『いぬのおばけ』歩き続けていくこと。望んだわけでなくても。思い通りにいかなくても。

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『いぬのおばけ』(長新太・作 ポプラ社)

2005年に亡くなった唯一無二の絵本作家、長新太さんの2003年の作品。
いつもながら不思議なお話です。
長さんが不思議でないお話を作ったら、それこそ不思議というものでしょう。

主人公は女の子。道に倒れたイヌを見つけ、かわいそうだから病院に連れていってやろうと、おんぶして歩き始めます。

ところがこのイヌ、普通じゃない。背中でだんだん大きくなるのです。みるみる女の子より大きくなって、さらには、いつのまにかイヌの上にもう一匹イヌが乗っている!

どうしよう? これはいぬのおばけかしら? おもいなあ、おもいなあ、と思いながら、気のやさしい女の子は歩き続けます。重いからといって放り出したりはしないのです。

どうやら普通の病気のイヌなんかじゃないのだから、病院に行ってもしかたありません。夕方になって鳥たちがおうちに帰っても、夜になって月が出ても、女の子は歩き続けます。

月の光が背中にさして、ふっと身体が軽くなったと思うと、不思議なイヌはスーッと消えて、女の子はおうちに帰ります。「おかあさーん、ただいまーっ」。

このイヌはいったいなんでしょう?
拾ったときは小さくて、だんだん大きくなる。重たいけれど捨てられない。正体もよくわからないけれどずっと背負っていくしかない。結局自分の働きかけではなく、外からの力(月の光)でスーッと消えていく。

主人公はずっと一人で重荷を背負っていきました。重くてもイヌを憎んだりせず、むしろ同情を寄せながら。長い孤独な道のりのすえ最後に解放され、一番安心できる人のところに帰ります。

これは長く生きてきた人にしか作れない絵本かもしれません。

(by 風木一人)


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