現代中国を生き生きと描いた中国映画「シスター 夏のわかれ道」と香港映画「七人樂隊」

「シスター 夏のわかれ道」という、大変面白い中国映画を観た。チャイニーズ・ニュー・シネマと呼びたいような映画で、経済が成長した中国のリアルな人々が登場し今の中国を見せてくれる。表現の質もとても高い。昨年中国で公開された時、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の興行記録を超え、この映画が社会現象にもなったそうだ。

「シスター 夏のわかれ道」監督:イン・ルオシン 出演:チャン・ツィフォン シャオ・ヤン他

「シスター 夏のわかれ道」監督:イン・ルオシン 出演:チャン・ツィフォン シャオ・ヤン他

中国の地方都市で看護師として働く主人公アン・ランは優秀で北京の大学院の進学を目指している(大学は看護学部を出ている)。そこに、不仲だった両親の交通事故の後、全く疎遠だった6歳の弟が突然現われ、この子を自分で育てるために進学を諦めるか、他人に委ねて進学するか、選択を迫られる。(中国は「一人っ子」政策だったが、アンは親に身体障害のふりをさせられた。障害の子の場合、もう一人子供が許される)。
選択肢として養子に出すという道もある。様々な親戚も登場する。とても人間臭く、中には意外な過去を持つ伯父叔母もいる。弟の問題を巡り話が展開するが、大きなテーマは、女性が「家」に縛られず自立しようとする葛藤なのだ。あの中国にも出て来たのか(!)と思ってしまったが、このテーマゆえに映画は反響を呼んで、彼女の最終的選択に関して賛否が巻き起こったのだ。

食堂を営む叔母は、若い頃ロシア文学を志し、モスクワに留学に行ったものの、すぐに親が亡くなり、家族を助けるため勉強を断念し、中国に戻って働いてきた。自分の人生を犠牲にして家族の都合を優先させたのだ。留学を続けていたらもっと違う人生が開けていただろう。私は中国からソ連への留学が行われていた事実を知らなかったが、映画の中で、その叔母が、ロシアから持ち帰った古びたマトリョーシカ人形を手に持ち、忘れるはずもないロシア語を呟く場面には胸が詰まった。スパシーバ、ダスビダーニャといった言葉である。それぞれ、「ありがとう」「さようなら」という意味だ。

養子希望の裕福な家庭、生活に余裕のない交通事故のドライバーの家庭など、さまざまな階層が登場する。我々と変わらぬ等身大の普通の中国人が描かれる。主人公の女の子は感情の深いところまで、繊細にデリケートに描かれている。それがいい。このヒロインを始めとして、弟、親戚など皆演技がいい。主役の女の子は、今年のベスト女優に是非挙げたい程だ。
弟が通う幼稚園、ヒロインが勤務する病院も映画に出て来るが、こんな風になっているのだと中々に興味深い(まあ、ほとんど、日本と変わらないが、当然か)。
残念ながら、一本の映画としては決定をくだすラストがダラダラと続き過ぎた。それが、弱点だ。
常々、自分は今の時代の「普通」の中国人の、生活、風俗、考え方を描いた映画を観たいと思っていた。中国を代表する映画作家ジャ・ジャンクーは秀作も多いが、時にアート過ぎてペダンティックというか、高踏でありすぎる。だからこそこちらの映画の方が好きだ。

制作:ジョニー・トー 監督:サモ・ハン アン・ホイ パトリック・タム他

制作:ジョニー・トー 監督:サモ・ハン アン・ホイ パトリック・タム他

好きな映画をもう一本! 香港の庶民を描いたオムニバス映画「七人樂隊」も面白かった。ジョニー・トー等の実力派七人の監督が、1960年代から10年ごとに、香港の事情・風俗・社会を背景に人間ドラマを撮っている。テンポよく軽く撮ってあるが、それなりに面白い。
60年代は少年少女の京劇の練習の様子、70年代は小学校の先生の思い出、80年代はリッチな時代の初々しい若い男女の別れ、90年代はクンフー好きの爺さんと孫娘の交流、2000年代は投機に振り回される若者、2010年代、香港のダウンタウンにやって来て道に迷う初老のオヤジ、そして、精神病院での患者と医者のねじれた対話を描く近未来だ。

香港の時代ごとの変化がよく理解できる。懐かしく素朴な暮らしをして、暖かい人間的な交流があった頃から、リッチだが拝金主義で、ドライな人間関係になってしまった。
2010年代の、道に迷った初老のおじさんの話が特に面白い。街があまりに変わってしまっていて、待ち合わせの場所にたどり着けない。若い頃のランドマークだった場所(「皇后劇院」という名の映画館)はアパレルGAPの現代的ビルに建て替わっている。この迷う彼は自分にも重なるような気になった。
尚、香港と言えば、2019年に学生や市民が民主化を求めて大規模なデモを行ったが中国共産党に潰されてしまった。その様子を描いた記録映画や実写がある。この映画については、また来年に紹介したいと思う。

(by 新村豊三)

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