是枝裕和監督の話題作「ベイビー・ブローカー」と、早川千絵監督の「PLAN75」

今年は、あの2002年日韓共催ワールドカップから丁度20年になる。韓国がベスト4まで勝ち上がり、日韓がサッカーで大いに盛り上がり、お互いの国への理解が進んだ年だった。勤務先の学校では、この年からソウルの高校と交流が始まった。あれから20年経って日韓の外交関係は戦後最悪。どっこい、文化としての韓流は定着した。韓国映画は高く評価され、歌手グループBTS、そして「愛の不時着」「イカゲーム」等ネトフリドラマの人気も高い。食文化も受け入れられ、民間の文化交流は続いている。

監督:是枝裕和 出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ他

監督:是枝裕和 出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ他

さて、2018年カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を取った是枝裕和監督が韓国で撮った新作「ベイビー・ブローカー」が面白い。2019年にカトリーヌ・ドヌーブ主演で「真実」という作品を撮ったが、あまり面白くなかったので、外国で監督をすると上手く行かないかと、若干危惧したのだが、この新作は話も面白いし、主演のソン・ガンホがカンヌで主演男優賞を取ったように皆の演技もいい。

韓国版「赤ちゃんポスト」の赤ちゃんを巡る話だ。韓国には日本の10倍ほどの赤ちゃんポストがあるそうだ。露骨さにかけては身もふたもない韓国だが、その赤ちゃんを、子供のいないカップルと交渉して高く売りつけてお金を得ようとする中年男(ソン・ガンホ)と若者のロードムービー。二人の車に、赤ちゃんと、赤ちゃんを産んだ若い母親が同乗して韓国国内を移動して行くのだ。

この映画が秀逸なのは、若い二人の女性警官が追う2重構造になっていることだ。一人は、2009年の「空気人形」(日本)で主演したぺ・ドゥナ、もう一人はドラマ「梨泰院キャッスル」、映画「野球少女」に出演したイ・ジュヨンだ。警官二人は、赤ちゃん売買の現場を押さえて検挙したいのであるが、なかなかうまく行かない。赤ちゃんを買う方、売る方、双方の条件が折り合わず、売買が成立しないのだ。
中年男には犯罪歴があるし、若者も施設出身。若い母親も、売春をさせられている。登場人物もそれぞれかなり不遇な人生を生きている。誤解が無いように書いておくと、この映画は喜劇的側面も持ち、随所に笑えるシーンがある。人間の可笑しみがあるのだ。例えば、乗る車は、中年男が営むクリーニング屋の配達用のバンだ。生活と仕事の匂いがする車で犯罪行為を行おうとするアンバランスが可笑しい。また途中から乗ってくる施設の天真爛漫な少年も楽しい。
見ているうちに、段々、是枝監督の「万引き家族」に似たテーマが浮かび上がる。血のつながりが無くても疑似家族でもうまく行くのではないか。やはり、人間っていいもんじゃないかと思わせたりするのだ。

ご贔屓ソン・ガンホがカンヌで主演男優賞を取り、それはそれでお目出たいことなのだが、彼が格別上手いとは思わなかった。上手くて当たり前の人である。そうじゃなくて、全体の演技のアンサンブルというか、皆がとてもいいのだ。未婚の母役のイ・ジウンなんて、韓国で「国民の妹」と呼ばれる人気の歌姫だそうだ。
是枝は面白いシナリオを書いて、よく、異国の地である韓国できちんと演出をしたなあと感心する。日韓合作と言うより、是枝が単身(ほんの数人日本人スタッフがいるが)、韓国映画界に乗り込んで作った作品である。
偶然放映されたNHKの番組で知ったが、撮影監督に綿密な絵コンテを渡し撮影している。そこには、演出の狙いも書いてあり、撮影監督は、絵コンテに監督の考えが具現化されている、と語っていた。なるほど、こんな手があるのか、と思った。

「PLAN75」監督:早川千絵 出演:倍賞千恵子ほか

監督:早川千絵 出演:倍賞千恵子ほか

さて、好きな映画をもう一本! 同じカンヌ映画祭で、新人監督に与えられるカメラ・ドールの特別賞を受賞した早川千絵監督の「PLAN75」も面白かった。75歳になると、国家が尊厳死を行う制度が始まっている日本の近未来が舞台だ。主役は倍賞千恵子(好演)で、団地に暮らし、夫と死別し子供もなく、派遣の仕事も打ち切られ、友達も孤独死するという状況でこの制度に加入する。リアルで、近未来と言っても、今の時代の様だ。

中心になる人物が3人いる。倍賞以外に、その制度の担当事務を行う若者(磯村勇斗)、フィリピンから来て日本で働く女性。この3人が終盤までほどんど交わらないのが面白い。
シナリオも書いて、的確な演出で、この新人女性監督、なかなか健闘している。終わり近くまでは、かなり面白く見た。惜しいかな、ラストがやや甘いというかよく分からぬ作りだ。

(by 新村豊三)

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