプラットフォームすべてに対応するファイルを作り、使用アプリをすべて把握してどの環境でも読みやすく配慮し、「ファイルが開けず読めないんですが」なんていう苦情にも全部対応し(本来アプリや端末の問題ですが、たくさん売れる本を作っている有名出版社ならば直接問い合わせが来ることも想定するでしょうし、実際来るのではないでしょうか)、毎月各プラットフォームでの売上を管理し、大勢いる著者にも報告し印税を振り込もう、などと考えたら確かに大変です。最新のフォーマットや主流をなす閲覧アプリ・端末に精通している専門スタッフを雇おうにも数が少なく人件費がかさむでしょうし、web上での広告・宣伝にもコストがかかります。紙書籍に比べどれほどのものかはわかりませんが、紙書籍の市場は縮小ぎみとはいえ現在も主役ですから力を入れる価値があるのに対し、まだあまり売れていない電子書籍に敢えてコストをかける理由が、十分あるとはいえないかもしれません。

後者、コンテンツを作った本人が個人で電子書籍を出版しようという場合などがこれにあたりますが、とりあえず偏りが生じることには目をつぶってAmazonだけ、楽天だけ、でもよしとして、本は内容重視で、表紙やデザインは素人くさくなってもやむなしとして自分でやる。またはそこだけ人に依頼する。作ったコンテンツをフリーソフトでEPUBなどの形式にしてアップロード。コンテンツが正常に開けるかどうかはサンプルで試すことをユーザに促し、それでも「開けない」「読めない」などの苦情があれば自分でよく調べ、ファイル自体に悪い点が見つからなければプラットフォーム側に問い合わせて伝える。アプリ仕様や主流をなす端末が変化してきたら、その時になって対応する。売上は自分が把握していれば十分。宣伝はTwitterやブログなどで自分で頑張る。こう考えれば、本をデザインしてデータを作って印刷所に発注して売ってくれるところを探して営業して宣伝して発送して……を全部自分でやるのに比べれば手間も費用も少ないということになります。

コストの算定が違うのはこの2タイプの差異だけにはよらないかもしれませんが、製作・流通のしかたが確立した紙書籍の世界では、大部数を発行し販路を持つ出版社が強い一方、電子書籍のようにまだ何もかも過渡期にある新しい世界では、規模が大きいことよりも小回りのきくことにメリットが生じるとは言えるでしょう。

コンテンツを作る人にとっての電子書籍

上述したように、発表したいコンテンツをすでに持っていて(あるいはまだないけれど作りたいと思っていて)本にしたい個人にとっては、電子書籍はメリットが大きいです。いきなりそれほど売れないにしても、紙の本を自費出版して売れないのと違ってリスクは小さく、自信のある本を市場に長く出しておけるのだから売れるチャンスはあります。

ユーザーにとってのメリットのところでも触れた「ここでしか出会えない」本は、おそらく作り手側のこういう理由で電子書籍ショップに並びます。電子書籍の出版点数は増えているので、その中で目立ち、見つけてもらい、さらに買ってもらうのは大変なことですが、紙書籍より大変とは言えません。よほど大きな書店でも置いていない紙の本はたくさんあります。本屋さんで本と出会い、手に取り、買って持ち帰って読むというのは奇跡のようなドラマですが、その中で、「この本をうちの店の本棚に並べて売ろう」という書店側の判断の占める割合はかなり大きい。書店の人に「素晴らしい本だからぜひ売りたい」または「この本は売れるだろう」と思われなければ本が並ぶことはなく、並ばない本の方が圧倒的に多いのですから。

対して、電子書籍ならば、たとえランキング最下位・売上ゼロでもお店には並びます。「良いセレクトをする良い書店に行き、ぶらぶら本を物色する」というのも確実に読書の楽しみのひとつです。それを最優先する読者にとって、電子書籍ショップは本が探しづらく、電話帳を読まされるような苦痛を感じるかもしれません。が、「いい本かどうかは、書店じゃなくて自分が探して判断する!」という開拓者のような読者にとって、おびただしい本の中から「この一冊」を見つけ出すことは、紙の本との出会い以上のドラマかもしれません。もちろんこれぞというコンテンツを世に問う作者にとっても。

「読書」文化にとっての電子書籍

電子書籍の読者層は現在のところかなり偏っている印象です。電子書籍をよく読むという人に、私はあまり会ったことがありません。ふらりと書店に入れば誰でも手に取れ、買うことのできる紙書籍に比べ、電子書籍はまず読書端末やスマートフォンを持っていないと読めず、わざわざユーザ登録しアプリを入れ、本を検索し、探し出して購入し、ダウンロードしないと読めない。

でも逆にスマートフォンなどの機器さえ持っていれば、書店が近所になくても歩けなくても本を買えるということで、目が悪い人にはフォントの拡大やコントラストの調整、見えない人には読み上げ機能と、「読みたくてもなかなか読めない」人へのハードルを下げてもいます。読者が紙書籍以上に多様に広がる可能性があるのは希望です。

また、個人や小規模事業者に参入しやすいということは、出てくる本の種類も変わる可能性があるということです。本の世界が多様で豊穣なものになるか、いたずらにセンセーショナルでわかりやすいものが他を駆逐し単調になるかは、今後試されるところでしょう。

電子書籍ショップは大抵デフォルトで本が売上ランキング順に並び、ジャンル別、出版日別にしたり、キーワードで検索をかけて探すことができます。AIによる「おすすめ」(ユーザーの閲覧傾向に合わせて選ばれた本)も出ますが、書店のように選ばれた本を考えられたレイアウトで並べる場とはまだまだほど遠い探しにくさで、「特に興味のなかったジャンルの本がふと目に入る」という出会いが起こりにくいと言えます。電子書籍市場のまだ洗練されていない点で、紙書籍の「個性派書店」が注目され支持されるのも、紙書籍の書店に求められていた役割のうちコアな部分があぶり出された結果にも見えます。

良い書店は、センスの良いセレクト、視界の中心から辺縁までがさりげなく目に入る一覧性、探すこと自体の楽しさ、本の知識を持つ人が常にいる安心感、などの点が電子書籍ショップとは比べ物にならないほど優れています。こうしたユーザビリティと紙書籍の良さの詰まった書店の存在は、音楽のデータ配信やyoutubeが台頭してきてもライブに行く人が一定数いるのと同様、楽しみとして読書を求める人がいる限り紙書籍は完全になくなりはしないと思わせてくれます。

一方、セレクトの妙を売りにした書店はネット上でも展開できますし、一覧性の良さや探す楽しさは、VRを使用などすれば向上するはずで、どちらも電子書籍と相性が良いものです。ライブ感の良さは紙書籍と書店に譲り、表紙の色で検索できるとか、主人公の名前で探せるとか、宇宙空間で読書する気分が味わえるとか、これまで思いつかなかったような別の読書の楽しみが打ち出されるのではないでしょうか。

読みたい本・役立つ本・心に響く本は、その時置かれた状況や気分、ライフステージで異なるものですが、「状況や気分」などもシミュレートする読書体験が提供されれば、これまで少数の人にしか読まれなかった本の良さを多くの人が知る可能性も、まったく新しい本が出現する可能性もあります。進化の方向次第で、紙書籍と住み分けつつ共振する電子書籍が生まれ、読書文化は豊かになるのではと私は期待します。

コンテンツ自体にとっての電子書籍

本の内容にとって何がメリットか、それはより多く複製され、より広く、長く、深く読まれることではないかと思います。複製のしやすさ、それによる広まりやすさでは電子書籍に軍配が上がります。紙書籍も、物体そのものだけで完結していて端末も電源もいらないところは優ります。長く保存できる点ではどちらも一長一短ありますがやや電子優勢。今後性能の向上が期待できる機械翻訳と相性が良く、翻訳出版を経ずとも世界中へ広がる可能性を考えると、文字の本ならばそこは電子書籍。深く読まれるかというところは、読者依存なのでイーブン。

好きな本の「中身」に人格がありそれが自分だったら、紙書籍になりたいか電子書籍になりたいか、そしてどんな人に読まれたいか、妄想するとなかなか面白いものがあります。

私が日本語で書かれた小説だったら、文庫本か、まだこの世にはない新しいタイプの電子書籍になって、どこか遠い外国に住み、密かに日本語を独習した、本好きの聡明な少女に読まれたいなあと妄想します。

さて、ページトップの絵は、「二羽の盆栽フクロウ」。プロの絵本作り(2)の表紙のための絵ですが、表紙とちょっと違うのがおわかりでしょうか?

答:背景が少し描き込まれています。

次回は、紙書籍と電子書籍のこれからについて考えます。よろしければまたお付き合いください。


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