この連載の第一回で、熊本地震復興支援の「うつくしいひと」という映画が全国でチャリティ上映されていることを紹介した(参照)。
昨年の秋、監督も来場した上映会が都内で行われて行定監督のトークを聞くことが出来たが、これが相当に面白かった。爆笑の話あり、熱く語る場面あり、ネタはいっぱい、語りも上手く、まるでエンターテイナーのようだった。
俳優としては素人の姜尚中氏に「ホイットマンの詩だよ」という台詞を自分のイメージ通りに言わせるために20数回リテイクしたこと、また撮影が終わると当の御本人が「次の映画に出るときは、濡れ場をやりたいね」と発言したこと(笑)等の撮影エピソードがすこぶる興味深かった。
一方、今の日本の報道の姿勢や復興支援の現状に関しては鋭い批判があった。例えば、流行語大賞の候補に「本震」が入っていないのはおかしい(確かに私たちはこの地震で初めてこの言葉を知った)、また、建築資材が東京に集中し被災地に廻らないのでオリンピックなんかやっている場合じゃない、と。
実は私は昨年末東北の気仙沼に初めてボランティアに行ったのだが、現地の方から、復興は遅れているし資材も上がり以前は2千万の家の物件が3千万に値上がっていると聞いた。2020年の五輪の予算も8千億から1兆8千億に上がってしまった。五輪の金を被災地に使うべきではないかと私も思う。
また、熊本で支援活動を行っている時、新築の家が崩壊した70歳の方からは「あんたたちにゃ、オレん気持ちは分からん」と言われたという。震災で大きな被害を受けた方は、実は多くを語らない、ドキュメンタリーを撮ろうとカメラを廻しても本音をしゃべらない。劇映画ならば本当の気持ちを人物に語らせることができるから、もう一本、被災地で生きる人の映画を作ろう、と監督は決意したという。
実際、続編の「うつくしいひと サバ?」を既に11月に撮り上げている。「サバ?」とはフランス語の「お元気ですか?」と魚のサバを掛けてあるらしい。何でもフランス人が映画に登場するとか。最近の新聞の記事によれば4月8日に熊本で行われる熊本復興映画祭で初めて上映されるとの事。
こんなことも聞いた。昨年4本も新作を撮った中に有村架純と「嵐」の松本潤が共演した「ナラタージュ」という映画があり、監督自身の快心作のようで「2時間20分好きなように演出したけど有村がよく撮れている。見た人からトリュフォーみたいだと言われる。でも好き嫌い分かれるね」、と。この映画は教師と生徒の禁断の愛の映画らしいが、今年の秋に公開予定で期待大だ。
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さて、好きな映画を一本。監督が「被災した人の立場を想像する、イマジンするのが大切だと思います」と発言されたが、監督の映画に「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」という隠れた佳作がある。大阪の団地に3世代の大家族で暮らす小学3年生こっこ(芦田愛菜、演技が達者)が様々な経験をして成長する一夏を描く。
今の時代の日本らしく、主人公の周りには韓国の子や親がボートピープルだったインドネシアの子などいろんな国籍の子がいる。吃音を持つ男の子とこっこが夜に団地の外のベンチに座って話すシーンがいい。優しいおじいさん(昨年亡くなった平幹二朗、渋い)も横に座っていて、友達の取った行動に悩む二人に対し、友達を理解するには相手の気持を「そうぞうする」つまり「イマジンする」ことが大切だよと柔らかい口調で教えてあげるのだ。その時、習いたての「いまじん」の文字が大きく空中に浮かび3人の背後で花火が打ちあがるが、その演出も心憎い。
監督は映画で自分の主張をそっと述べているだけでなく、震災のような非常事態の時に自ら「イマジン」することを実践している。そこが立派だと思う。
(by 新村豊三)