24回目です。
私はしばしば原稿に間違った回数を書いてオーナーを困らせていたのだが、今回は確認したので間違いない。24回目である。
実はこの連載「心・脳・機械」は20回くらいで終わりになる予定だったので、すでに延長戦に入っているのである。というわけで、何か書き忘れたことがないかなとチェックしながら、あと数回で書いていこうと思いますので、お付き合いください。
もっとも、書くのが大変だから先送りにしているネタもあるのだけれど。今回はまず小ネタから。
「脳を活性化する」というのは、サプリの広告や新書のタイトルでよく目にする言葉である。では脳の「活性化」とはどういうことだろう?
脳の活動の主役は神経細胞(ニューロン)の電気活動(活動電位)だ。だから、活動電位がいっぱい出れば、脳(のその部分)が活性化したということになるのだろうが、活動電位というのは、出ていれば良いというものではない。活動電位は、それぞれ何かの意味を担った信号なのだから、出るべきでない時に出てはいけないのである。なお、脳の広範な領域がやたらと「活性化」することもあるが、それは癲癇という立派な(とても恐ろしい)病気である。
まあ、言葉尻を捉えて揚げ足取りをしても仕方がないのだが、「脳の活性化」が物売りの宣伝文句に使われることが多いから、ついついツッコミを入れたくもなる。
さて、「脳の活性化」が宣伝文句として使われるということは、裏を返せば、「私の脳は不活性化しているのではないか」という不安を抱えている人が多いということだろう。
自分の脳の活動を調べたことのある人が世の中にそれほどいるとは思えないが、中高年になると、物忘れをしてハッとした経験のある人はたくさんいるだろう。スーパーの駐車場で、どこに車を止めたか思い出せない。面白い話を人に聞かせてあげたら、「この前聞きました」と言われた(これは痛い)。などなど。
記憶というのは脳の機能だそうだから、私の脳は不活性化しているのではないだろうか。特に最近は、高齢者の認知症が社会問題になっているし、身近で重度の認知症の方を見ている人もいるだろうから、自分の記憶力(=脳機能)の低下というのは、不安・恐怖を引き起こすのに十分だろう。恐怖の感情は、強力な動機付けとなる。そんなときに、「脳を活性化する」という商品を見せられたら、思わず買ってしまっても、全くおかしくはない。親切な人が、その商品の怪しさをいくら論理的に説明してあげても、あまり効果はないだろう。知識や理性が感情に勝てるのは、かなりの好条件が揃った場合だけだ。やはり、根本の不安を取り除くというのが目指すべきところだろう。
ところで、最近介護の現場では、回想法というアプローチを使って、認知症の予防や不安の低減に効果を挙げているそうである。エッセンスは、同世代の人が集まって昔の思い出話をするという簡単なことだ(実際には、いろいろ細かなテクニックがあるのかもしれないが)。
その結果、「昔のことを思い出して言葉にしたり、相手の話を聞いて刺激を受けたりすることで脳が活性化し、活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となります。また、昔の思い出に浸り、お互いに語り合う時間を持つことで精神的な安定がもたらされます。」(公益財団法人 長寿科学振興財団HP)ということだから、たいしたものだ。「脳が活性化」というところが大人心をくすぐる。
これなら簡単だ。同世代数人で酒でも飲んで昔話をすれば良いのである。怪しげなサプリを飲むより、ずっと健康的(?)である。
我々の脳の活性化のためにも、早くコロナが終息して、そういう飲み会を気軽に開ける状況になって欲しいものである。
(by みやち)