映画音楽家を描くドキュメント「モリコーネ 映画が恋した音楽家」、「エンドロールのつづき」など。

新宿の劇場がオールド映画ファンで一杯だった映画が、音楽家エンニオ・モリコーネの人生と映画音楽制作の足跡を辿ったドキュメント「モリコーネ 映画が恋した音楽家」だ。

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 出演:エンニオ・モリコーネ クリント・イーストウッド他

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 出演:エンニオ・モリコーネ クリント・イーストウッド他

トランペット奏者の父を持ち、小さい頃音楽院に入学したことから始まって、年代順に彼の人生が紹介される。音楽を手掛けた作品がシネマスコープの画面に引用される。本人へのインタビューが行われ、様々な国の監督や音楽家が登場して彼を称賛する。

前半は、出てくる映画をあまり見ていなくて、やや単調さを感じてしまったが、1960年代、1970年代にモリコーネの映画を観ていた方は懐かしくてたまらないのではないか。
後半になると、見たことのある「1900年」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ヘイトフル・エイト」などが出てきて画面に引き込まれる。彼は「天才」の一人ではないかと思えてくる。ビートルズに匹敵する20世紀最大の音楽家であり、きっと音楽史上、バッハやベートーベンレベルの人だろう。

アカデミー賞での音楽賞ノミネートと、その落選続きなど、貴重なエピソードも続く。彼が映画音楽は正規の音楽でないと考えており、映画音楽作りにコンプレックスを抱えていたのも知った。クリント・イーストウッド主演の「荒野の用心棒」のセルジオ・レオーネ監督とモリコーネが同じ小学校の同級生だったとは驚きである。
80代後半の御本人は、生前の淀川長治さんを彷彿とさせるチャーミングな方で、情熱をこめて身振り手振りも加えて沢山喋る。その純粋無垢、ピュアな感じがいいなあと思った。映画は「魂」が一番大事だと言う発言が印象に残った。

大スクリーンで展開される映画が何と生々しく画面に息づいていることか。コロナで、昔の映画を配信などの小さい画面で見て来たが、劇場の大スクリーンで見ると映画が輝く。
正直言うと、この映画を撮ったジュゼッペ・トルナトーレ監督が、ラスト、延々とモリコーネを賛美する発言が続いたのはちょっとくどかったが。

監督:ローランド・ジョフェ 出演:ロバート・デ・ニーロ ジェレミー・アイアンズ他

「ミッション」監督:ローランド・ジョフェ 出演:ロバート・デ・ニーロ ジェレミー・アイアンズ他

エンニオ・モリコーネが映画音楽を付けた作品の中では、「ミッション」に圧倒される。神父役を演じたロバート・デ二―ロ主演で、1986年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞している。最近の映画にない、堂々たる風格を持った作品だ。

18世紀、南アメリカのパラグアイの奥地で、イエズス会の神父たちが原住民に布教活動を行っている。本国のスペインから枢機卿が派遣されて、村を作りあげ神を信じて平和に生活している原住民たちを森へ強制的に帰す決定をする。これに憤った数人の神父と原住民が軍に抵抗を試みるストーリーである。
まず、巨大なイグアスの滝や、絶壁、川の急流など、自然の景観を捉えた撮影に圧倒される(その絶壁を人が登るのだ!)そして、モリコーネの柔らかくも、野生味も加わった音楽がまことに素晴らしい。間違いなく一見、一聴に値する。
しかし、話の結末は予想通り、多勢に無勢、火器を使用する軍に原住民が勝てるわけがない。映画を観ながら、現実に起きているウクライナの戦火が頭の中で重なってしまって、息苦しくなる。

モリコーネの音楽で一番知られているのはトルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988年)だろう。シチリアの小さな村にある映画館の映写技師と少年の交流が描かれた。
インド版「ニュー・シネマ・パラダイス」という宣伝に惹かれて新作「エンドロールのつづき」を見に行ったら、確かに前半はそうだが、何だか違う映画で肩透かしにあったようだ。

「エンドロールのつづき」監督:パン・ナリン 出演:バビン・ラバリ リチャー・ミーナー他

「エンドロールのつづき」監督:パン・ナリン 出演:バビン・ラバリ リチャー・ミーナー他

時代は今から30年以上前か、田舎の駅でチャイ(紅茶の飲み物)を売る仕事を手伝う少年が学校をサボり、忍び込んだ映画館で映画を観て映画の虜になる。そこからスタートする映画だが、段々、話がつまらなくなった。ラストも含めて突っ込みどころも一杯ある。
しかし、細部で輝くところが沢山あるのも事実だ。主人公の少年がボロい映画館で見る映画、映写室の穴から見る映画の数々が、インド映画の輝きに満ちている。アクションや踊りがあり、そこはワクワクした。また、原題の「ラスト・フィルム・ショー」に当たるシーンの「画(え)づくり」はいい。

さて、廃棄されるフイルムの行きつく先の延々とした描写は何を言いたかったのか?フイルムへの哀惜の念か。見る人によって意見が分かれること必至の映画ではないか。

(by 新村豊三)

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