【 魔のカード 】(短編魔談 16)

【 アレゴリー 】

「魔のカード」といえば、あなたはどんなカードを連想するだろうか。なにやら推理小説のタイトルめいた言葉だが、密室殺人をテーマにした推理小説でよく登場するトランプゲームでは、スリルとサスペンスはあっても「魔」と呼べるほどの状況はなかなかないように思われる。やはり「魔」を冠するカードとはゲーム展開での緊迫感を示すものではなく、そのカード自体に「魔」が宿っているようなものでなければならない。
そんなカードがあるのか。あるのだ。

それはトランプ同様に、発祥の場所も年代も不明(諸説ある)としかいいようがないタロットカードの中にある。

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さてタロットカード。
現代の日本ではトランプといえばゲームのためのカードであり、さほど怪しいイメージはない。しかしタロットカードはどうか。「占いに使うカード」というイメージが強い。またその1枚1枚に数字と文字と謎めいた絵が描かれている。そのためトランプに比べてかなり怪しい雰囲気が漂っている。

タロットカードに描かれているなにやら象徴的な絵、これは寓意画と言われている。世界にはじつに様々なタロットカードがある。サイズも天地左右の比率もまちまちで、様々な寓意画があるのが面白い。
「寓意」とはなにか。「アレゴリー」とも呼ばれる。抽象的なことを具体的に、なにかにたとえて表現したり、説明したり、絵に描いたりする。これをアレゴリー(寓意)という。

たとえばイソップ物語にキツネが出てくる。これはもう「ズルガシコイやつ」「悪だくみをするやつ」に決まっている。登場しただけで「狡猾」レッテルを貼られてしまうキツネには気の毒というほかないが、キツネはそうした読者の期待にちゃんと応えなければならない。そこでイソップ物語の世界では、キツネはいつもいつも悪いことをたくらみ、それは失敗し、どこかへ退散する。

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【 The Tower 】

話を戻そう。
あなたが多少なりとも占いに興味のある人なら「タロットカード占い」は耳にしたことがあるだろう。通常は「大アルカナ」と呼ばれる22枚のカードを使って占う。しかしじつはそれ以外に「小アルカナ」と呼ばれる56枚のカードもあり、全部で78枚もある。
さて「大アルカナ」22枚。文字だけを並べてみると、こうなる。

 愚者/魔術師/女教皇/女帝/皇帝/教皇/恋人/戦車/正義
 隠者/運命の輪/力/吊された男/死神/節制/悪魔/塔/星
 月/太陽/審判/世界

「魔のカード」はこの中にある。そう言ったらあなたはどれを選ぶだろうか。
「死神」?
「悪魔」?
どちらかを選ぶ人が多いのではないだろうか。
確かにこの2枚は要注意である。占いをしている最中にこんなカードが出てきたら、占っている方も、占いを聞いている方も、ドキッとするに違いない。
しかし(これはあくまでも私見だが)「魔のカード」は「死神」でも「悪魔」でもない。

第15番「悪魔/The Devil」登場のインパクトに紛れるように、闇からスッと出てくる第16番「塔/The Tower」。これこそ「魔のカード」だ。

なぜか。
あなたは実際に「タロットカード占い」をしているところを見たことはあるだろうか。占い師はまずはテーブルいっぱいにタロットカードを広げ、それを徐々に手元に引き寄せるようにしてまとめていく。もちろんこの時点で、カードは文字も寓意画もわからない裏面のみを見ながらやる。次に客に(手元にまとめた)カードをわたし、「占ってほしいことを頭に強く念じながらシャッフルしてください。何度やってもいいです」と告げる。客は同じように裏面カードをテーブル上に広げ、次に手元に引き寄せてまとめていく。
これが「タロットカード占い」におけるシャッフルである。

こうして数回にわたりシャッフルされたカードは占い師の手に戻る。占い師はさらにそれを数回にわたってカット(トランプのようにカードの束を手にした状態で手際良く混ぜる)し、テーブルの上に置く。

さてここから占いが始まる。
占い師は上から順にカードの表面を見せながら占いを開始する。「クロス・スプレッド」「ケルト十字法」などいくつか占いの種類があるのだが、要するにテーブルに置くカードの配置により、占ってほしい件の吉凶が次々に判明してゆく。

たとえばあなたが婚約中だとしよう。婚約者とはこの先一生、うまくやっていくことができるだろうか。そんな占いをしてもらっている最中に「死神」や「悪魔」のカードが出てきたら、「うわっ!」とショックを受けるに違いない。目の前が真っ暗な気分になるに違いない。

しかし解釈を焦ってはいけない。じつはタロットカード裏面をめくってパッと表面を出した時、それが正位置(上下が正しい位置)か逆位置(上下が逆さまの位置)かで意味が異なってくるのだ。

「死神」カードを目にした瞬間、「ああ婚約者とはもう終わりだ」と絶望してはいけない。「死神」が正位置だったら絶望しても良い。しかし逆位置だったらアウトではなく「停滞状態から抜け出せない。→決意して新たなスタートをせよ」ということになる。それは「婚約者と別れなさい」ということではなく「十分に話しあって新たなスタートをしなさい」といった解釈になる。まさに解釈は正反対に近い。「禍を転じて福となす」カードとなる。「悪魔」カードもほぼ同様。悪魔が逆さまで出てきたら、むしろラッキーとなる。

ところが。
正位置・逆位置ともに、不吉な意味を含んでいる「救い難いカード」がある。それが「塔/The Tower」だ。

正位置:崩壊。大きな損失。トラブル。
逆位置:崩壊に至る長いトラブル。中途半端な悪化。

……などなど「塔/The Tower」は、調べれば調べるほどに暗雲立ちこめる「魔のカード」というほかない。なぜ「塔」がそうなのか。人類共通のトラウマが「塔」というイメージに潜んでいるのだろうか。

というわけで次回は「魔の塔」というお題で、この話を引き継ぎたい。

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(余談1)
今日は4月16日であり「短編魔談16」ということで、「16」にこだわった話はなにかできないかと思った。そこで「16、16」とつぶやきつつ数日間あれこれと模索し、「そうだ、タロット16番」と頭に閃いた。……じつは「いずれ〈16番/The Tower〉の不気味な存在は魔談で書いてみたい」と以前から思っており、それを思い出したというわけである。

(余談2)
西欧の人たちに「トランプ」と言っても全く通じないのは御存知だろうか。彼らは「プレイングカード」という。では「トランプ」はどこから来たのか。
明治時代、日本にやって来た西欧人たちは「プレイングカード」をする際、「トランプ!」(切り札!)と何回も言った。それを傍で聞いていた日本人は「トランプというカードらしい」と思ってしまったらしい。しかし観察力が足りないというか、気の利かない日本人がいたものである。花札をする時に「花札!花札!」と言いながらプレイする日本人がいるかと言いたい。

………………………………… * 魔のカード・完 *

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