記録映画「東京裁判」と、8月15日に見た「誰がために憲法はある」

36年間未見であった、1983年公開の記録映画「東京裁判」を見た。
「戦争」がテーマだし、4時間37分の大作なので暗いとイヤだなと敬遠していたのだが、反省した。ちっとも退屈しないし、非常に興味深い映画だ。高校の同級生(哲学専攻)も見たのだが、圧倒的に面白かったと感想を述べた。我々は九州の田舎出身で、子供のころ近所に防空壕があったのを記憶している。そういう戦争の記憶がある最後の世代だろう。

映画「東京裁判」監督:小林正樹

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映画によって様々なことを初めて知り、あるいは確認させられ、一方、よく分からないこともあって調べてみたいと刺激を受けた映画であることは間違いない。
東京裁判とは、昭和21年1月から2年6か月の歳月をかけて行われた、戦争に責任のある主要戦犯を審理した正称「極東軍事裁判」である。アメリカの国防総省(ペンタゴン)が、その裁判の様子を撮影、収録していた貴重なフィルムを基にして、「人間の條件」「切腹」などの傑作を撮った小林正樹監督が5年の歳月を掛けてドキュメンタリーにしたのだ。
映画は、審理を描く部分と、被告の訴因となる満州事変・ヒトラーの侵攻といった歴史的事件や出来事の検証、また、ゼネスト・新憲法発布などの戦後の時代状況を描く部分から成り立っている。それゆえ、現代史が確認され、頭によく入っていく。ナレーション(佐藤慶が担当し、なかなか迫力がある)によって、監督の歴史観が出ているのだろう。

当時のパンフレットに寄せた文章で、映画評論家佐藤忠雄は「監督は極力広い視野に立って客観的に裁判の全体像を浮かびあがらせようと努めている」と評している。現在発売中の「映画芸術」に載った近現代史研究家の文章によれば、今の視点で見ると、幾つかの欠点があるという(詳しくは「映芸」を読んでほしい)。
しかし、力作であることは間違いなく、歴史が学べるという点で、高校生(いや、大学生もだろう)の近現代史の勉強に最適ではないかと思う。

次に羅列だが、特に印象的だったことを述べる。

◆そもそも戦勝国が敗戦国を裁くことに、裁判中に、疑義が呈されている。中立の第三国が裁くのではないのである。

戦争開始当時には概念がなかった「平和に対する罪」によって裁かれることにも反対があった。アメリカ人弁護士が、アメリカの原爆投下はそれに当たらないのかと問うシーンもある!この発言はすごいなあと思う。

GHQは戦後の日本統治をスムーズに行うため、天皇の戦争責任を免責した。それは既に知っていることであったが、そのためにアメリカ人首席検事キーナンとオーストラリア人の裁判長ウェブの間に対立や駆け引きがあったことまで描かれる。

戦争を遂行した東条英機のみならず、満州国皇帝溥儀(後に、偽証と判明)や、関東軍の石原莞爾(証言場所は故郷山形)など歴史上の人物が登場して証言するのも興味深い。

文官でただ一人絞首刑になる広田弘毅の家族が切ない。

この映画にはエンドマークが出ない。ベトナム戦争の際、アメリカの北爆で村を焼かれて逃げ惑う女の子のストップモーションで終わる。裁いた側が戦争をしているのだ。以後、21世紀に至っても、戦争や紛争は続いている。

我々は、東京裁判から何かを学び、それを未来へ生かすべきだろうと思う。しかし日本の若者の政治意識は高くないし、政権は平和憲法を変えることを狙っているし、絶望的な気持ちになってくる。

そんな時、元気の出てくる映画を見た。好きな映画をもう一本!

「誰がために憲法はある」監督:井上淳一 出演:渡辺美佐子ほか

「誰がために憲法はある」監督:井上淳一

8月15日に、「誰がために憲法はある」というドキュメントを見たのだが、憲法第9条の意味を考え平和の貴さを訴える映画だ。
女優の渡辺美佐子さんが仲間の女優さんと一緒に、30数年にわたり、広島原爆投下の悲劇を伝える朗読劇を行っておられる様子を記録している。女優さんたちは御高齢にもかかわらず、声も動作も瑞々しい。
おばあちゃん達でも(失礼)、平和のための活動を行って来られたのだ。まだまだ若い60代が絶望していてはならないと言う声が聞こえてくる気がした。

(by 新村豊三)

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