将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第33回

こども将棋大会のチラシは宮原さんのところにまとめて送られてきていた。それをこれから地域の小学校や公民館、児童館や学童クラブに配って掲示してもらうのだという。

「がんばれよ。前回が二回戦だから今度は三回戦には進まないとな」
「いえ、出るからには優勝を目指します」
「お、大きく出たね。今度は市の広報やコミュニティー誌にも案内をのせるそうだから、参加チームも多いかもしれないんだよ」
「これからチーム組むような人たちに負けません。わたしたちは半年がんばってきたんだから」
アサ子の言う通りだ。やるべきことをやってきたという自信がトモアキにはあった。負ける気はしない。

日程は予定通り十一月三日、文化の日だ。会場は前回と同じ福祉会館。持時間は二十分、決勝では三十分になる。
盛り上がっているところに、ジュンがおくれて入ってきた。
「ジャーン!」
アサ子がチラシを顔の前につきだす。ところがジュンはのってこなかった。ああ、とうなずいただけだった。
「ほら、決まったのよ」
ひょうしぬけのアサ子がきまり悪そうに言う。
「そうか」
「そうか? そうか、ってなによ」
「そうかはそうかだよ。十一月三日だろ。前からわかってたじゃないか」
へんな口ぶりだった。
アサ子が追求しなかったからその場はおさまったが、将棋を始めたあともトモアキはそれが気になった。
(ジュンのやつ、なんかあったのかな?)

トモアキの心配は的中した。西公民館からの帰り道だ。
「やめるってどういうことだよ!」
思わず声が大きくなる。前を歩いている買い物袋のおばさんがふりむいた。
いつもとは似ても似つかない小さな声でジュンはぼそぼそ言う。
「親がうるさいんだよ。野球も将棋もやっていつ勉強するんだ、どっちかやめろって」

――――続く

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