新作「男はつらいよ」の面白さにビックリ! 

昨年末に劇場で「男はつらいよ お帰り 寅さん」を見た。
「フーテンの寅」を演じた渥美清が亡くなってはや25年。それなのに第50作目が出来たのというので、一体どうなってるのだろうと見に行ったら中々面白い。昔の作品も見てみたくなってツタヤでDVDを借りてきて年末年始に8本見てしまった。

新作では、当然ながら現在の寅は登場しなくて、50歳位になった甥っ子満男が主役である。満男は何と今、作家になっている。中学生の一人娘がいて奥さんは亡くなっている。サイン会を開くと偶然フランスから帰国していた初恋の人の泉と再会して、物語が進んでいく。泉はフランス人と結婚し今は国連で難民を助ける仕事をしている。
団子屋だった柴又のとらやはカフェみたいになっており、おいちゃんもおばちゃんももう他界し、寅の妹さくらも夫の博も相当に年を重ねた。今はこの二人が「とらや」に住んでいるようで、年を取った二人のために上がり框に手すりが付けられている。

この映画は大変上手く作られている(脚本も監督の山田洋次)。話の展開に従って、昔の映画のシーンが入ってくるのだが、これが実に効果的。第一作の50年前の映像から最後の95年の作品までふんだんに出てくるので、大人は少しずつ変わっていくし、甥っ子の満男は少年から若者、そして現在の中年へと成長し変化していく。
人間の成長が記録されているが、確実に「時」も蓄積されている。何だか不思議な感覚だ。こんな映画は見たことない。5年ほど前、少年の12年間の成長を描くアメリカ映画に「6歳のボクが、大人になるまで。」という秀作があったが、それを超えている。
皆、一様に年を重ねたことを実感する。品よく年を重ねたさくら(倍賞千恵子)もいれば、厚化粧になってやや興ざめするマドンナのリリー(浅丘ルリ子)もいるし、見た目全く変わらぬ印刷屋の社長の娘(美保純)もいる。それはこちらも年取ったという思いに重なってくる。

実は、若い頃「男はつらいよ」シリーズは好きでも嫌いでもなかった。「映画は知的冒険だ」と思っていたから、中年オジサン=寅がマドンナに恋してフラれるワンパターン映画に高い金を進んで払って見る気がしなかったのだ。
ところが、今回の新作は、甥っ子満男の切ない初恋の人への想いが出ていて、とてもいいのだ。それに、泉こと後藤久美子が、昔は初々しい大和撫子みたいな日本的なイメージの子だったのが、今は、コートをびしっと決め、ヨーロッパのエレガンスを感じさせる知的で結構いい女性になっているのが驚きだ。

寅さん映画は、第42作から、寅の恋でなく満男と泉の恋が中心になり、43、44、45と続き、2作休んで、最後の第48作でまた二人が登場する(49作は特別篇)。実は、その42から45まではどれも見てなかったのだが、初めて見たら大変に面白い!
満男の切ないナイーブな純情がいいし、泉の人物設定も中々いい。泉は満男の高校の二年後輩。両親は離婚、名古屋でスナックに勤める母親と暮らしている(母親の夏木マリも上手い)。

それでは、満男と泉が出てくる「寅さん映画」から一本だけ!

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1989年の第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」が一番好きだ。満男は浪人しているが、泉を忘れられず、家庭の事情で九州は佐賀の小城の叔母さん(マドンナ檀ふみ)の家に預けられた泉にバイクで会いに行く。そこで偶然小城に来ていた寅さんが満男と出会い、恋の行方を見守るのだ。
ラスト近く、寅が泉に掛ける「早く方言を覚えて友達を作るんだぞ。よかか」という言葉と、それに応じる泉の「よか!」という言葉には、九州出身者としてはそのユーモアと温もりに思わず涙が滲んだりした。寅さんはよか男、泉もよか女の子!

最後に、もう一つ、新作でグッと来た点を述べる。ラストに歴代のマドンナがどんどん魅力的に短いショットで登場する。その賑やかさ、華やかさは本当に素晴らしく、同じような趣向のイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」を超えていよう。けだし、「寅さんシリーズ」は日本映画の貴重な財産だ。

(by 新村豊三)

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