うかつにもこんな魅力的な女優さんがいるとは知らなかった。今回紹介したい「シェイプ・オブ・ウォーター」や「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」に主演しているイギリスの女優サリー・ホーキンスである。
それほど美人ではないが、演技力ある彼女が出ていなかったらこの二つの作品は傑作とはなっていなかっただろう。片や、アメリカが舞台で半魚人と恋に落ちる(!)清掃員、片やカナダが舞台の、リューマチを患いながら絵筆を握る実在の画家モード・ルイスを演じる。
彼女は惜しくも今年のアカデミー主演女優賞を逃したが(受賞は「スリービルボード」のフランシス・マクド―マン)、立派な仕事をしたと言える。
まず「シェイプ・オブ・ウォーター」は今年のアカデミー作品賞を受賞した作品だ。
昨年の「ムーンライト」のように、アカデミー作品賞受賞作は自分にはピンと来ない作品が多いのだが、これは違う。ストーリーは面白いし、美術も演出も含めての映画としての質は高いし、なかなかに切なく心を揺さぶられるところもある。
1962年のアメリカ。アマゾンで半魚人が捕獲され、政府の研究所で調査を行うことになる。そこで清掃員として働く40代の口のきけない女性がいて、次第に彼と心を通わせていく。同じアパートの老人や同僚と協力して研究所から逃がそうとする。そういう筋立てだ。
基本的におとぎ話の作りだが、ダークなところもファンタジックなところもあり、おまけにミュージカルシーンも出てくるという独特の映画ワールドを形作っていて映画としての完成度がとても高い。
ヒロインは孤独でシングルの生活を送っているが、半魚人に対して段々と女としての意識が出てくるところがいい。愛し愛されて、ドンドンいい表情になっていく。バスに乗っていると、座る座席の窓に水滴が2個ついていて、それが流れて行き一個になる演出が憎い。オクタヴィア・スペンサー演じる同僚の黒人が「(彼に)性器はあったの?」と聞く時のユーモアが堪らない。
また、部屋に水を貯めて水槽のようにしてその中で二人が抱き合うシーンが好きだ。部屋の下は映画館なのだが、そこにまで水が滴ってゆくというシーンは映画ならではの「技あり」の演出だ。
最初はグロテスクだった半魚人が背は高いし段々凛々しく?カッコよく見えてくる。ほのめかされるが、彼は実は「神」、すなわち神聖な存在ではないかと思えてくる。ともかく、これは最近の映画の一押しだ。
さて、次は「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」だ。
実は、サリー・ホーキンスが出ていると知らずに見に行ったら、驚きの役をやっているのだ。病気があるので手足が不自由で少し体を傾けて歩く。親に死に別れ兄にも冷たくされ、街はずれにあるオンボロの一軒家に住み込みで働き始める。雇い主はこれまた字も読めないような、下層階級の魚の行商を生業とする男だ。
しかし、この男女が一緒に生活を共にしながら段々と親しくなってゆき、「割れ鍋に綴じ蓋」的男女になってゆくところが絶妙に面白い。そして彼女が書いた素朴な絵が認められて売れ始めることから段々男女の関係が逆転してゆくところも面白い。後に結婚することになるのだが、最初男は強圧的態度を取っていたのが、家事までやるようになってゆく。即ち、この映画は普遍的な夫婦愛の話なのだ。
夫のイーサン・ホークがまた上手い。こういうあんまり冴えない男を演じると彼はとてもいい。
四季折々の自然を捉えた撮影がとてもいい。特に雪景色は、この冬、大雪に降られた経験があるだけにとても身近で、美しさと共に生活の厳しさを感じさせる。
彼女が描いた素朴な絵も味わいがある。この画家はカナダで一番人気のある画家ということだ。
彼女が出ていた映画を一本思い出した。彼女は2014年日本公開の「ブルージャスミン」という映画で、主役のゴージャスな雰囲気の姉(ケイト・ブランシェット)の、地味で垢抜けしないブルーカラーの妹役をやっていた。出番が少なかったと記憶するが、やはり手堅い演技だったのだ。
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(by 新村豊三)