前評判がいいので、公開されてすぐに劇場に駆け付けた。東映映画お得意の、ヤクザ抗争に警察が絡む映画「孤狼の血」だが、確かに重厚にして爽快、なかなかの傑作であった。
描かれる時代は昭和の終焉のころ、しかも広島が舞台で広島弁がどんどん飛び交う。ごく自然に40年ほど前の東映ヤクザ映画「仁義なき戦い」や「県警対組織暴力」などを思い出す。
映画の質がかなり高く上記の作品に負けていない。ストーリーが面白い。対立するヤクザのグループを二人の刑事が追うのがメインだが、八方破れでやりたい放題のベテラン(役所広司)と「広大出」(つまり、地元国立大の広島大卒)の純粋な新人が組み、この松坂桃李演じる新人が成長していく構成になっているのがよい。原作を読んだわけではないが、原作者の女性柚月裕子は立派なものだ。
演出がリアルで、冒頭の、豚が糞を放るシーンから観客を驚かす。また、男の性器から真珠をくり抜くとか、幾つか凄絶なシーンも印象的。ヤクザのボス、石橋蓮司がトイレで襲撃されるシーンなんて唸るほどだ。ゴロっと画面に出る、ある体の一部なんてなかなかいい。
それに、小道具の使い方が上手い。役所がバッタ屋からライターを購入するのだが、何回か映画の中で大事な役割を果たす。ラスト、松坂が煙草を吸うためにこのライターを取り出す。その時、はっきりライターの絵柄が分かるのだが、これがローンウルフなのだ。まさにタイトルと繋がり、カッコよくてシビレる。
書いてしまうが、もう一つ良さを言うと、新人を鍛える立場にある役所が、一見、全く指導していないように見えて、実は松坂が記録していた捜査ノートにコメントを書き添削し成長を促していたという荒くれデカの持つヒューマンな「情」の部分も描かれていて、些かぐっと胸に来るものもあった。
役所広司の演技の素晴らしさについてはここで改めて触れる必要もなかろう。重厚だが狂気と情を持つ複雑な人間を余すところなく演じている。還暦を越え、段々、日本映画界の至宝的存在になりつつある。
この映画の見どころのひとつは若手松坂桃李の演技である。昨年、同じ監督の「彼女がその名を知らない鳥たち」ではヒロインをたらしこむ若者の役を見事なくらいにイヤに演じていて注目した。「孤浪の血」では前半それほど目立たないものの、終盤、必死さと狂気が伝わるような演技を見せる。
さて、好きな映画をもう一本!
実は「孤浪の血」の前に、松坂桃李が主演の映画を見てびっくりしたのだ。
タイトルは「娼年」、大学生の松坂が出張売春クラブに入り様々な女性と出会う映画である。原作の小説は石田衣良が書いている。
前半は何かカッコつけた演出で話も大したことないが、後半、ユニークで人間くさい客が何人か登場するところから面白くなった。放尿したがるインテリ女性、夫婦でやってきた熱海の客、それから鶯谷のばあさん(なんと往年の女優江波杏子!)、そして客ではないがゲイの同僚との絡み。
まあ、松坂桃李は予想以上に脱ぎまくり、やりまくり(下品な表現ですみません)。服着ている時間より素っ裸の時間のほうが多いくらいだ。腰を何百回も動かすわ、手を動かすわ、喘ぎ声を上げるわ、大熱演。ある意味役者として天晴れである(熱海でのサングラスをつけた時のシーンはサイコー)。
これでラストの話の着地の仕方が鮮やかだったらいいのだが、何か、無理に話をまとめた感じに終わった。
実はあまりに出演者が大真面目に演じているので何回か途中で笑いたくなったが、劇場は粛々と(?)シーンとして見ているのでそれは憚られた。しかし、松坂桃李を見に来た女性ファンたちは大満足なのだろうなあ。
「孤狼の血」が男騒ぎのする、つまり男がゾクゾクする映画なら、この映画は女騒ぎの映画だろう。この2本の映画、松坂ファンなら2本共に見て損はない!
(by 新村豊三)