平成から令和へと続く連休で幾つか新作映画を見たが、日米にとても優れた作品があった。しかも、この2本の映画は偶然とはいえ見事な位の対比をなしている。
1本は日本映画「山懐に抱かれて」で、沢山の「牛」の牧畜を大家族で行う日本人家族を描くドキュメンタリ―、もう1本の「荒野にて」は、一頭の「馬」と共に荒野をさすらっていく孤独な15歳の若者を描いたアメリカの劇映画だ。
近年、地方のテレビ局が地域に暮らす人々をじっくりと長い時間をかけて取材し、優れた一本のドキュメント映画にして発表しているケースが多いが(2016年山口放送の「二人の桃源郷」、2017年東海テレビ「人生フルーツ」)、「山懐に抱かれて」もその一本で、岩手テレビの製作。
岩手県の山奥、山岳地帯の田野畑村で牛を自然放牧し無農薬の草で育てる「山地酪農」を続ける吉塚さん一家を丹念に24年間追っている。映画はその24年前のインタビューから始まるが、まだ経営が上手く行かず収入がほとんど無いためプレハブに住み、電気が引けずランプ生活をしていたと語るところから驚いてしまう。
ご夫妻は酪農を行いながら7人の子供を育てていかれる。大変だなあと思うが、お父さんを始めとして皆とても明るい。小さい子供たちは夕食を作ったりして家事をこなして支えあう。貧しい生活のようではあるが、家族の結びつきがとても強い。
印象的な場面がある。夕飯前に家族全員が食卓に集まり、皆で「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」から始まり、お父さん、お母さん、そして全員の名前が呼ばれ、最後に「牛さん、ありがとう、いただきまーす」と言って食事を始めるのだ。
酪農の方針を巡って親子の考え方に食い違いが生じ、やがて20代の次男さんは新天地を求めて北海道に渡られる。この映画は親子の葛藤までを描いている。そこが今はとうに無くなった「昭和」的な大家族の生活を思い出させる。父親はどこにもない酪農のやり方を実践したいという信念を生きる。妻はそれを支える。夫婦愛や家族愛について考えさせられる。とにかく、皆さんが実にいい顔をなさっている。
映画館は東京の「ポレポレ東中野」。建物の一階に喫茶店があり、吉塚さんの農場で生産された牛乳が供されていたので飲んでみた(映画の半券で割引があった!)。美味しい。本当に濃厚ないい牛乳であった。
さて次は「荒野にて」だ。予備知識なしで見たから益々よかったか。チラシを見ると馬と少年の交流のように見えるが、実はもっと深い映画で、少年の孤独や精神の彷徨をテーマにした映画である。
舞台はオレゴン州、時代は現代。母親が家を出てしまい父親と二人で暮らす少年チャーリー、彼の身の回りに小さいけれど様々なことが起きて先の読めない展開となる。感情移入をして見続けることになった。
この映画は出来るだけ予備知識なしで見てもらいたいので、あえてストーリーに触れないでおきたい(スミマセン)。大枠だけを示すと、少年が馬と共に、この世で一人だけ愛情を抱く人に会いに行こうとする映画だ。思い出しても切なくなる。
こういう映画を繊細でリアルな映画と呼ぶのだと思う。登場人物それぞれに存在感がある。現代を生きるアメリカ人の、人間くさくも寄る辺ない孤独な心象がひしひしと伝わる。映画全体は、何かピーンとした緊張感と抒情がある。撮影も良く、ロングショットで捉える風景はとても美しい。
キャスティングも地味だし、正直、見る前はあまり期待していなかった。しかし映画には、この作品のように、小品であっても、映画ならではの独自の魅惑を放つ作品がある。改めて、映画の魅力を再認識した。「ROMA/ローマ」に次いで今年のマイベスト候補の登場だ。
(by 新村豊三)
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