新作ミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」には心奪われた。昨年の「ラ・ラ・ランド」の音楽家チームの作詞作曲だが、「ラ・ラ・ランド」(とても好きな作品)に優るとも劣らない出来栄えだ。
19世紀半ばのアメリカでショー・ビジネスを始めた実在の興行師の話。主人公役のヒュー・ジャックマンはフリークス(奇形の人)を集めショーを開く。話題を呼び英国でヴィクトリア女王と会ったり、美声の持ち主の歌姫と共にヨーロッパを回ったりする。興行に失敗したり災難に会ったりするが、家族への愛を忘れない。
いや、ストーリーは深くはない。人物の掘り下げは浅いし、葛藤も少ない。それは認める。しかし、この映画に関しては歌と踊りが文句なく素晴らしいので、これでいい。一度聞いたら忘れられないような歌の数々、そして踊りのキレがあってシビレる程だ。
何度もスクリーンに向かって拍手したくなるような歌と踊りだった。
順不同だが、まず、フリークスが上流階級から締め出しを食らった後、髭面で太った女性がフリークスたちと「これが私だ」と自らを肯定し社会の偏見に負けない意志を歌う“This Is Me”。これは歌だけでなく群舞もいい。
次に、空中ブランコ乗りの女性と、彼女に求愛する若者が歌うデユエット“Rewrite the Stars”.
空中ブランコの演技を映す撮影にも見とれてしまった。空中ブランコと映画とは相性がいいのだ。
そして踊りはないものの、スウェーデンの歌姫が歌う“Never Enough”。こんなに神秘的な美しさを持った女性がいるのか!誇張でなく陶然と聞きほれた。
他にも優れたナンバーがあり、もう一度劇場で見たい、聴きたいと思う。これヒットして欲しいなあ。
ヒュー・ジャックマンと言えば2012年の映画「レ・ミゼラブル」だ。
彼は、パン一個を盗んだ罪で19年間獄に繋がれるが司教の愛で生まれ変わり、フランス革命を背景に養女コゼットと恋人マリウスを助けるジャン・バルジャンを演じている。彼を終生追い続けるジャベール警部を演じたラッセル・クロウも好演であった。二人共にオーストラリア出身の俳優だ。
2人が初めて出会うファーストシーンの映像には心底驚いた。“Look down、look down”と歌いながら、ジャン・バルジャンたち囚人が荒れる波の中、ロープで難破船を岸に引き上げるシーンの、そのド迫力。映画ではこういう風に映像化してくるのか、と思った。ジャベールがジャン相手に名前でなく囚人番号24601で呼ぶナンバーが続く。今でも、その軽快なメロディと共に映像が浮かび上がる程だ。
また、後半の“One Day More”の重唱がこの映画の白眉の一つだろう。ジャンや、コゼットやマリウスが、マリウスをひそかに慕う少女エポニーヌが、革命家のアンジェラスがそしてジャベールまでが、同じメロディで違う歌詞を歌うシーンの圧倒的美しさ。映画のカットバックの技法が十全に生かされていて映画ならではの魅力に溢れていた。
さて、好きな「レ・ミゼ」をもう一つ!
映画でなく、劇場ミュージカルの「レ・ミゼラブル」も素晴らしい。約30年前、ロンドンの劇場で見た。当時インターネットが普及しておらず、日本の「チケットぴあ」で切符を手配してもらった。8000円程だったか、もっと高かったか。
生で聴く歌声の美しさ、メロディの美しさに魅了されたが、役者たちの質の高さにも驚いた。主役脇役だけではない。例えば、“Lovely Lady”というロンドンの夜の街の娼婦たちが、「うちらは客を待ってるんだ。何でもやってあげるよ」と歌うメロディがあるが、そこに登場し歌い踊る娼婦たち皆が、プロの娼婦を連れてきたような(実際お会いしたことはないが)妖しく怖い迫力があった。役者の層の厚さを感じたものだ。
ロンドンでは、別の劇場で「ミス・サイゴン」というミュージカルを見た。これはベトナム戦争を背景にしたベトナム女性の半生を描く劇だ。これもなかなか良かったのだが、このチケットは並んで劇場窓口で買った。確か、二千数百円だったと記憶する。こんなに安い値段でロンドンっ子はミュージカルを楽しんでいるのだと、羨望を覚えた。
☆ ☆ ☆ ☆
※「好きな映画をもう1本!」へのご意見ご感想をお待ちしております。こちらから。
(by 新村豊三)