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今回はフランケンシュタインの話から始めたい。
……などと書くと「またフランケンシュタインかよ。以前も魔談に出てこなかったっけ。この筆者はホント、フランケンシュタインが好きだよな」と言われそうだ。全くそのとおり。私はフランケンシュタインが大好きである。部屋でMacを起動してデザインワークをしていても、空模様が怪しくなりゴロゴロとうめき声を発しようものなら「おおっ」と喜び、さっさとMacの電源を落とし、その後の接近に期待する。ガラガラピシャーンと来るようであれば飛び上がって喜び、「この音響効果を逃がす手はない」という気分でDVD「フランケンシュタイン」をいそいそと出してきて観る。
さて冗談はともかく「原作フランケンシュタインは好きだが、フランケンシュタインは本当にひどいヤツだ」と言えば、なんのことかよくわからない人も多いかもしれない。じつはフランケンシュタインというのは「なぜ俺を造った!」とわめいて大暴れする怪物の名前ではない。それを造った科学者の名前である。
この科学者はとんでもない男で、元々の研究動機は「死んだ人間を生き返らせたい」という極めて崇高な願いから出発したはずだった。しかし結果、やったことは「死体を継ぎ接ぎしてひとりの大男を造る」という世にもおぞましい発想であり、しかもそれがついに実現し大男が目覚めた瞬間に、余りの恐怖に我を忘れてその場から逃走するという、無責任極まるというか、その男の名がフランケンシュタインなんである。では造られた大男の名前はどうなのか。彼は気の毒に名前さえない。
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さてロバート・コーニッシュ。
これは実際に存在した科学者の話である。彼もまた「死んだ人間を生き返らせたい」という「蘇生術」の虜となった。そのためには当然ながら「死んだ人間」が必要だ。どうしたらいいか。「まずは動物実験で成果をあげて有名になることだ」と彼は考えた。そこで彼は勤め先であるカリフォルニア大学の研究室に新聞記者を招き、「犬の蘇生実験をする」と公言した。1934年のことである。
大学も、よくもまあこんな公開実験に許可を出したものだと思うが、ともかくフォックス・テリアが窒息死させられ、シーソーにくくりつけられた。「よくもまあこんな方法を思いついたものだ」としか言いようがないが、シーソーにくくりつけて人力でギッコンバッコンする。死んだ犬は頭が上がったり下がったりする。すると体内の内蔵もまた重力の影響で、上がったり下がったりする。その影響で血管が押されて血が流れ始める。血が流れ始めたら心臓も動き始める。……という理屈だった。
「そんな馬鹿な」などと笑ってはいけない。筆者もその方法を知ったときは驚き、「なんとまあ物理的な方法だな」と思った。まるで流れの止まった水洗トイレにラバーカップを持ってくるような話だ。「そんな方法で血が逆流したりしないのか」とも疑ったが、ともあれ一時的にせよ「ラザロ4世は息を吹き返した」と当時の新聞は報じている。実験のために殺された犬の名前は「ラザロ4世」という名前だったのだ。
「ラザロ」と言えば、イエスが死後4日後に復活させた男として(キリスト教の世界では)有名である。こうした命名をするあたり、ロバートのしたたかな広告戦術を感じる。しかし「4世で成功」なのであれば、1世から3世までは失敗したということになる。実験には成功したものの、当時のアメリカ庶民から強く非難されたのは、当然と言えば当然の結果だろう。実験を許したカリフォルニア大学もごうごうと非難を浴び、ロバートは解雇される結果となる。
ところが、この後の展開がまた「いかにもアメリカ」だ。捨てる大学あらば、救う映画会社あり。ロバートの蘇生実験に目をつけたのがユニバーサル・スタジオである。その結果生まれた「Life Returns」(1936)はB級ホラー映画だが、ラザロ4世の実際の蘇生シーンを使っている。
こうして非難ごうごうの悪名とは言え、ロバートは有名になった。その後の展開がまた「ホント?……映画の話じゃなくて?」と疑いたくなるようなことが実際に起こった。なんと刑務所の死刑囚が「俺が実験台になってもいい」と志願したのだ。「どうせ死刑なんだから」という御本人の気持ちはわからないでもない。
しかし当然ながら刑務所長がそんなことを許すはずがない。「ロバート vs 刑務所長」の論争は当時の新聞を大いに喜ばせたが、これも結局は実現できなかった。晩年のロバートは「カエルのジャンプ競技」研究に夢中になっていたそうである。死んだ後は、墓石さえないという。
……………………… ……………【 つづく 】
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