コロナを描く映画「未完成の映画」(中国)「フロントライン」(日本)

2020年のコロナ発生からまる5年経った。コロナが広がりだした初期の頃、人がどう苦闘したかを描く中国、日本の作品が公開された。それぞれ、力作である。

監督:ロウ・イエ 出演:チン・ハオ チー・シー他

監督:ロウ・イエ 出演:チン・ハオ チー・シー他

まず、中国映画「未完成の映画」。この数年、興味深い作品の公開が続くロウ・イエの新作。2019年、中国武漢(コロナ発生地)の近くで、10年前に中断された映画を完成させようと、当時のスタッフや俳優が集まって映画作りを再開する。編集用モニターにはロウ・イエ監督の過去の作品も、時折、映し出される。
しかし、2020年の1月になりコロナが発生し、映画製作は中断される。関係者がホテルから出ようとしたとき、ホテルに感染者が出たために、外に出られなくなり、ホテル内に隔離されることになる。

映画は、後半、「スプリング・フィーバー」 (2009年)の主役だった人物(チン・ハオ)に焦点があてられる。彼は、赤ちゃんを産んだばかりの家にいる妻と、スマホで繋がりテレビ電話するしかない。「お金は要らない。家族と食事して一緒にいることが一番大事だ」と話す。もう、夫も妻も精神的に参り、ボロボロ、(当時の自分も思い出され)その心情が痛いほど伝わる。

部屋の窓からはこんな光景も見える。ある母親が亡くなり、遺体が救急車で運ばれていく時、マーマ、マーマ、と泣いて後をとぼとぼと娘が追う。哀切すぎる。一方、リモートで、各人、ホテルの部屋に隔離されているスタッフたちが新年を祝う。酔って解放感を感じ、羽目を外して喜び合う姿にも共感を覚えてしまった(ちょっと長いけれど)。これがリモート分割画面だから、ますますリアルな感じがする。

この映画、期せずして、コロナ発生した中国で未曾有の事態に、人々がうろたえ、苦悩し、どんな対応をしたかの生々しい記録になっているのだ。撮り方も、ドキュメンタリーと、ドキュメントを思わせる実写を組み合わせ、誠にリアルな映画となっている。
ウソの話なのに、極めてリアル、サスペンスや臨場感があり、一緒にハラハラする。異色の映画だ。中国映画もこれまで数百は見ていると思うが、これほど、中国の人に対して、身近というか、同じ人間だなあという感覚を抱いた映画は無かった。

監督:関根光才 出演:小栗旬 松坂桃李 池松壮亮ほか

監督:関根光才 出演:小栗旬 松坂桃李 池松壮亮ほか

好きな映画をもう一本! 日本映画の「フロントライン」だ。2020年3月、横浜港に豪華客船ダイアモンド・プリンセス号が停泊中、船内で患者が発生し、隔離された事件は記憶に新しい(いや、詳細はかなり忘れていたが)。

タイトルの「フロントライン」だが、英語で「前線」という意味だ。この映画「フロントライン」は、コロナ発生現場の最前線で懸命の対応をした人たちの群像劇だ。関係者の実話に基づく。クルーズ船内に乗り込んで治療する医者、看護師、そして、全体の方針を決めていく厚生労働省のキャリア官僚たちだが、医療関係者の家族、視聴率を稼ぐために「面白がって」煽る報道をするマスコミも描く。
また、なるほどそうだったのかと、視野を広げるのは、船内に3700人いた乗客のうち、コロナ陽性になって隔離された家族を思う乗客まで描いている点だ。幾つか印象的な家族が描かれるが、それぞれの乗客に、大変なドラマがあったのだろう。

この映画で初めて知ったのは、感染病に対応する組織が県にも国家にも存在せず、治療に当たったのはDMAT(Disaster Medical Assistance Team)「災害派遣医療チーム」、すなわち、ボランティアの医者・看護師だったこと。家族にも詳細を知らせず、船内に泊まり込んで患者の対応にあたるのだ。
また、映画のクライマックスになるが、陰性ではあるが基礎疾患があったり高熱が出たりしている高齢者の乗客300名程を、関東近辺で受け入れてくれる病院等がないため、愛知県にある藤田医科大までバスで載せて搬送するシークエンスには手に汗を握る。外国人も多い。コミュニケーションにスマホの翻訳機を使うリアリティ。バスの中でさえ、7人が重症になるのである。新しい病棟が出来たばかりで、入院患者がまだいなくて、受け入れる病院側も未曾有の事態で混乱を極める。ここの演出は大変に見事である。

社会派の作品でありつつ、若手スターがそれぞれいい演技を見せる。DMATのまとめ役の医師小栗旬、厚労省から派遣され、冷たさそうに見えて心は熱い官僚松坂桃李、現場で対応する医者池松壮亮、などだ。特に、船内で指示をする現場の医者窪塚洋介の、疲労が滲んだ、しかし使命感に溢れる演技は忘れられない。

(by 新村豊三)

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