秀作なのに、残念ながらほとんど話題になっていない日本映画2本を紹介したい。まずは、東京都の中野区保健所が、コロナ発生後の2020年4月から2021年3月まで、どんな対応をしてきたかを記録したドキュメント「終わりの見えない闘い」。
この保健所の所長さんが、コロナ禍での対応を記録しておきたいと考え、女性の記録映画監督に撮影を依頼して保健所にカメラが入ったものだ。この中野区にある、ドキュメンタリー映画上映のメッカ「ポレポレ東中野」で見たのだが、100分があっという間に過ぎた。
月並みだが、見ていて職員の皆さんの奮闘には頭が下がる思いだった。一番感銘を受けたのは、医者、所長、職員の皆さんが、コロナ対応の忙しさと混乱の中でも、陽性になった患者に穏やかに優しく接すること。例えば、陽性と判った人に、電話で入院を勧めると、「枕が変わってイヤ」と言われて、間髪を入れず、「枕を持っていけばいいですよ」と答える。また、職場に陽性を伝えたくない人もいて(!)、それにも優しくアドバイスしていく。
コロナ以外の通常業務もある。見るまで保健所って何をする所かよく知らなかったのだが、ケアホームにショートステイする介護が必要な老人や、まだ日本に慣れぬ外国人との対応も描かれる。結核の予後を見てもらっているネパール出身の人は、対応する保健所の年上の女性を「お姉さんと思ったりする」と発言する。その言葉にはつい涙滲んだ。今の時代の保健所はいろいろなところにコミットしているのだ。
70代半ばの女性の所長さんは、「(何か月も)家に帰っていない」と発言される!超過勤務が月100時間を超える人もいる。病欠する人、休職する人がいることも隠すことなく伝えられる。
上映後、劇場の案内で、一昨年「誰がために憲法はある」を撮った脚本家監督の井上淳一さんが監督と上映後対談する企画があることを知った。井上淳一さんの許可を得てないが(笑)、井上さんから私宛に来たメールを添えたい。「あの映画、本当にいいんですよ。よくあの時期にあんなに密着出来たなと。ホント、奇跡みたいな映画。でも、シニア層が映画館に戻っていないので、苦戦しているんです。だから、少しでも協力したいと思って。ああいう映画こそ、高校生に観て欲しいものですが」。
好きな映画をもう一本!
何の予備知識もなく見た映画が「ボクたちはみんな大人になれなかった」だ。
46歳のテレビ局の下請けで映像番組を作っている森山未來が、2020年コロナ禍の街渋谷で、深夜に偶然ラブホテル街に足を踏み入れたことから、自分の人生を振り返る。映画は現在から95年まで逆行していくのだが、学生時代の友人、仕事、そして恋人との出会いと別れが描かれる。
正直に書くと、2時間の長さの映画はなかなかエンジンがかからず、半分を過ぎたあたりに、ご贔屓女優伊藤沙莉(さいり)が恋人として出てきても、何だか二人の演技も固いし面白くならない。ああ、伊藤沙莉と森山未來が組んでもダメな映画があるのだと思っていたら、最後の4分の1が、突然、ビックリするほど凄く良くなる!
25年前の二人の出会いのきっかけは文通だ。雑誌の文通欄に住所が載っていて、森山が手紙を出すのだ。手紙が届けられ郵便受けに入る。携帯も何もなかった時代。十円玉を入れて公衆電話するシーンもある(あの頃の、手紙を受け取る嬉しさ、十円玉公衆電話の不便さと切なさ、電話が繋がった時の喜びが甦る)。
二人がデートする渋谷には、スペイン坂に「シネマライズ」があり香港映画「天使の涙」を上映している。懐かしい。森山の就職が決まり、その「お祝い」として二人初めてラブホテルに入るシーンには年甲斐もなくドキドキした位。
映画は懐かしく切ないだけではない。学生時代にバイトで働いた工場の友人は、その後オカマバーに勤めたりし、現在も格差社会で苦しんでいる。その友人を「恋人たち」(2015年)の篠原篤が演じる。また、会社の友人を東出昌大が演じ、二人は好演だ。
時間が遡る点は違うが、内容は今年のヒット恋愛映画「花束みたいな恋をした」に似ている。しかし、この映画には現代日本の生きづらさとコロナ禍の状況が加えられている。主人公は、現在をしんどく生きていても、その「人生」にはかけがえのない、嬉しかったこと、辛かったことの思い出が沢山散りばめられている。そこがいい。
(by 新村豊三)