アジアからやって来た面白新作映画3本「1秒先の彼女」「夏時間」「走れロム」

それ程話題にならなくても、このコロナ禍でも様々な国から優れた映画が着実にやって来る。スポーツにも敬意を表するが(現在のオリンピックは別だ)、知的で文化的な活動である「映画」も世界に届けられ、地球上の人々に、その国を生きる人々の生(なま)の真実の姿を見せて、理解と共感をもたらす。
と、まあ、そんな大上段に構えなくても、面白い映画は面白い。最近、日本で公開され、魅了された映画が何本もある。今回はアジア発の3本を紹介したい。

「1秒先の彼女」監督:チェン・ユーシュン 出演:リウ・グァンティン リー・ペイユー他

「1秒先の彼女」監督:チェン・ユーシュン 出演:リウ・グァンティン リー・ペイユー他

まず、台湾映画の「1秒先の彼女」。台北の郵便局に勤務する若い女の子ヤンの、SF交じり(!)のキュートでユニークな恋物語だ。冒頭、ヤンが交番に入って「私の一日が消えた!」と言い出す。バレンタインの日であった前日の記憶が全くなく、一日が無くなったというのだ。(原題の意味は「消えたバレンタイン」)。

ヤンは生まれた時から人よりワンテンポ先に行動してしまう癖がある。可愛いが落ち着いてなくて表情豊か。周りの人もやや変わっていて、映画のタッチはフランス映画「アメリ」に似ている。
「空白の一日」を探る中、そこに路線バスの運転手である若者グアタイが登場する。彼は、ヒロインと違って、いつもワンテンポ遅れる男だ。
この映画のユニークなところは(敢えて書く)、ヤンがバスに乗ると、時間が止まり、世界の全てが、人物を含めて、静止してしまうのだ。唯一普通に動くのはグアタイで、消えた一日に何が起きたかが、映像で説明されていく。ここの展開が素晴らしい。その際、海辺をバスが走る様子を俯瞰で捉えた撮影にも目を瞠らされる。

SF的展開(違和感が全くない)を持つが骨格は古典的純愛物語である。テーマは「割れ鍋に綴じ蓋」、つまりどんな人にも必ず合う相手がいるという事だろう。映画はテンポよく、楽しく笑って切ない。監督はシナリオも書いている。面白いことを思いつくものだと感心した。

「夏時間」監督:ユン・ダンビ 出演:チェ・ジョンウン ヤン・フンジュ他

「夏時間」監督:ユン・ダンビ 出演:チェ・ジョンウン ヤン・フンジュ他

次に韓国映画の「夏時間」。最近の韓国映画は、エグい、感情表現が激しいという側面が強すぎてイヤになる作品もあるが、これは静かで柔らかく繊細に日常を描く。昨年の「はちどり」、今年の「チャンシルさんは福が多いね」もそうだったが、三作とも監督が女性であるのがその理由だろうか。

離婚して母親のいない、父、姉、弟の一家が、ソウル近郊かと思われる祖父の家に引っ越してきて始まるひと夏の物語である。住まいはソウル中心部にはなかなか見かけない一戸建ての古い家で、庭には木や草が生い茂る。
日常生活が丁寧に淡々と描かれる。夫と上手く行かない叔母(父の妹)が転がり込んでくる。彼女にも結構辛い夫婦の事情がある。大きな物語は何も起きないが、祖父は認知症気味だし、やがて病気で倒れてしまう。人が生まれ、生き、そして死んでいくことを淡々と描き、わが日本の小津安二郎のタッチを感じさせる。
役者が皆いいが、特筆したいのは弟役の子だ。演技と言う感じがせず、実に自然。日本にも昔、あんな風に、やんちゃで少年らしい男の子がいたなあと思う。

好きな映画をもう一本!

「走れロム」

「走れロム」監督:チャン・タン・フイ 出演:チャン・アン・コア アン・トゥー・ウィルソン他

ベトナムから来た映画「走れロム」。この国には違法で闇の「宝クジ」があり、貧しい人たちが一獲千金を求めて群がる様に買っている。この映画は、首都サイゴンの貧しい地区に暮らし、宝くじ販売に関わることで生きている孤児の少年を描く。
見る前のイメージで、少年が懸命に走って困難を切り抜け幸運を手にするスリリングな映画だろうと思いきや、全く裏切られ、爽快感はない結構重い映画だった。現実を描いているせいか、当局の検閲でカットされて話が飛ぶところもある。
正直、前半はそれほどストーリー的には面白くない。カメラは常に傾き、貧しい人たちがひしめき合うように住んでいる様を映す。大きなメコン川が都会の真ん中を流れ、川の向こうに高層ビルがそびえる。この国、思った以上に貧しい。
そう思いながら見ていると、3分の2ほどから、映画的に凄いシーンが始まっていく。二人の少年が泥水の中で争う。二人は都会の道路を、列車の線路を走る、走る。荒々しい圧倒的な映画シーンが続く。そこから、俺ら、何があっても生き延びるぜという執念が滲み出る。「俺ら」とはすなわちベトナム全体だ。言い換えれば、激しい純度の高い映画表現、すなわちアートで、社会批判のメッセージを打ち出しているように受け取った。

(by 新村豊三)

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