「アニメを世界に発信する西武鉄道!」という文字が躍る映画の広告を西武線の電車の中で見た。撮影の舞台が、私が住んでいる西武池袋線沿線の駅らしいし、気分転換になるのではないかと軽い気持ちで見に行ったら、なんと、かなりな秀作だったのが「ハケンアニメ!」。
映画って見てみないと分からない。だから面白い。
「ハケン」と言っても「派遣」ではなく、視聴率の「覇権」を取ろうとして、2つのテレビ局が土曜夕方5時のアニメ番組でベテランと新人女性に監督をさせて競う(現実には、5時台に子供のアニメはない。フィクション)。
女性監督は苦労しながらも成長していくというのがアウトラインなのだが、軽い娯楽だけの「スポ根風ドラマ」ではなく、遥かにそれを越えていて、登場人物に惹きつけられ感情移入もしてしまった作品だ。
映画の魅力を上手く伝えられるといいのだが。まず、自分がアニメの制作現場を知らないので、アニメの制作過程や、一般人に届けるためのプロモーション活動(トークショーなどのマルチ展開)、プロデュ―サーや声優との確執など、知らない世界が沢山描かれるのが面白い。
また、意外や、女性監督を演じる主役の吉岡里帆が好演。いい作品を作りたいという一途な思いを貫こうとするが、そのナマでリアルな感情がこちらに伝わってくる。いや、彼女だけでなくて、プロデュ―サーの柄本佑もすごくいい。業界を知り尽くし、クールで辛辣、人を褒めないが実は内面はかなり熱い(柄本の新たな代表作になるのではないか)。
俳優は、皆、存在感がある。吉岡の競争相手であるベテラン監督を演じる中村倫也も悪くない(やや、年齢的には若いのだが、まあ許そう)。彼のプロデュ―サーは尾野真千子。アニメに関わる様々な人が、よく描かれている。今の人が存在している、と思う。リアルな臨場感のある演技と演出になっているのだ。
また、映画の中で描かれるアニメ2作品の質の高さに驚く!その話も面白そうなのだ。リアルな実写の中に、その見事なアニメが撮り込まれている。全く魅了されたと言っていい。
劇中のアニメ監督二人のトークショーもいいし、その演出にも感心した。リアルタイムで、ネットの反応、すなわち投稿された文字がスクリーンに所狭しと出る。今の時代って、現実に、こうなってるの?
さて、アニメではないが、子供のころ大好きだった「ウルトラマン」の映画化、「シン・ウルトラマン」も見た。この映画ヒットしているのか。へえ、と思う。
子供の頃は、当時の少年は皆そうだったと思うが、テレビの「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」が大好きで全部見ていた。大人になってから、もう特に映画で見たいとは思わないけれど。因みに数年前の「シン・ゴジラ」は面白く見たけど、それでも高く評価するという作品でもなかった。
この映画は「子供向け空想科学総天然色映画」、という感じ。見ている時はそれなりに飽きずに見たけど、何にも残らない、そんな映画だった。「シン・ゴジラ」は、原発や災害のメタファーだったと思うが、今回出て来る怪獣たちはそんなものは感じさせない。
しかも怪獣は「禍威獣」と改名され、昔の「科学特捜隊」は、禍威獣特設対策室、略して「禍特対」になっている。
これに公安調査室から出向して加わった長澤まさみが巨大化するシーンは映画として面白かったが。「ウルトラマン」って、3分間しか戦えないというのが好きだったが、21世紀の「ウルトラマン」にはその制限はない。やはり、「新ウルトラマン」だ。
好きな映画をもう一本! 西武池袋線には、椎名町という「漫画」で有名な駅がある。近くには、言わずと知れたトキワ荘があった。手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫、石森章太郎たちが住んでいたアパートである。
1996年の「トキワ荘の青春」を再見してみた。前半はやや散漫だが、後半は、胸に染みるものがあった。監督市川準のスタイルとして、激しく感情をぶつけ合う演出でなく、淡々と、静かにじっと人物たちを見つめるが、その中から、情熱、葛藤、哀しさ、喜びといったものが立ち上がっていく。
登場人物たちが皆、キャラが立っている。寺田ヒロオ役の本木雅弘、赤塚不二夫役の大森嘉之もいいが、意外や藤本弘役の阿部サダヲや、森安直哉役の古田新太がいいのに驚く。この二人は、今や、日本を代表する名個性派俳優だ。
(by 新村豊三)