大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」と「HOUSE ハウス」

大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」を見た。この作品は、当初、4月公開の予定であったが、コロナの緊急事態宣言のため、公開が延期されて7月末となった。
末期ガンと闘いながら制作したとは思えないほど、映画は華麗な映像による大林ワールドが全開で、しかも反戦のテーマを強く見事に打ち出した傑作だ。

「海辺の映画館 キネマの玉手箱」監督:大林宣彦 出演:厚木拓郎 細山田隆人 細田善彦ほか

監督:大林宣彦 出演:厚木拓郎 細山田隆人 細田善彦ほか

尾道で、閉館する映画館の最後のオールナイト上映会が開かれて日本の「戦争映画」が特集上映される。その観客である3人の若者が、映画を見ているうちに何故かスクリーンの中に入り込み、タイムスリップして、様々な戦争を目撃しつつ、戦争に巻き込まれていくことになる。映画で描かれるのは戊辰戦争、日中戦争、沖縄、そして広島である。

青年の一人が映画ファンで、自分が小さい時に8ミリで映画を撮った思い出が挟まったり(監督自身が重なる)、中国の戦場では実在の映画監督(小津安二郎、山中貞雄)が登場したりする。ハリウッドのようなミュージカルシーンもある。いろんなものが溢れんばかりに詰め込んであり、正直言うと、前半は忙しすぎてもう少し余白が欲しい。

映画の大きな柱は、若者が近現代の歴史の出来事に関わり、反戦のテーマが打ち出されることだ。
後半の、犠牲になる一般人が登場する「沖縄」と、原爆投下前の「広島」の描き方が素晴らしく、段々、ピンとこなかった前半の「戊辰戦争の会津」「日中戦争の満州」なども上手く絡まってきて(「反復」される個所がある)作品の世界に引き込まれる。
「沖縄」のシーンで、若者に召集令状が届き、配達人が若者の家族に沖縄語で「おめでとうございます」と言うシーンに胸つかれる。こんなところまで赤紙が来る。朗々たる見事な、青い海によく合う沖縄語であるが、その後の歴史を考えると哀しい。また、キラキラした海辺では、戦局が悪くなったのだろう、町長が、軍人に射殺される。また、民家では若い女性が強姦される。背景は美しい海と空なのに。

広島では実在の移動演劇集団「桜隊」が登場する。丸山定夫や園井恵子などの人物が、何だか、生々しくリアルな感じがする。お芝居の「無法松の一生」が演じられる時、監視している官憲に中止を宣言される。
内容は深刻であっても、廊下にビー玉がザーと転がるシーンなど映像としてとても印象が強い。また、原爆投下そのものは映像として見せないが、窓の外、空高く、飛行機エノラ・ゲイが飛んでいくシーンはその後の原爆投下を強く想像させる。

上手く言えないが、この映画は、人工的魔術的大林的映像と、リアルで痛切なドラマが上手く融合して見事な効果を上げている。時空を飛び越え目まぐるしく変わる映像は衝迫力がある。
映画には「遊び心」もあり、宇宙空間も描かれ、スターチャイルドまで出てくる。ギターを持って男がスーと空を飛ぶショットも天才的にいい。

一度見ただけで、上手くこの映画を捉まえる文章が書けない。しかし、間違いなくこの作品に驚嘆した。監督は全身全霊を込めて命を削りながら、一方、映画を作ることでガンと闘うエネルギーをもらいながら、作ったのだろう。
公開が延期され、その公開予定だった日に亡くなられている。一般観客の賛辞の声を届けたかったと切に思う。

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実は、ちょっと意地悪なことを考えたのだ。2012年の「この空の花 長岡花火物語」から、反戦がテーマの秀作をずっと撮っているが、ならば、もっと若い頃から、こういう作品をやってほしかったなあ、と。
そういう思いで、40数年ぶりに第一作「HOUSE ハウス」(1977年)を再見してビックリした。

都会の女子高校生7名が夏休みに、ある少女の田舎にある伯母の家に泊まりに行く。映画はその少女たちが「家」に襲われるプロセスを描くキュートかつ、時におぞましいホラー映画。少女の生首が出てきたり、演奏中にピアノに食い殺されたりする。
さて、その家に住む白髪の独身の伯母(南田洋子好演)は若い頃婚約者がいたが、その恋人(若き三浦友和!)は太平洋戦争中、飛行機に乗っている時に撃墜されて戦死している。
モノクロ回想で、出征する様子から、映像的にしっかり撮られているし、伯母はずっと愛する者への想いを持ち続けている。
つまり、処女作にもちゃんと反戦のテーマが盛り込まれていたのだ。
監督、本当にすみませんでした!
(それにしてもこの作品は過激で過剰な映画で、大変面白い)

(by 新村豊三)

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