強烈、激烈な問題作「宮本から君へ」と「ジョーカー」

予備知識なしで見始めたら、ものすごく強烈な、いや激烈と言うべきか、そんな印象を抱く日米映画を見た。その驚く展開と激しい描写ゆえに好き嫌いがはっきり分かれ、拒絶する人もいるだろう。私は、この2本、どちらも好きで、断固支持したいと思っている。

「宮本から君へ」監督:真利子哲也 出演:池松壮亮 蒼井優ほか

「宮本から君へ」監督:真利子哲也 出演:池松壮亮 蒼井優ほか

まず日本映画の「宮本から君へ」だ。
見る前はこんな映画とは全く思わなかった。予告編を見て現代若者サラリーマン奮闘映画としか思っていなかったが、これは、男と女の「極限の愛」の話ではないか。
池松壮亮扮するサラリーマンが近くの会社に勤務する蒼井優を好きになってしまう。この二人、普通の人とは少し違っていて、ものすごく怖い表情をしたりして感情の起伏がかなり激しい。

普通の恋愛映画ではない。この映画を見たのは、ラグビーワールドカップで日本が番狂わせでアイルランドを下した日の翌日であるが、そのラガーマンのイメージを崩してしまう酷いプレイヤーが登場する(その体格、暴力の激しさ、無神経さで存在感抜群!)。何と、恋人の池松が酔って寝ている横で蒼井優を強姦してしまう。
これに対して、勝てるわけない池松が復讐を加えようとするのがこの映画の肝なのだ。池松が、顔面を殴られ、顔は血だらけに腫れあがり、前歯も3本折れてしまい、それでも反撃しようとする。
スゴイ映画だ。池松は本当に歯を抜いたのではと思うほど(しゃべる時も、息がすーすー抜ける)。高いマンションの外階段での二人の対決シーンは名シーンだ。格闘しながら下に落下するのではないかとハラハラする。書いてしまうと、宮本=池松はラガーマンのキンタマを引き裂き勝利するのだ。もう凄絶としか言いようがないが、そこに、何か、ピュアな男の一途さを見てとって私は感動した。宮本よ、オレはお前を本当にエライと思うぜ。

この映画は脇の人物もキャラが立っているところもいい。一癖ある井浦新、ピエール瀧、佐藤二朗の面々だ。この映画、激烈だが、分かる人には分かる。お勧めだ。

映画「ジョーカー」監督:トッド・フィリップス 出演:ホアキン・フェニックス ロバート・デ・ニーロ他

「ジョーカー」監督:トッド・フィリップス 出演:ホアキン・フェニックス ロバート・デ・ニーロ他

さて、次は問題作「ジョーカー」だ。
見終わって、好悪がはっきり分かれて客は入らないのではないかと思ったが、日本でも公開後ずっと興行成績は上位を快走している。怖いもの見たさで見る客もいれば、これは今の時代を描いた映画だと評価されそれが評判として広がっている可能性もある。

基本的には「バットマン」に登場する悪役ジョーカーが如何にしてジョーカーになったかを描く映画だ。
中年の売れないお笑いコメディアン(ホアキン・フェニックスのなり切り演技!)が、ニューヨークの薄汚れて雑然とした一角の狭いアパートメントに、介護を必要とし妄想まで抱く老母と暮らしている。
時代は、よく分からないが80年代初頭だろうか。しかし、見ている我々は、これはまさに格差と貧困の今の時代と思ってしまう。ここが面白いところだ。

この映画は暗くて哀しさに満ちた凄絶な作品だ。主人公は、過去の精神的な体験が原因で、突然、ひくひく笑ってしまう奇病を持っている位だ。哀しい話だが、話の展開は面白いし、演出もぐいぐい来て、映画としては最高の部類の出来栄え。地下鉄で主人公がはずみで三人を射殺するなんて誰が予測しえただろう。このシーンの地下を人が走る撮影もうまい。地下鉄と言えば、後半警官に追われるシーンも緊迫感がある。

主人公にも感情移入出来てしまう。せっかく憧れの人気テレビ番組(ロバート・デニーロが司会だ)の番組に出ても自分の大事なものを小馬鹿にされてしまう。そりゃ、絶望の状況の中、主人公がそのデニーロに憎悪の感情を抱くのも当然だろう。
ラスト、自分が街の暴動のヒーローになっていく皮肉な展開も凄いなあと思う。香港のデモを想起してしまう。だからこそ、映画はあのまま、こんな時代だと革命が起きるぞというメッセージで通してもよかったと思うが、やや不満を感じる終わり方になったのは残念だ。
しかし、あの終わり方をしないと、現実に暴動を引き起こすことにつながるのかもしれない。実際、アメリカでは州によっては上映禁止にしたところもあると聞く。

(by 新村豊三)

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