絵本作家になる方法 公募の絵本コンペ(コンテスト)その2

ぼくが絵本を作り始めてからデビュー作の『とんでいく』が刊行されるまでは約3年だった。採用になるまで1年、制作に2年。早い方だと思うがそれには理由がある。その前に5年間童話や児童文学を書いていたのだ。絵本と童話は違うが、ストーリーで伝えるという基本は共通している。そういう意味で、8年間勉強して作家になったといってもいい。

絵本コンペに応募したことはないが(文のみでは応募できなかったから)、童話・児童文学のコンペにはずいぶん応募した。
長編(100枚以上)のコンペではたいがい入選するか少なくとも最終選考には残った。一方、5枚以内の短編はほとんど選外だった。
それだけ見ると長編の方が向いているようだが、結局今は絵本という文章量が極端に少ないジャンルを専門にしているのだからわからないものである。

2017年3月まで池袋コミュニティ・カレッジで絵本の講座を持っていた。受講している方から応募の相談を受けることがあるので絵本コンペの情報はチェックしてきたが、正直ここ数年にできたものまでは知らない。絵本に限らないが、数回で終わってしまうような賞もけっこうあって、それまで追っているときりがないのだ。

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ではおすすめ絵本公募の続き。

日産 童話と絵本のグランプリ
一般企業主催ではあるが紹介したい。それくらいの老舗。今年33回目になる。続けるというのはそれだけで立派なことである。主催者の本気度を感じる。
子どもを対象とする作品とうたっているが、案外大人っぽい作品も入賞する。これは児童書出版社主催でないことと関係あるかもしれない。
ストーリーより画力・デザインセンス重視の印象もある。純粋にストーリー勝負の童話部門が別にあるからかもしれない。
出身作家に、みやざきひろかずさん、みやこしあきこさん、など。
(長く審査員を務められた杉田豊先生が5月19日亡くなられた。ご冥福をお祈りします)

MOE創作絵本グランプリ
白泉社の雑誌MOEが主催する絵本賞。絵本の雑誌も以前は複数あったのだが、あらかた休刊し、MOEは貴重な存在。
以前は4枚で応募するイラストコンペに近いものだったが、5年前から24ページか32ページの本格的絵本コンペになった。「おひさま大賞」同様、主催者が雑誌なので、受賞者が今後活躍するための舞台が用意されていることが一番の魅力だろう。
どんな賞でも、主催者がどんな作品を求めているかを考えて応募しなければいけない。「おひさま」と「MOE」を読めば傾向が違うのはわかるはずだが、それに合わせて作るのはあまりおすすめしない。それより自作に合う賞を探す方がずっといい。

いたばし国際絵本翻訳大賞
翻訳の賞も一つ紹介したい。世界最大の児童図書展が開かれるイタリア・ボローニャ市と姉妹都市であることから板橋区は絵本にとても力を入れていて、毎年板橋区立美術館ではボローニャ国際絵本原画展が開かれる。時期はいつも夏で、今年もまさに開催中
絵本の翻訳コンテストは珍しい。しかし絵本を翻訳するのはとても絵本の文章の勉強になるのだ。絵を見ながらそれにぴったり合う言葉を探っていく。それが絵本ならではの書き方だ。翻訳家でなく作家を目指している人も挑戦してみる価値がある。
英語部門とイタリア語部門あり。

ボローニャ国際絵本原画展
有名な国際コンテスト。しかし誰でも応募できることは案外知られていないだろうか。
上記板橋区立美術館のサイトにていねいな案内がある。イタリア語か英語で応募フォームを書かなければいけないとか、作品を海外発送することになるなどハードルはあるが、応募資格は全ての人に開かれている。
ただ本当は絵本コンペではなくイラストレーションのコンペである。応募するのは5枚の絵だけで、ストーリーは要求されない。英語ではIllustrators Exhibition なのになぜ絵本原画展と訳したのかはちょっとわからない。
入選しても日本の出版社はあまり評価してくれないという声を聞くがこれはある意味しかたない。絵の力の証明にはなるが、絵の力だけでは絵本は作れないからだ。
ボローニャ展入選をきっかけに海外で絵本を出版した人は多いが(ぼくの友人にもたくさんいる)、これも入選したら海外の出版社から声がかかるのではなく、会場で自分から売り込むのだ。展覧会が開かれるボローニャ国際児童図書展には世界中の児童書出版社が集まっているから実力とやる気があればチャンスは無限にある。
つまり入選はゴールでなくスタート。生かせるかどうかは自分にかかっている。

最後にぼくが審査員を務めている2つの絵本コンペもひかえめに紹介させていただこう。

絵本塾カレッジ創作絵本コンクール
2021年に第4回となるまだ新しいコンクール。大賞作は絵本塾出版から出版される。第1回大賞の『よっ、おとこまえ』(いがらしあつし・作)、第2回大賞『アリペン』(藤田あお・文 延近萌・絵)が好評発売中。絵本の世界に新風を吹き込んでくれる新人を求めています。

絵本テキストグランプリ
前回紹介した絵本テキスト大賞につづく2つ目の「文だけで応募する絵本コンペ」。絵本の文を志す人は多いので、チャンスが年に2回になったのは大きいはず。日本児童文芸家協会と絵本塾カレッジの共催で、こちらもグランプリ作は(プロの画家の絵がつき)出版される。

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他にも絵本のコンペは多数あるからぜひ自分に合うものを探してみてほしい。
どれも数百の応募があるから狭き門ではあるが、挑戦すること自体に意義がある。コンペには締切りがあってそれまでに完成させなければならない。目標があれば集中して書き上げられるものだ。

絵本作家になるもう一つの道、持込みについては次回。

(by 風木一人)


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