台湾が舞台の映画を紹介したい。まず、「青春18×2 君へと続く道」。
脚本・監督が藤井道人の日本映画。原作は台湾人のジミー・ライが書いた「青春18×2 日本慢車流浪記」で、「青春18切符」を買って日本各地を旅した旅行記。映画は全く別物の、台湾に来た日本人女性と台湾人の若者のラブ・ストーリー。古今東西、時代は変わっても、繰り返されてきたラブ・ストーリーの王道と言うべき作品。
映画は、まず、台湾人のジミーが東京・長野などを旅していく様子が描かれる。回想によって、高校生の頃、日本から台湾にやって来たアミ(清原果那)と同じカラオケ店で一緒にバイトをする日々を過ごしたことが分かる。二人でオートバイに乗ったりして、かけがえのない時間を過ごしている。
そのアミは急に事情も話さず日本に帰国。ジミーは、18年後の今、アミから来ていた一枚の葉書を手にして、アミの消息を知ろうとしているのである。
新宿の劇場はほぼ満員。隣の席の若い子が途中から何度もグスグスやり始めた。これくらいで泣くのか、と思った。でも、沢山恋してください。「誰かを好きになって、砕け散って、また離れ離れ」(現在放映中の「虎に翼」の主題歌)になっても、そんな生き方をした方が、素敵な人生じゃないかいと隣のじいさんは余計なことながら思ったのだ。
ただ、「感性がスレてしまった、即ち映画を素直に見られないじいさん」は泣くわけには行かなかった。
ところが、後半になり、そのアミの秘密が分かってくる構成に加えて、ジミーも仕事に挫折しており、旅しながら自己を回復していく要素が入ってくる。その辺で、私は遅まきながら(?)、映画としての面白さを感じてしまった。旅先で会う、日本人(黒木華、松重豊、黒木瞳)もいい。
結末は伏せる。見終わってピュアな感じを抱いた。この映画の特筆すべき美点は、風景の美しさ、撮影の見事さだ。横長スクリーンで見事に映える。長野の雪景色、台湾の夜の二人乗りのオートバイの疾走、台湾のランタンや日本の灯篭が上昇していく様、そして雪景色を横に走る福島の只見線の列車。正に映画的、見事なものだと思った。
次は台湾映画「オールド・フォックス 11歳の選択」。台湾映画の巨匠ホー・シャオシェンの助監督を務めたシャオ・ヤーチュエンが監督をしている。台湾では高く評価された作品。
今から約30年前の台北市に暮らす父子の話である。母親は病死している。父親は大きな中華料理屋の接客係りを務めているが、家ではチェロを吹いたりミシンで縫物をしたりマメなところもある。父親と息子は金を貯めて、母が願った理髪店を開き独立するのが夢である。11歳の息子リャオジエは小学生。
その1989年は台湾にも金融バブルが押し寄せた時代である。周りでは株の投資に失敗し自死する者も出る。
偶然、リャオジエは家主でもある、周囲からは「腹黒いオールド・フォックス(黒狐)」と呼ばれる地主の老人シャと出会うことになる。この、貧しさからのし上がった爺さんが、少年に厳しい社会の現実を見せていくことになる。
というストーリーだが、父子の生活のディテールは細やかに描かれているが、肝心のシャとの関りの掘り下げがやや足らない気もした。
何と、父親の高校時代の恋人(しかも、今は、シャの若い妻)を日本人の門脇麦が演じている。中国語も上手いし、屈折した感じも上手く出ており好演である。
好きな映画をもう一本!「オールド・フォックス」の父親役のリウ・グァンティンが登場した「一秒先の彼女」(2020)が面白くユニークだ。
台北に暮らすヒロインのシャオチーは郵便局に勤める30歳の独身女性。彼女はせっかちで、人よりワンテンポ早い(例えば、競走で、早くスタートしてしまう)。
台湾独特の七夕バレンタインデーの日の朝、目覚めるとバレンタインデーの次の日になっており、おまけに、海に行ったように日焼けしている。即ち、「一日」が飛んでしまっている。
一方、シャオチーに好意を寄せる、こちらは逆に何事も遅れてしまう、若いバスの運転手男性(リウ)が登場する。実は二人は過去に同じ時間を共有している。ここから二人の笑えてちょっと切ないラブ・ストーリーが始まる。何と、世界が止まり、誰も動かないSF的(?)展開もある。
ヒロインの演技が良く、終盤、バスが海辺を目指して走る俯瞰の撮影が本当に素晴らしい。
(by 新村豊三)