今年もあっという間に年末、年の瀬だ。今年最後の回をハッピーで当たり障りのない(?)映画で終わらせようかと思ったが、今年見て、啓蒙され、新しい視野を与えてくれた2本の記録映画があり、遅ればせながら紹介したい。
70歳近くになっても、よく知らないことが多々あり、「部落問題」もそのひとつだった。この文章を読んで下さる方が興味を持たれて映画をご覧になってほしいと思う。きっとより良き社会作りに繋がると信じるからである。
2本とも小難しい映画でなく、分かりやすく柔らかい印象を与えるのがいい。まず、「私のはなし、部落のはなし」だ。まだ30代の満若勇作監督(大阪芸大卒。原一男監督の教え子)が、プロデューサー大島新(大島渚監督の子息)と組んで製作した。
関西3地域の部落出身者の座談会、京都の被差別部落で暮らした高齢の女性へのインタヴュー、大学の先生による差別発生の歴史の説明、同和教育推進者の発言など、様々な角度から差別の過去・現状にアプローチしている。結果的にこちらがこの問題について包括的に学習できるのがいい。
反対の立場に立つ人物までも登場させている点にはビックリした。ビックリしたが、だからこそ、この映画の厚みが増している。世の中にはひどい人間もいるものである。強烈にええっと思ったのは、「部落情報」をネットにさらけ出すMという男が登場することだ。
たまたま、文藝春秋で1月号から11月号まで「部落解放運動」研究の連載があり、彼の事を詳細に述べた10月号、11月号は大いに参考になった(実名で出ている)。長野県の国立大を出て、東京でコンピュータ会社を経営しているのだが、1975年に出された「全国部落調査」という、全国のどこに部落があるかを記述した本を勝手にネットに挙げて誰でも閲覧できるようにしたのだ。現在、その復刻版発行差止めと賠償の裁判が行われている。(連載では、筆者は一審の東京地裁の判決は部落差別の本質を理解していない、と断言している)
連載で驚いたのが、今でも、結婚にあたり身元調査をする際に部落出身かどうか調べる人がいる、という事実だ。かなりいるようだ。この調査を依頼すると調査費が100万~200万に跳ね上がり、調査に協力したある行政書士(役所で戸籍を調べられる)は6年間で7000万円以上の報酬を得ているし、名古屋の探偵会社は12億円を荒稼ぎしていたそうだ(!)。
映画で説明されていたが、その由来は、先祖が犯罪を行ったわけじゃないし、動物の解体をやって精肉を提供しただけじゃないか。というか、そういう人のおかげで肉が食べられてきたんだぞ、それを忘れんな!そう、言いたいけど、届かない人には届かないんだろうなあ。
これからどうすればいいのか。希望を感じさせたのは、箕面市の出身中学校に集まって話し合う3人の若者だ。一人だけが部落出身で、他の二人は彼が部落出身であったことを知らなかった。気にしないでいいのでは、と友人は言うし、当事者は差別には「闘う」と答える。3人は、複数回会って話すのだが、少しずつ当事者の発言が変わって行ったと思う。その揺れがまた若い人らしい。今の当事者の彼には、ともかく、悩みや不安を語れて聞いてくれる友がいる。これまでのように沈黙していた時代とははるかに違うと思う。若い人が無知偏見から脱して変わって行くしかない。また、教育機関で若い人に教えていく方がいいだろう。今の時代、ネットで中途半端に「寝た子を起こす」状態になっているのだから。
好きな映画をもう一本! 2013年の記録映画「ある精肉店のはなし」も優れた作品だ。大阪貝塚市の被差別地域の中の精肉店の一年を通じての仕事、家族の生活を丁寧に描く。
自分たちで牛を育て、屠畜を行い、解体し販売している。家族総出で仕事をする皆さんたちが明るい性格で人間的魅力がある。盆踊り、だんじり祭りに参加する様子も描かれ、時折ユーモアが生まれる。この映画でも、被差別部落の歴史や人々の生活を知ることが出来る。
600キロもある牛を屠畜して解体する作業(全て手作業だ)、祭り太鼓の皮の張替えの作業は、それ自体がとても興味深い。牛は、肉、内臓、皮と、捨てるところなく利用される。見ながら、改めて、我々は動物の命をいただいて生きているということを実感する。40代の女性纐纈(はなぶさ)あやが監督。残念ながらDVDは出ていない。
(by 新村豊三)