将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第42回

先にトオルが負け、カズオが勝っていた。
ジュンが上げた二勝目で事実上勝負は決まった。残る二局のうち副将戦はトモアキの圧倒的リードで、まず逆転の心配はなかったからだ。
まもなくアサ子が負けたが、トモアキが順当に勝って、三勝目。青葉小+1の決勝進出が確定した。

決勝の相手は、予想通りというか期待通りというか、前回優勝のと金倶楽部チームだ。あいかわらず強い。一回戦を全勝、二回戦と準決勝を四勝一敗でぬけている。と金倶楽部に勝つことを目標にしてきたトモアキたちにとっては、最高の展開になった。
「カントク、決戦を前にひとこと」
ジュンがマイクをつきだすまねをする。
「ははは、ここまで来て何も言うことはないよ。悔いのないよう、せいいっぱいやればそれでいい。でも――」
シュウイチは言葉を止めて、みんなを見回す。
「せっかくだから勝つか、な?」
「もちろん」
五人の声がピタリそろった。
定刻となり、両チームの選手が席につく。アサ子の記憶にまちがいがなければ、と金倶楽部も前回とまったく同じ顔ぶれで、しかも大将から先鋒までの順番も変わっていない。ということは、春と同じ顔合せは大将戦だけだ。
運営委員からアナウンスがあった。
「決勝は持時間三十分になります。まちがえないようにチェスクロックをセットしてください」
決勝戦はギャラリーが多い。同時に行なわれる三位決定戦の倍はいる。その中には佐藤ユリカ、エリカ姉妹の姿もちゃんとあった。
「それでは、決勝戦、始めてください」
いっせいに振りゴマが行なわれ、アサ子は先手になった。
「お願いします」
礼をしながら半年前のことを思い出す。あのときは人数が足りなくてアサ子はいやいや出場したのだ。ほとんどコマの動かし方しか知らなかったし、将棋のおもしろさも知らなかった。
たった半年で、変われば変わるものである。

――――続く

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