7月1日に公開された3本が面白い! まず、「リコリス・ピザ」。チラシを見て、ピザ屋で働くお姉さんの話かと思っていたら全然違っていた。
70年代初頭、L.A.のある街に暮らす15歳の少年と年上のお姉さんが一緒に商売をする中で段々と引かれあっていくラブ・ストーリーである。ラブ・ストーリーと括れてしまうわけではないが。何というか、見ていてとても心地よく面白いのだ。
お姉さん(アナラ・ハイム)はスッピン。年齢不詳に見え、ちょっと香川京子に似ている。取り立てて美人ではないけれど。何度も出てくるが、お姉さんと少年が左から右、右から左へ走るシーンがとてもいい。何と言うのだろう、青春の躍動感と言うか。そこに当時の歌が流れる。それもいい。
個性的でユニークな人が登場する。芸能エージェンシーのおばさんや俳優役のショーン・ペンも個性的。一番面白かったのは、商品のウォーターベッドを搬入した時の変なオジさん(ブラッドリー・クーパー)。この男とやり取りがあり、少年が頭に来てしまい、彼の車を叩いて破損させる。逃げようとするとトラックがガス欠になって、前に進めずバックで車を動かしていくシークエンスはサイコーに面白かった。
ユーモアもある。少年が、お姉さんに「裸を見せろ」と言ってチラッと見て、「触らせて」と言って、バチっと頬をぶたれるシーンなんて声を上げて笑ってしまった。
アナラ・ハイムは映画初出演、歌手のグループの一人。監督の高校の音楽の先生の娘さんとのこと。ちょっと太った少年は、あの性格俳優フィリップ・シーモアの息子だった。因みに「リコリス・ピザ」とは実在したレコードチェーン店の名前。
ノルウェー映画はあまり見ないが、この国の「わたしは最悪。」も面白かった。20歳から30歳くらいまで、大学の専攻も幾つも変えてしまう、結婚しても別の好きな男性が出来てしまい一方的に離婚を宣言するお姉さんの話。スタイルが良くて顔もいいから許す。それは冗談だが、なぜかキライにならないキャラのお姉さんだった。風景と撮影がいいのに加えて、演出がいいからだろうか。ある朝、珈琲を入れる夫を見て、突然思い立ち、家を出て、人が皆、動きを止めた街を嬉しそうな表情で走る走る。なんだか悪くないのだ。
ユーモアもある。パーティで出会った男(アダム・ドライバー似)と、ふたりトイレに入り、男は立ちション、このヒロインもおしっこをして、ついでにおならもブーとやる、なんて上手いなあ。感心した。
こういうちょっとポップな進み方で最後まで行って欲しかったが、終盤、やや哲学的になるが、好みでない。もうちょっと他に手がなかったか。
このオスロの街には魅せられた。ヒロインが勤める本屋の撮り方もとても心地よかったが、オスロの風景がいいなあと思う。いつか訪れてみたいと思う。
好きな映画をもう一本!「エルヴィス」もとてもいい。54年生まれの僕はプレスリーなんて、ダサくて、古くさい、品のない歌手だと思っていた。この映画を見て、描かれていることが真実ならば、認識を改める必要がある。
バズ・ラーマン監督の派手で、カラフルで、情報量が多くて、キラキラギラギラする画面にちょっと戸惑う場面もあるが、話も面白いし、演出も素晴らしい。
プレスリーの音楽が、黒人のソウルやゴスペルに影響を受けているというのは驚きだった。彼がわずか42歳で死ぬまでの活動を、マネージャーだった「大佐」の視点で描いていく。大佐はトム・ハンクスが演じる。
エルヴィス役のお兄さんがとてもいい。好ましい。この映画では、何度か、ステージのシーンが描かれるが、最初の、紫色のコスチュームで腰をくねらせ歌うシーンがまずいい。カメラは股間を映す。若い女の子達の、正に黄色い声。エルヴィスが画面左にいて、右に熱狂したファン達の伸ばした手、手、手。見事に構図が決まっている。
後半、ベガスのインターナショナルホテルで、昔のやり方に戻って、白のコスチュームで歌うステージも良かった。長いシーンに、「大佐」の契約の駆け引きを重ねる上手い演出ではないか。
そして、痛ましいなあ。やはり、奥さんと上手く行かなくなり離婚、ドラッグに溺れていく。。
時代背景も描かれるが、マーチン・ルーサー・キングやロバート・ケネディが暗殺される激動の時代だ。日本でも、先日、元首相の暗殺があったから余計に生々しい。
(by 新村豊三)