将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第8回

さて、五の三の将棋クラブでは、ジュンがさっそくトオルをすわらせ本将棋を始める一方、トモアキが苦戦していた。こちらは将棋ではなく、勧誘活動だ。

「大会ねえ。トモアキたちは強いからいいだろうけど」
「福祉会館って本町の方だろ? バスで行くの? たまの日曜にそんなとこでかけるの、たるい」
「おれも、その日はダメ」
なんて予想通りの反応だろう。やはりこういう連中なのだ。

「それよりまわり将棋しようぜ」
「おう、先週はぼろ負けだったからな。借り返してやる」
「なんの、返り討ちじゃ」
「ちょっと待ってくれよ」
「トモアキくん、今は将棋クラブの時間だよ。しゃべってないで将棋をしなさい、将棋を」
なんだよ、えらそうに。おまえらのはまわり将棋だろうが。
トモアキが舌打ちしていると、ジュンがトオルに合格を出した。
「意外とやるよ、こいつ。チームに加えよう」
ということは、あと一人だ。
トモアキは戦略を変えた。六年生を誘うのはあきらめて、五年生にターゲットをしぼる。加藤カンタは休み。相馬コージのやつは生意気でセンパイをセンパイとも思わない。すると残るは……あいつだ。吉田ヒロキ。人数があまって、まわり将棋を横で見ている。
「吉田くん、吉田くん。将棋やろう」
「ぼ、ぼく、本将棋は‥‥」
ふんいきを察知して逃げ腰の吉田ヒロキを教室のすみの席につれていき、コマを並べさせる。

「なんだ、できるじゃないか。大会出るよな?」
いきなり強引だ。
「え? あの、その、でも……」
「あのそのでもじゃないっ!」
トモアキも必死である。こいつを逃しては大会に出られないと思っている。吉田ヒロキはその気迫に負けた。思わずあごを二センチほど引いたら「うん」と言ったことにされてしまい、もう訂正はきかなかった。

――――続く

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