歌に陶酔、人間性に魅了される「パヴァロッティ 太陽のテノール」

30年前、一人でヨーロッパ旅行をしたが最後に立ち寄ったのがイタリアだった。イタリアの街の風景や歴史遺産が気に入り、日本に帰ってからはパヴァロッティのCDを買い求め、イタリア語は何も分からないのに、家で何度も何度も流して聞いたことがあった。
元来音楽にはあまり強くないし、歌詞の意味も全く分からないが、彼の歌唱には心惹かれ、胸にググっと来るものがあって好きだったのだ。あの豊かな声量と叙情。それに加えて、あの大きな体躯、人懐っこそうな目、モジャモジャの髭が良かったのだ。

「パヴァロッティ 太陽のテノール」監督:ロン・ハワード

「パヴァロッティ 太陽のテノール」監督:ロン・ハワード

さて、ドキュメンタリー「パヴァロッティ 太陽のテノール」を見たがとても興味深かった。何も知らなかったパヴァロッティの生涯と人間性が分かる。映画で流れる彼の歌に聞き惚れ、音楽にはこんな世界があるのかと、何だか視野が拡がった気持ちになり、かつ、ラストに至るや、人が生きることの感慨まで感じられた作品。

この映画は、彼の若い頃からの活動と人生を、写真や映像や、様々な関係者のインタヴューで紹介していく、とても分かりやすいポピュラーな構成だ。テンポと流れがとても良く、楽しんで見て行けるが、その中で、テノールとは何かという解説や、どうやってすごい声を出すかという秘訣のようなものもさらりと触れられ興味深い。
加えて、もともとは小学校の先生だったとか、外国に演奏に行くのに20数個のスーツケースにイタリアの食材を一杯詰めていってスタッフにイタリア料理をふるまう、インタヴューにもユーモアで切り返すとか、個人のエピソードがとても面白い。

一番惹きつけられたのは、1990年に3大テノール歌手(ホセ・カレーラス、プラシド・ドミンゴ、彼)が一緒に行ったコンサートと、雨の中行われたロンドンでのコンサート。
前者は、3人が一緒に唄うオペラの「誰も寝てはならぬ」を聴きながら「陶酔」と言っていいほどの感覚を抱く。
後者は、当日生憎と雨が降っていて、参加者が傘をさしているものだから傘に遮られて舞台が見えない。司会者が、濡れてしまうが傘をさすのをやめて聞いてもらえないかとお願いすると、前列にいた故ダイアナ妃がまずその行為を行い、続けて他の観客も続く。パヴァロッティがそのお礼を述べる時の、ダイアナがはにかむ表情はとても印象的だ。これをきっかけとして、二人の交流が始まり、パヴァロッティは、ボランティアやチャリティコンサートを行っていくことになる。

その後、彼の人生が暗転するさまも描かれる(離婚し、かなり年下の女性と再婚したため娘たちとの関係が悪化)。だからこそ、陰の部分、暗い部分も含めて彼の人間性が分かったように思う。
まあ、変な(?)理屈抜きに音楽を堪能できるし、再度書くが、彼の笑顔や太った体形を見ていて全く飽きない。とても興味深く、久しぶりに見終わってパンフを買い求めた

監督は数々の名作(「アポロ13」「ビューティフル・マインド」など)を撮っているロン・ハワードだ。アメリカ人監督だからか、娯楽に徹して、このドキュメントのテンポと言うか、流れがとてもいいのだ。おそらく膨大なフイルムの中から、ピックアップしたのだろうが、万人向けに分かりやすく編集している。

さて、好きな映画をもう一本!

映画「ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK」

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ロン・ハワードはビートルズのドキュメントも監督している。2016年の「ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK」だ。実は今回初めて見たが、愉しくて時間が経つのを忘れてしまうほどだった。

この映画は、63年から66年まで行った国内外でのコンサートを中心に彼らの音楽活動を描いていく(70年に解散)。ジョンを除くメンバーや関係者の証言が挟まる。全編、彼らの初期・中期の瑞々しく力強い歌がたっぷり流れ、もう嬉しくて仕方ない。She Loves You に始まり I’ve got a feeling までファン垂涎の名曲のオンパレードだ(タイトルロールにかかる曲は Eight Days a Week)。
1965年、ニューヨークのスタジアムでの観客5万6千人のコンサートなど、本当に面白い映像ばかりだ。知らないこともあった。ジョンが、自分たちはキリストより有名だと発言したため、アメリカでは排斥運動が起きたり、会場で爆弾騒ぎが起きたりする。我が日本の1966年6月の東京武道館公演では右翼の脅迫があったとは! 昔懐かし右翼の大物赤尾敏氏が街頭でちらりと映ったりする。
女優のシガニー・ウイーバーやウーピー・ゴールドバークも登場して、自分たちのビートルズ体験を語るのもとてもいい。

(by 新村豊三)

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