この2月6日水曜日、夜のNHK報道。夢見る少年のように目をキラキラと輝かせた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の関係者が、「はやぶさ2」の着陸説明をしていた。現在「はやぶさ2」は小惑星「りゅうぐう」の上空に待機中で、この2月22日にいよいよ小惑星に着陸するそうである。楽しみがひとつ増えた。政府関係者にせよ、企業重役にせよ、最近はTVに出てくる理由が説明責任やら陳謝やらばかりで、眺めているこっちまで憂鬱になりそうな渋面ばかりの中で、久々にいい笑顔を見た。
さてそんなわけで「はやぶさ2」はいよいよ小惑星に着陸する。着陸してなにをするのか。機体の一部を地表に押しつけるようにして、岩石を拾う。拾ったらすぐに上昇する。そして地球に持ち帰る。……とこういうわけである。小惑星の石がそんなに大事なのか。これはもうじつに様々な分野で「めっちゃ大事」レベルなんである。少々オーバーな表現を許していただけるならば、
(1)生命誕生の謎が解明されるかも。
(2)太陽系成立の解明にいたるかも。
(3)小惑星に基地を作る計画の突破口になるかも。
……という具合に、研究者たちにとってファンタスティックな石なんである。
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NASAとしては無人とはいえ、小惑星着陸という史上初の快挙を日本に譲ってしまったのは、ちょっと悔しいかもしれない。前回の「魔の石(3)」でも触れているが、なにしろ最近のNASAは小惑星に夢中だ。「小惑星にある豊富な鉱物資源を存分に活用し、小惑星自体を土台にして宇宙ステーションにしてしまう」という計画を立てている。さらに話は進展し「小惑星に推進力をつけて惑星にぶつけてしまう」なんてSFめいた計画(RAMAプロジェクト)まで大真面目でやろうとしている。この「惑星改造計画」あるいは「惑星地球化計画」はテラフォーミングと呼ばれている。
……で、「惑星改造を本気でやりまっせ。そのための予算を集めるつもりでっせ」という段階になって、「はて、隕石をぶつけて不毛惑星の環境を変えてしまう。我々が住めるような環境の星に変えてしまう。それは誠に結構な話ですが、そもそもこの地球も大昔にそれと同じことをされたんじゃないですか?」と唱える学者が出て来た。
このあたりの話の新たな展開が、筆者としては興味がつきない。つまり「地球もその方法で生命が生まれたんじゃないの?」「地球もそうやって改造されたんじゃないの?」といった説が一気に浮上してきたのだ。
これは「古代宇宙飛行士説」と呼ばれている。SF映画が好きな人であれば、「プロメテウス」(リドリースコット監督/2012年)を連想する人が多いだろう。あの映画では「人類はどこから来たのか」というじつに壮大なキャッチを使っていた。
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「そんなことはない。地球は別格だ。我々人類は特別だ」などと唱える学者は、いまや「地球が動いてたまるか。天が動いているんだ」とかつて唱えていた学者のような立場にどんどん追いやられているのかもしれない。そのような時期に発見されたのが、ヒュパティアストーンなのだ。
なんだかちょっと出来すぎた話のようにも思えるほどだが、この、手の平に乗る程度の、灰色の小さな隕石。専門的な説明はさておき(……というかそもそも筆者にはそれは無理)、これがなんで研究者のあいだで大騒ぎになっているかというと、
(1)どのような隕石とも異なる成分をしている。→
(2)「多環芳香族炭化水素」(太陽系ができる前の宇宙屑)を多量に含んでいる。→
(3)太陽系の外から来たとしか思えない。→
(4)いったいどこから来たのか?→
(5)そんなはるか遠くから(他の惑星の引力に捕まらず)地球にたどり着くのは不可能。→
(6)人工的に製造された成分ではないのか?→
(7)操作されて意図的に地球に落ちてきたのではないか?→
(8)なにかメッセージが含まれているのではないか。
……という具合に謎がさらに多角的に謎を呼ぶ隕石であり、前述した「古代宇宙飛行士説」支持の研究者たちが一気に色めき立つような存在となっている。今後の進展を楽しみにしたい。
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この一大センセーショナル隕石にヒュパティアの名前を冠した命名者はだれで、その命名にはいかなる意味が託されているのか。あれこれ調べてみたが、結局よくわからなかった。
ヒュパティアストーンはエジプトの南西に広がるリビア砂漠で発見された。「エジプトといえば、かつてアレクサンドリアで活躍した女性天文学者がいた」ということで、ヒュパティアの名前が蘇った……とその程度の意味なのかもしれない。
しかしまた、マト外れの深読みかもしれないが、紀元350年頃の当時、誰も信じなかった地動説をあくまでも追求したという先駆的な存在、そうした可能性を命名者はヒュパティアストーンに期待したのかもしれない。ヒュパティアが周囲の誰もが相手にしなかった地動説を追求したように、この隕石の出現により「かつてない新説」「従来の定説を根底からくつがえす新説」……そうした新説が続々と登場してくることを期待しているのではないだろうか。
この石は確かにそれだけのインパクトを有しているように思われる。この石をめぐって第2、第3の「現代のヒュパティア」登場を大いに期待したいものである。
…………………………………… 【 完 】
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