日本映画の秀作3本。熱い「ストリート・キングダム」、軽やかな「ラプソディ・ラプソディ」、重い「LOST LAND/ロストランド」

今年、日本映画も沢山の秀作を生み出している。今頃見たが、まず、3月公開の「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ」が面白い。1980年前後の、日本の草創期のパンクロックシーンを描く。写真家だった地引雄一の原作を基に、宮藤官九郎が脚本を書き、田口トモロヲが監督した。

「ストリート・キングダム」監督:田口トモロヲ 出演:峯田和伸 若葉竜也 吉岡里帆ほか

「ストリート・キングダム」監督:田口トモロヲ 出演:峯田和伸 若葉竜也 吉岡里帆ほか

地引氏をモデルとしたユウイチ(峯田和伸)が語り手になり、「東京ロッカーズ」を始めとした様々なパンクグループの活動が描かれる(「東京ロッカーズ」とは1979年、新宿ロフトで行われたライブコンサートに集まったグループの総称)。

映画の中心はユウイチがカメラマン兼マネージャーを務めた「TOKAGE」のボーカルであるモモ(青葉竜也)や女仲間サチ(吉岡里帆)。
SNSも何もなかった時代に、商業化されたメジャーなロックグループに対抗して、オールスタンディングの小さな会場でライブコンサートを開き、自分達のための音楽を追求していったインディー系のメンバーは熱い。

同世代であるにもかかわらず、当時、パンクロックの「パ」の字も知らなかった古希過ぎた自分も面白く見た。公衆電話、商店街の小さなレコード屋、手動の印刷機など、時代が懐かしいということもあるが、登場人物が、汗臭く人間臭く、ずっこけで、熱中して青春を生きる姿がいいのだ。自分だって、あの時代、音楽ではないけれど、ささやかだが夢中になったものがあったなあ、と。

コンサート場面は、当時の音源を使ったそうで迫力あって楽しめる。この映画、まあ、本筋も面白いが、出て来る人物がメッチャ面白いし、スゴイキャスティングなのだ。
実在の人物だが、コンサートで全裸になり、観客に向かって豚の頭を投げつけたり放尿したりする未知ヲ(仲野太賀)が面白い。そして、ラスト近く登場する、高知の田舎から出てきて日本風の「自分の踊り」を踊るヒロミ(中村獅童)の不思議な存在感と面白さにはほとんど脱力するぐらいだ。なんだこりゃあ。

「ラプソディ・ラプソディ」監督:利重剛 出演:高橋一生 呉城久美ほか

「ラプソディ・ラプソディ」監督:利重剛 出演:高橋一生 呉城久美ほか

次は「ラプソディ・ラプソディ」。30代後半の平凡な会社員である独身男夏野幹夫(高橋一生)がパスポート更新のため戸籍を見ると、自分が結婚していることになっている!自分の家の近くの花屋で、夏野は「妻」となっている女性を見つけると、女性は逃げ出し、この二人が街を走りに走る。
この映画は、この話のツカミが中々見事で、すぐに映画に引き込まれる。映画は、お人好しでなかなか怒ることのない夏野と、ちょっと勝手な女の子繁子(呉城久美)のラブストーリーとなる。
二人ともそれぞれ過去の事情を抱えているのがいい。幹夫が語る、お祖母ちゃんの言葉が好きだ。「喜怒哀楽」を感じる人生の方が何もない人生よりいいんだよ、という言葉だ。

脇の演技陣がみんな大変いい。繁子が時々見舞う、老人ホームにいるお祖母ちゃん役の大方斐紗子も存在感抜群。歯医者をする幹夫の伯父さん役の利重剛もいいが、彼は、この映画の脚本・監督。よくここまでやれると思ったのは、幹夫の会社の年増の独身女性毒島りずむ(名前がスゴイ)役の池脇千鶴。プレゼントを何回も幹夫にあげ、もう、いじましい。

横浜のロケーションがとてもいい。街の端々が魅力的に撮れている。幹夫が暮らすオンボロマンションに住んで見たくなった。遠くにレインボーブリッジが見えるのだ。高橋一生はこの役にピッタリだと思う。呉城久美はやや硬く今一歩だが、応援したい人だ。京都大卒の俳優さん。

「LOST LAND ロストランド」監督:藤元明緒 出演:ムハマド・ショフィック・リア・フッディン ソミーラ・リア・フッディン他

「LOST LAND ロストランド」監督:藤元明緒 出演:ムハマド・ショフィック・リア・フッディン ソミーラ・リア・フッディン他

好きな映画をもう一本!まだ38歳の藤元明緒監督の作品「LOST LAND/ロストランド」は、何と、ロヒンギャ(ミャンマーで迫害を受けるイスラム教の人々)の幼い姉弟が叔母と共に小さな船でマレーシアまで行こうとする映画だ。全編、言葉はビルマ語、タイ語である。
5歳の少年シャフィと9歳の姉ソミーラは難民キャンプにいるが、パスポートもなく密航業者の船に乗るが、叔母とは途中で離ればなれになる。陸にたどり着くも、身の危険を感じ、二人だけで逃走してしまう……。

映画は、ドキュメンタリータッチである。対象を突き放した厳しい演出だ。監督の奥さんがミャンマー出身の方だそうだ。これが3本目であり、悔しいことに以前の2本は未見である。2本目の「海辺の女性たち」(2020)は、ベトナムから来て青森で働く日本の技能実習生を描いた映画だ。DVD化もされていない。今、猛烈に見たい映画である。

(by 新村豊三)

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