エドガー・アラン・ポー【早すぎた埋葬】(4)

【 ロンドンの大疫病 】

このところ魔談は「早すぎた埋葬」冒頭で、ポーが例にあげた5つの戦慄記事を順に詳しく調べている。「▶︎」の次に書いたのは「要するにどういった内容なのか」という筆者メモのように受け取っていただきたい。戦争・天災・疫病・虐殺。いずれも現代も進行中の、まさに「人類にとって厄介千万な大厄災」である。

(1)ベレジナ河越え ▶︎ 戦争
(2)リスボンの地震 ▶︎ 天災
(3)ロンドンの大疫病 ▶︎ 疫病
(4)セント・バーソロミューの虐殺 ▶︎ 虐殺
(5)カルカッタ牢獄における123人の俘虜の窒息死 ▶︎ 虐殺

前回は「リスボン大震災」を語った。今回は「ロンドン大疫病」を語りたい。
たった6年前、2018年の時点では、我々は疫病と聞いても「自分の人生に降りかかる厄災」というイメージは全くなかった。しかし2019年の暮れ、中国・武漢から端を発したとされる新型コロナウイルスの報道が徐々に深刻な状況を呈し始めた。そして2020年1月。武漢へ渡航歴のある日本人男性がついにCOVID-19感染者第1号となった。以後の世界的大騒ぎはご存じのとおりである。

「これはえらいこっちゃ。こんな魔は滅多にお目にかかれない」というので、魔談でも「生物学魔談・魔のウィルス」を2020年3月20日より開始。この連載は9月25日の28回までやった。ざっと半年間、新型コロナウイルスを語ったことになる。まさに新型コロナウイルスは2020年を全人類震撼の年にしたと言えよう。

さてロンドンの大疫病。
これは1665年から1666年までイングランドで大流行した腺ペストである。ポーが生まれた1809年からさかのぼること145年、それは発生した。
「腺ペスト」とはなにか。ロープのようにつながった形状のペスト菌からその名がついた。
しかし1665年当初、ペスト菌はまだ発見されておらず未知の存在だった。大流行疫病の原因はわかっていなかったのだ。原因がわからないままロンドンの人々は高熱を発してバタバタと倒れ、症状が進行すると敗血症による皮膚の出血斑で体が黒ずみ、2日から3日ほどであっけなく死んだ。人々は「黒死病」と呼んで大いに恐れた。
魔談「生物学魔談・魔のウィルス(6)」では以下のように黒死病を説明している。

ペスト。別名黒死病。英語ではブラック・デス(Black Death)。感染者は内出血により皮膚が紫黒色になったことから、このおぞましい名がついた。ペスト菌による感染症である。古来から複数にわたりパンデミックとなり、欧州ではしばしば暗黒時代の到来となった。特に14世紀のパンデミックではなんと1億人の死者が出たらしい。当時の世界人口は4億5000万人だったので、人類の4人から5人に1人が死んだことになる。イングランドやイタリアでは国民の8割が死者となった。8割!(魔談/2020年4月24日)

我々日本人にはいまひとつピンとこない話かもしれないが、ヨーロッパではこのように古来から数回にわたり、数十年数百年の間をおいて繰り返し押し寄せる大津波のように、大疫病時代があったのだ。

順を追って「ロンドン大疫病」(1665-1666)の経過を見て行こう。

(1)1664年末、明るい彗星が出現。ロンドン住民たちは凶事を予感して大いに恐れた。
(2)オランダで腺ペストが大流行。アムステルダムで5万人の死者。
(3)オランダの商船が出入りしていた港(ロンドンに近かった)で感染者発生。
(4)ロンドン城壁の外に住む職人や商人の居住区で感染爆発。
そこはネズミで汚染されたスラム街だった。
(5)18か月で死者10万人。これはロンドン人口の1/4だった。4人に1人が死んだ。

ロンドン住民がこの大疫病に戦慄した「1665年末〜1666年初頭」の冬は、大寒波がロンドンを襲った冬でもあった。大疫病&大寒波。まさに「全イングランド震撼の凍てつく冬」だったのだ。氷のためテムズ川の交通も数回止まった。
しかしまたこの大寒波が住民を屋内に閉じ込め、疫病の大流行をくいとめたとも言われている。なにが幸いするかわからない。

【 つづく 】


電子書籍『魔談特選2』を刊行しました。著者自身のチョイスによる5エピソードに加筆修正した完全版。専用端末の他、パソコンやスマホでもお読みいただけます。既刊『魔談特選1』とともに世界13か国のamazonで独占発売中!
魔談特選2 北野玲著

Amazonで見る

魔談特選1 北野玲著

Amazonで見る

スポンサーリンク

フォローする